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~これぞ捌きのアーティスト~ 第68回NHK杯解説記 今泉健司四段VS久保利明王将

久保

今週は、今泉健司四段と久保利明王将の対戦でした。

 

今泉四段は振り飛車党で、対抗形の将棋を好むタイプです。棋風は受けで、厚みを重視する力強い指し回しが特徴ですね。

二回戦では深浦康市九段と戦い、居飛車穴熊を攻略して三回戦へ勝ち進みました。 ~居飛穴なんて怖くない!~ 第68回NHK杯解説記 深浦康市九段VS今泉健司四段

 

久保王将は振り飛車党で、棋風は攻め。軽快な捌きと強靭な粘り腰という、相反する性質を併せ持つ稀有な棋士です。それがトップに君臨されている秘密でしょうか。

二回戦では阿久津主税八段と戦い、向飛車から速攻を仕掛けて快勝しました。 ~振り飛車は左桂の捌きが命~ 第68回NHK杯解説記 阿久津主税八段VS久保利明王将

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯3回戦第6局
2019年1月13日放映

 

先手 今泉 健司 四段
後手 久保 利明 王将

序盤

 

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

久保

戦型は、後手の角交換振り飛車。対して、先手は飛車先の歩を▲2六歩型で止めていることが工夫です。

この戦型は、居飛車側が後手の桂頭を狙って3筋から仕掛ける展開が多いです。ゆえに、飛車先の歩は省略しても良いというコンセプトですね。

 

今泉四段は、▲7七角△4二銀▲5七銀と指して、さっそく3三の桂に照準を定めます。そこで後手には様々な候補がありますが、△2四歩が思い切った一着でした。(第2図)

 

久保利明

なぜ、この手が思い切っているのかと言うと、囲いを後回しにしているからです。確かに、▲2五歩を保留している手を咎めていますが、3筋を強化している訳では無いので、備えが一手遅れてしまう懸念もあります。序盤の勝負手と言えますね。

 

今泉四段は、▲4六銀△3二金▲3六歩で、着々と桂頭を攻める準備を進めます。対して、△5四歩がこの戦型における受けの形ですね。(第3図)

 

久保

ここで▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛けるのは、△6四角▲4六銀△4四歩が用意の迎撃策です。(A図)

 

久保

ここから▲同角△4五歩▲3七銀が進行の一例ですが、こうなると先手は銀が撤退してしまうので、仕掛けが逆用されている感があります。

A図のような展開は、居飛車が避けるべき展開の一つですね。

 

本譜に戻ります。

このような背景があるので、本譜は▲6八銀と上がって、囲いを整備します。ただ、そこで△6二角が先手の思惑を打ち崩す角打ちでした。(第4図)

 

この手は、△2四歩型だからこそ成立する一手です。というのも、もし[▲2五歩・△2三歩型]の場合でこれを打つと、▲3五歩△同歩▲7九金のような指し方があるからです。(仮想図)

 

後手は△4四歩と突きたいのですが、その瞬間に▲3五銀で進軍されてしまいますね。しかし、△4四歩が突けないと、桂頭を守る手段がありません。先手は最適なタイミングで▲5五歩から歩を入手すれば、桂得が期待できます。

 

しかし、本譜の場合なら話は違います。(第4図)

なぜなら、ここで▲3五歩△同歩▲7九金と指しても、△2三金→△3四金で3筋を補強できるからです。

という訳で、今泉四段は仕掛けを諦めて▲8八玉△8二玉▲7八金△7二銀▲3七桂と持久戦へシフトしました。

しかしながら、△2一飛と引いた局面は、後手は仕掛けを防ぎながら2筋の均衡を保つことを実現したので、こうなってみると△2四歩を突いた甲斐は大いにあったという印象です。(第5図)

 

とはいえ、先手は急戦ができなくなったというだけであり、まだまだ互角の範囲内です。

今泉四段は、▲5九金△9四歩▲7九銀と指して、堅陣の構築を目指しました。▲7九銀は手損ですが、局面の流れが緩やかなので、その損が露呈するリスクは低いと言えます。

 

以下、互いに陣形整備を進め、第6図の局面を迎えます。

今泉四段は▲9八香と上がり、穴熊を目指します。後手も指をくわえてそれも眺めている訳にはいかないので、久保王将は△4五歩▲5七銀△5五歩と仕掛けを決行しました。いよいよ、中盤戦です。(第7図)


中盤

 

ここで一番、やってはいけない手は▲5五同歩△同銀▲5六歩です。それは、△4六歩が習いある手筋で、4筋を突破されてしまいますね。

 

したがって、今泉四段は▲2五歩△同歩▲同桂で2筋に戦線を広げました。以下、△2一飛▲2六歩△2五桂▲同歩と進みます。(第8図)

 

後手にだけ歩を手持ちにされて面白くないようですが、強制的に飛車を2筋に移動させたことで、△5五歩を緩和したことが先手の言い分です。また、3三の桂を盤上から消去したことで、将来の▲5五角を効果的にした意図もあります。

 

久保王将は、△3五歩▲同歩△3六歩と追撃の手を緩めませんが、▲5九角がしっかりした応接でした。(第9図)

 

駒が下がってしまい屈服しているようですが、△9五歩▲同歩△8五桂という端攻めを緩和しているので、案外、都合の良い受けになっています。

 

何はともあれ△3五角と捌きますが、▲5五歩△同銀▲5六歩△6四銀で5筋をケアしてから▲3八飛が小味な揺さぶり。次の▲3六飛は許せないので△3七桂で堰き止めますが、後手が桂を手放したので、▲7七角と元の位置へ戻る手が味の良い活用ですね。(第10図)

 

ここまでは、後手が穴熊を阻止するために果敢に動き、先手がそれを受けているという構図が続いています。ただ、後手は攻めの手を選んでいる限りは、3二の金を活用する目処が立ちません。

この金が戦場から離れていては勝ち目がないので、久保王将は△4三金と指しました。しかし、一手緩んだので、先手は好きな手を指すことができる状況です。

当初の方針を貫くのであれば、▲9九玉で穴熊に潜る手はあったでしょう。

今泉四段は、▲6五歩△同銀▲4六歩という手順を選びました。これは、角の働きに差を着けようという狙いですね。(第11図)

 

△4六同歩は▲4八飛が絶好の切り返しになるので、久保王将は△2五飛▲1一角成△2七飛成▲6八飛△4九桂成で、飛と桂の活用を優先します。

お互いに大駒が成り込み、敵玉の寄せに向かう段階に入りましたね。(第12図)


終盤

 

さて。結論から言えば、この局面が本局最大の勝負所でした。

後手は次に△3七歩成や△4六歩で、と金攻めを目論んでいます。よって、それから遠ざかるために、▲6六銀とぶつけてみたいところでした。(B図)

 

以下、△同銀▲同馬△4六歩▲7五歩が進行の一例です。最終手の▲7五歩は、次に▲7四歩△同歩▲8六桂というコビン攻めが狙いですね。(C図)

B図及びC図は、先手がはっきり良いという訳ではありませんが、兎にも角にも先手は5七の銀を捌いて、と金攻めを緩和するべきでした。

 

本譜に戻ります。

実戦はここから▲7七桂△7四銀▲5五馬と進んだのですが、△4四金で馬を追われたときに、先手は対応に困ってしまいました。(第13図)

 

馬を逃げるなら▲6六馬しかありません…が、6六の地点を塞ぐと△3七歩成の威力が増してしまいます。先手は5七の銀が負担になっていますね。

 

今泉四段は、▲2八歩△3七竜の交換を入れてから▲6六馬と指しましたが、今度は△4六歩の取り込みが厳しく、状況はなかなか好転しません。(第14図)

 

先述したように、先手は6六の地点を塞いでしまったことが、致命的なのです。この局面は、5七に銀がいるお陰で、次の△4七歩成が猛烈な厳しさになっています。

今泉四段は、▲3八香と打って必死の抵抗を見せます。△2六竜なら▲4六銀△同角▲4四馬で、と金の猛威をかいくぐれますね。しかし、△4七竜が冷徹な一手。▲4六銀を阻止されると、先手は手段に窮しています。(第15図)

 

先手は5七の銀を使わないといけないので、▲5五歩△5九成桂▲5六銀と指しましたが、△4九竜▲3六香△2六角と進むと、今度は飛車が息苦しくなってきました。(第16図)

 

飛車を助けるためには、6筋で渋滞している駒を処理しなければいけません。今泉四段は、▲5四歩△同金▲7五歩△8三銀引▲7六馬で、手番を取りながら馬を移動させましたが、△6四金で囲いが強化できるので、後手は腹が立たないですね。

 

この辺りの久保王将の指し手は、他力を利用することでリードを拡大しており、まさに振り飛車の理想的な展開と言えます。(第17図)

 

先手は▲6六金△1九竜▲6五銀と攻め駒を繰り出しますが、△6九成桂が痛烈。▲6七飛と逃げると、△6五金▲同桂△9九銀で仕留められてしまいます。(D図)

 

ゆえに、▲6九同飛△同竜はやむを得ない進行ですが、3七に打った桂が飛車と交換になったので、決定的な差が着いたという印象です。(第18図)

 

▲5六桂は攻めて一太刀といったところですが、△6五金▲同桂△5九角成で、久保王将は収束に向かいます。以下、▲6八歩△8五銀が手厚い寄せです。

先手にとって、拠り所となる駒は7六の馬なので、それを盤上から消し去ることが、最短の勝ち方と言えますね。(第19図)

 

▲6七馬△3七飛と打って、やはり馬をターゲットにします。

今泉四段は▲7七桂と指して粘りますが、△7六香が痛打。▲同金は△6七飛成で先手は受けがありません。(E図)

 

したがって、△7六香に▲同馬は止む無しですが、△同銀▲同金△5八馬で先手玉は一手一手の寄りとなりました。(第20図)

 

後手は大駒を全て保有しており、自陣も安泰なので完全無欠な状態でしょう。先手は主力であった馬が消えてしまい、もはや手段が尽きています。

玉が詰むまでは、まだ手数が掛かりますが、勝負の帰趨は明らかです。以降は、数手ほどで久保王将が押し切りました。

 


 

本局の総括

 

  • 序盤は、急戦を封じたので後手まずまず。だが、先手が穴熊を目指したのが良いリカバリーで、均衡の取れた局面が続く。
  • 中盤は難解な小競り合いが展開された。後手は3七に桂を打たされて、やや不安が募っていたが、結果手にはこの駒が大車輪の活躍を見せることに。
  • 先手は第12図で▲6六銀と指したかった。本譜は▲7七桂と跳ねたが、そこまで大きな効果が得られなかった。
  •  △4六歩と取り込んで、と金攻めが約束されたので、後手がはっきり優位に立った。その後は上手く他力を利用して、全ての駒を捌き切った。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



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