元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(7月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。今日は七夕ですね。自分に関する願いごとは特に思い浮かばないのですが、このところ大雨の被害が甚大な地域が多いので、平穏な天候になってくれればという感じですね。

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。 プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(6月・振り飛車編)

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.6/1~6/30)

 

調査対象局は48局。相居飛車と比較すると数は少ないものの、平均的な数字に戻ってきました。順位戦ばんざい\(^o^)/

 

 

先手中飛車

復活の気配…!


13局出現。6月は振り飛車の中では最も多く指された戦法で、復権の兆しが漂っています。数か月から角道不突き左美濃に苦労していたのですが、最近の将棋を見ると、徐々に対抗策を打ち立ててきた感があります。(第1図)

 

2018.6/27 第31期竜王戦3組昇級者決定戦 ▲西川和宏六段VS△中村太地王座戦から。

角道不突き左美濃に対しては、美濃囲いで対抗するのが基本姿勢です。穴熊では太刀打ちできません。理由は、こちらの記事をご覧ください。

第1図から△7五歩▲同歩△同飛と動くのは、▲6六角△7四飛▲7八飛で反発すれば大丈夫。飛車交換は、飛車を打ち込まれる場所が少ない先手に分があります。

中村王座は△6三銀▲5六銀(青字は本譜の指し手)で先手陣が上ずったのを見て△7五歩▲同歩△同飛と動きましたが、▲4五銀と自然に銀を進軍させて先手満足の展開です。(第2図)

 

後手は次の▲5四歩を受ける術がありません。駒の損得はまだありませんが、スムーズに5筋から攻め駒を交換できる形なので、中飛車ペースと言えるでしょう。

このように、美濃囲いに組んで足早に動いていくことが角道不突き左美濃に対して有力な手段となります。互角の捌き合いになれば、△3一玉型が一路近い位置にいることや、△2二角が壁駒として残りやすいデメリットがクローズアップされます。

類似局として、このような事例もあります。(第3図)

 

2018.6/7 第66期王座戦挑戦者決定トーナメント ▲菅井竜也王位VS△渡辺明棋王戦から。

△3三歩型ではありませんが、こういった局面は実戦で頻出すると思います。

ここから菅井王位は▲4六歩△3三角▲4五歩と積極的に動いて行きます。△2二玉と入城される前に仕掛けるのが急所ですね。(第4図)

 

本譜はここから△4三金▲6六歩△7三桂▲6八飛……で中盤戦へと入っていきました。形勢は難解ですが、△3一玉型の状態で戦いになれば、中飛車側は玉型の差を主張できます。

以前は中飛車側が受け身の格好(▲6六歩で角道を止めたり、▲6六銀型に組んだりなど)をすることが多かったのですが、ここ最近は▲5六銀型に組み、攻め味を見せる指し方が多くなっています。この工夫が功を奏しており、中飛車側も互角に渡り合っている印象を受けます。

 

したがって、居飛車側も違う作戦を模索しています。(第5図)

 

2018.6/28 第77期順位戦A級1回戦 ▲久保利明王将VS△広瀬章人八段戦から。

後手は銀を二枚繰り出す急戦ですが、△4四銀型を優先しているのが最近のトレンドです。これは、▲6六銀型の将棋に誘導されないようにした意味があると思われます。(A図)

後手の狙いは、△7三銀→△6四銀と銀の圧力で、5五の歩を負担にさせることです。第5図から▲5七銀は△5五銀で歩を取られてしまうので、本譜は▲5四歩△同歩▲同飛で歩を交換しましたが、△5三銀上から後手の押さえ込みが始まります。(第6図)

 

▲7四飛は△7三歩▲7五飛△6四銀で先手の飛車が狭いので、▲5九飛は妥当ですが、△6四銀▲6六歩△5五銀右とぐいぐい銀を繰り出すのが好着想で、後手の作戦勝ちになりました。(第7図)

 

△4六銀は許したくないところですが、▲5七銀では7六の地点がお留守になるので△7五歩▲同歩△7六歩▲6八角△5三銀が嫌味です。次の△6六銀が受かりません。第7図は先手の手損が大きく、中飛車側が押し込まれている印象です。先手はこの局面に至る前に変化する必要があるでしょう。

 

話をまとめると、現環境は角道不突き左美濃よりも、△4四銀型優先急戦が厄介な作戦です。ただ、後者の戦法は中飛車側が玉型の差でアドバンテージを握っているので、振り飛車党はあまり嫌がらないイメージはあります。先手中飛車を選ぶオッズは良くなっていると言えるでしょう。

 

 

四間飛車

穴熊はタテから攻める時代


9局出現。「穴熊に組んでもいいよ」という態度で駒組みする将棋が多いですね。その中でも面白い構想を披露した将棋を紹介します。(第8図)

 

2018.6/1 第31期竜王戦6組ランキング戦決勝 ▲大橋貴洸四段VS△都成竜馬五段戦から。

後手が△9一飛と飛車を転回したところです。

ご覧の通り、後手は囲いを雁木に組んでおり、あまり振り飛車らしい陣形ではありません。しかし、これが現代振り飛車の最先端とも言える指し方です。前回の記事でも書きましたが、穴熊相手に捌き合いで勝負する「ヨコ」の将棋では苦戦を強いられます。よって、第8図のような「タテ」から攻め潰す将棋に持ち込んだほうが、勝ちやすいと見ているのです。実戦も端攻めを炸裂させた後手が快勝しました。

敵陣をタテから攻めるとなると、美濃囲いよりも上部に手厚い雁木のほうが理に適っています。地下鉄飛車が発動しやすい利点も見逃せないですね。

居飛車側は穴熊を目指す以上、囲いに多くの手数を費やすので、必然的に受け身にならざるを得ません。したがって、振り飛車側は先攻しやすい状況になり、それも魅力の一つと言えます。今後はこのような指し方が主流になっていくのではないでしょうか。

 

 

三間飛車

下火になりつつある


6局出現。3月は12局指されていたものの、そこをピークに緩やかに採用数が減っています。特に6月は先手中飛車が増加したことにより、それに拍車が掛かったようにも思います。(▲7六歩△8四歩▲7八飛を選ぶ必要性が乏しくなった)

 

 

角交換振り飛車

三間飛車に影響を受けて、こちらも減少


6局出現。▲7六歩△8四歩▲7八飛というオープニングが少なくなったことに伴い、こちらも減少傾向にあります。ただし、△4二飛・△3三角型の将棋は採用数が多く、これに関しては後手番振り飛車の主力戦法の一つを担っていると言えるでしょう。

今回は、居飛車側の工夫を紹介したいと思います。(第9図)

 

2018.6/21 第8期加古川清流戦 ▲大橋貴洸四段VS△古森悠太四段戦から。

後手はこちらの記事でも書いた通り、蟠竜の陣+銀冠というお馴染みの形です。対する先手陣ですが、▲7八玉型を選んでいるのが少し珍しい。▲8八玉型に組む将棋が主流なのですが、本局の陣形のほうが攻撃的な含みがあります。そういえば、藤井聡太七段もこのような陣形を好んでいますね。

なぜ、▲7八玉型のほうが攻撃的なのかと言うと、▲7七桂→▲8九飛から後手の銀冠を直撃する狙いを秘めているからです。角交換振り飛車は居飛車側から戦機を捉えるのが難しい戦型なのですが、そのデメリットを克服したのが先手の自慢です。

本譜は地下鉄飛車が実現する前に△3五歩と動いていきましたが、▲7七桂△3六歩▲同銀△5五銀▲3四歩と自然に対応して、先手有利となりました。(第10図)

 

後手は先攻したものの、飛車が参加しない攻めなので苦しい戦いになっています。つまり、第9図の時点で既に先手の作戦勝ちだった可能性が高いと考えられます。

 

角交換振り飛車に於いて銀冠は非常に価値の高い好形なのですが、本局のように、玉頭から攻められる展開になると困ってしまいます。今後は早めに△7四歩を突いて、7筋の位を取らせないようにするといった工夫が必要になるでしょう。安全に銀冠へ組めるかどうかが、一つの勝負所と言えそうです。

 

 

その他の振り飛車

どれもポピュラーにはなりにくい


8局出現。内訳は、

ゴキゲン  → 2局
石田流   → 2局
向飛車   → 3局
矢倉流中飛車→ 1局

ゴキゲンは超速、石田流は4手目△1四歩が嫌み。向飛車は相手が飛車先を伸ばしてくれないとできない。矢倉流中飛車も居飛車が▲5六歩を突いてくれないと採用しづらい。簡単に書き連ねてみましたが、これらが上記の戦法の懸念材料です。

特定のスペシャリストしか指さない戦型なので、数が増えないのも致し方無しといったところでしょうか。

 

 

相振り飛車

振り飛車党は、中飛車対策が必須


8局出現。その内、半分以上が中飛車系列の将棋で、これは今までには見られなかった傾向です。原因としては、対抗型で先手中飛車の株が上がったことにより、初手に▲5六歩を指すプレイヤーが増加したからだと考えられます。という訳で、振り飛車党は後手番の際に、中飛車の相振り対策を用意しておく必要があるでしょう。

 

 

今回のまとめと展望

 

・現環境は先手中飛車が主戦場になっており、居飛車党も振り飛車党もこの戦法の対策を用意しておく必要がある。

・以前と比較して、地下鉄飛車のような直接、相手の囲いを攻める構想が増えた。これは相居飛車的な発想であり、対抗型の将棋の感覚が変質しつつある傾向を感じる。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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