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第67回NHK杯1回戦解説記 菅井竜也七段VS三枚堂達也四段 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第14局
2017年7月2日放映

 

先手 菅井  竜也 七段
後手 三枚堂 達也 四段

 

ここまでの流れを簡単に振り返ると、

後手が銀冠穴熊に組みに行く。
     ↓
それを阻止するために先手が2筋から動く。
     ↓
2筋の折衝で後手は銀冠穴熊を阻止されたが、代償に持ち歩を得る。
     ↓
その持ち歩を活かして仕掛けを決行。
     ↓
後手の仕掛けが成功し、第8図に至る。

という感じです。

ここでの私の第一感は△6七歩で、以下、▲6九歩△6八歩成▲同歩△9八竜で香を取って、将来の△2六香を楽しみにする手が有力かなと見ていました。他には△2六歩も魅力的ですね。具体的な狙いは無いのですが、玉頭の拠点は確実に寄せに役立ちます。

三枚堂四段は△6八歩(青字は本譜の指し手)と打ちました。これは先述した△6七歩と似たような意味ですね。と金攻めを受けることが難しいので菅井七段は▲4四歩と敵陣に嫌味を着けて紛れを求めます。以下、△6九歩成▲7七角△同竜▲7五歩と進みました。(第9図)

 

この▲7五歩が辛抱強い一着です。直前に▲4四歩と突いているので攻めを選びたくなりますが、激しい斬り合いは穴熊の土俵です。先手としてはもっと条件の良い状況で攻め合いに持ち込みたいので、じっと辛抱する手を選びました。歩のような価値の低い駒で大駒の効率を悪くさせる手は非常に価値が高く、これはどんな戦型でも応用が利きます。身に着けておきたい技術の一つですね。

快調に指してきた三枚堂四段ですが、ここで本局で初めての悪手が出てしまいます。それが△7六角でした。4九金に狙いを定めながら▲5四とを防いだ意味ですが、ここに角を投資したのはもったいなかった印象です。代えて△7九竜と入って、シンプルに△5九とからのと金攻めを狙えば後手が優勢でした。

△7六角は攻防に利くポジションにいますが、攻めに関して言えば明確な狙いはありません。よって、先手はここが反撃に転じるチャンスです。菅井七段は▲4三歩成△同金直▲2四桂△同銀▲同歩△2二歩▲4四歩と激しく攻め立てます。小駒だけの攻めですが、後手は受けに適した駒を保持していないので受け切るのは容易ではありません。(第10図)

 

この叩きの歩も対応が悩ましいですね。攻めの種を残さないようにするのなら△4四同金と応じますが、囲いから金が離れてしまいます。本譜は△3三金寄と堅さを維持しましたが、菅井七段は▲2五桂と追及の手を緩めません。三枚堂四段は△4四金と逃げましたが、こうなると▲2五桂を無条件で跳ねさせたので少し損をしました。何か誤算があったのかもしれません。

菅井七段は▲4一銀△4二金▲3二銀打と絡みついて、後手玉にプレッシャーをかけました。穴熊相手に競り勝つには、ゼットを解除するのがコツです。(第11図)

 

第11図で形勢判断をしてみましょう。

玉型は先手が先手良し。堅さも広さも相手より勝っています。

駒の損得は、銀銀と角桂の交換なので、ほぼ互角。

駒の効率は、先手は遊び駒がありませんが、後手は二枚の角があまり機能していません。特に△8四角がほぼ、無価値ですね。

総合的に見ると、先手が優勢と考えられます。後手は第8図では駒の効率が抜群だったのですが、それを上手く活かせなかったので形勢を悪化させてしまいました。

前述したように後手は二枚の角が働いていないので、三枚堂四段は△7三角と引きました。以下、▲5五歩△6五角と進みます。ぬるいようでも、この角を使わないことには勝機が見出せません。

手番が回ってきた菅井七段は▲2三歩成と寄せに向かいます。代えて▲4三歩も有力でしたが、△4一金▲同銀不成の局面が、後手玉が桂ゼット(桂さえ渡さなければ絶対に詰まない)になってしまうのを嫌ったと思われます。以下、△同歩▲同銀成と進みました。(第12図)

 

三枚堂四段は△4一金と指しました。タダの銀を取るので当然の一手に思えますが、この手が敗着です。代えて△3一桂と打つ手が勝負手でした。同じような意味合いで△2二歩もありますが、△3一桂の方が遥かに勝ります。理由は後述します。

△3一桂に対して先手は成銀取りを対処しなければいけませんが、▲3二成銀とすると△4一金▲同成銀△2二玉で後手玉を捕まえることができなくなってしまいます。これが△2二歩よりも勝る理由です。したがって、△3一桂には▲3二銀成が最善ですが、△2三桂▲4二成銀に△2七歩が厳しい叩きの歩です。(A図)

 

ここに歩が打てるのも△3一桂と打った利点ですね。

▲同銀は△4七角成、▲同玉は△3五桂打が厳しいので▲1七玉と逃げるしかありません。以下△6二角▲3二成銀△2二銀が進行の一例でしょうか。若干、先手が勝ちやすそう気はしますが、これなら激戦が続いていたと思います。

本譜は△4一金に▲2二歩と打てたのが大きいですね。穴熊が修繕できない形になっているのが痛いのです。三枚堂四段は△2七歩と叩いて綾を求めますが、強く▲同銀と応じたのが好手でした。(第13図)

 

後手は4七の金を取ることができます。しかし、△4七竜は詰めろにならないので、▲2一歩成△同玉▲2二歩△3一玉▲3三成銀で先手勝勢です。(B図)

 

次に▲2三桂の詰めろですが、それを受けると▲4七飛がまた詰めろなので、後手は処置のしようがなくなっています。

本譜は△4七角成と角で金を取りました。これは△4六馬以下の詰めろですが、角を渡す攻めなので、▲同飛△同竜▲2一歩成△同玉▲3三桂不成△3一玉▲4一桂成△同玉▲7四角で王手竜取りがかかりました。(第14図)

 

三枚堂四段は△5二銀と受けましたが、▲4七角と竜を取った局面は、玉型が大差で先手勝勢です。▲3一飛以下の詰めろで手番を握っているのも大きいですね。

本譜は▲4七角に△5一玉と早逃げして粘りを見せますが、▲7四歩△9五角▲6三歩と寄せの網を絞ります。右辺は成銀が押さえているので、左辺から手を着けるのが正しい寄せになります。「玉は包むように寄せよ」ですね。

第14図からから十数手進んだ局面がこちらです。(第15図)

 

相手が見慣れた形の玉型だと寄せるのは難しくないのですが、このように囲いが崩壊していると逆に何が急所か分からなくなってしまう方は多いのではないでしょうか。

そういった状況の対処法の一つに、敵陣のなかで、最強の守備駒を狙うという考え方があります。この場合だと6三の竜ですね。

菅井七段は▲6四歩と打ちました。三枚堂四段は△1六歩と先手玉に迫りますが▲2七玉で後続がありません。止む無く△6四竜と手を戻しましたが、竜が移動したので▲7二金を打つことができました。(第16図)

 

次の▲4二成銀がすこぶる受けにくいですね。本譜は△4三金と抵抗しましたが、▲4二歩と打たれて後手玉は必至です。その局面で三枚堂四段の投了となりました。

 

本局は三枚堂四段の序盤が上手く、仕掛けも成功させて優位を築きました。しかし、そこから簡単に負けにならないのが菅井七段の強さです。反撃に転じてからは相手を寄せ付けなかったですね。穴熊相手でも競り勝ってしまう技術の高さが印象に残りました。

ではでは、お暇致します。ご愛読ありがとうございました!

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