プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(6月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。連日、ワールドカップが熱いですね。日本代表のご活躍は嬉しい誤算でした。誠に失礼ながら、勝ち点1すら取れるかどうか怪しいと思っていたので<(_ _)>
勝負に徹した最終盤のプレーは、プロの矜持と執念を感じました。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.5/1~5/31)

 

調査対象局は74局。順位戦が無いわりには対局数が多いですね。5月は振り飛車が激減していたので、この数字にも頷けますが。

それでは、戦型ごとに見ていきましょう。

 

角換わり

 

16局出現。▲2六歩型ではなく、▲2五歩型の将棋が大幅に増加しています。背景としては、先手が角換わり拒否タイプの雁木を厄介と見ているからだと考えられます。加えて、▲2五歩型でリードを奪える仕掛けを確立してしまえば、相手の作戦を限定しやすいという理由もあるでしょう。

互いに▲4八金・▲2九飛型(△6二金・△8一飛型)を選ぶと、第1図の局面になりやすく、ここからの攻防が極めて重要です。(第1図)

 

2018.5/11 第59期王位戦挑戦者決定リーグ <白組> ▲澤田真吾六段VS△豊島将之八段戦から。

ここで後手の手は大きく分けると三種類あり、

(1)先攻する△6五歩。
(2)玉を深く囲う△3一玉。
(3)先後同型で対抗する△4四歩。

これらが候補です。

ただし、(1)の△6五歩は▲同歩△同桂▲6六銀△6四歩▲4五歩で4筋の位が大きく、先手作戦勝ちなのでこのところ出現していません。

まずは(2)の△3一玉から見ていきましょう。これに▲7九玉とお付き合いするのは今度こそ△6五歩が嫌なので、先手は▲3五歩(青字は本譜の指し手)で先攻します。(第2図)

 

ここからは変化の枝葉がとても広いので、ひとまず本譜の進行をさらりと追ってみます。▲3五歩以下、(a)△4四歩▲3四歩△同銀▲7五歩(b)△同歩▲2四歩△同歩▲同飛(c)△3五銀▲2五飛△2六角▲7四歩△2四歩▲2六飛△同銀▲7三歩成△同金▲4五桂と進みました。長手数進めてしまい恐縮ですが、こうなれば先手良しです。(第3図)

 

しかしながら、第3図までの手順は絶対ではありません。(b)の△7五同歩では△3六歩で攻め合う手もありそうですし、(c)の△3五銀では△2三金もあるでしょう。

そもそも、(a)の△4四歩では平凡に△3五同歩の方が普通に見えるので、これも当然有力であると思われます。

要するに、第2図の仕掛けはまだまだ未知数で、明確な成否は今のところ分からないのが正直なところです。

 

続いて、第1図から(3)△4四歩の変化も見ていきます。

これに対しても、先手は先攻できる利を生かして▲4五歩△同歩▲同銀と動いてみたいところです。(第4図)

 

2018.5/15 第31期竜王戦4組昇級者決定戦 ▲遠山雄亮六段VS△北島忠雄七段戦から。

ここで△4五同銀▲同桂は銀取りと▲6三銀という二つの狙いが残ってしまうので、△5五銀とかわします。以下、▲2四歩△同歩▲2五歩△4七歩▲3八金△2五歩▲同桂△2四銀▲3四銀と進みました。2筋から継ぎ歩攻めをすることで、銀を進軍させたのが先手の主張です。(第5図)

 

この局面をどう評価するかですが、先手には次に▲2三銀成△同金▲4五角という狙いがあるのに対し、後手は具体的な攻めが見えにくいです。加えて、後手は玉頭が薄いので、玉型に関しては先手に分があると考えられます。個人的には先手を持って不満がないように思います。

 

話をまとめると、現環境では第1図から△3一玉が最有力。対して、▲3五歩の是非が今後の焦点と言えるでしょう。

 

矢倉

 

5局出現。非常に少ない数字です。その上、半分以上は髙見叡王が孤軍奮闘しているので、多くのプレイヤーは(あまり)支持していないことが窺えます。

かつては誰もが勉強する必修科目でしたが、現代将棋ではニッチな分野に変移した印象です。角換わりの定跡が進み過ぎて閉塞感を感じるようになれば、矢倉が復興する可能性は大いにあるでしょう。

 

雁木

 

15局出現。内訳は、先手雁木が6局。後手雁木が9局。相雁木が2局。また、角換わり拒否タイプの雁木は4局でした。

5月は△4四歩タイプの雁木に対して、画期的な仕掛けを繰り出した将棋があったので、それを紹介します。(第6図)

 

2018.5/31 第68王将戦一次予選 ▲松尾歩八段VS△橋本祟載八段戦から。

先手が▲3五歩と仕掛けたところです。部分的には頻出する攻め方ですが、▲7九銀型でこれを実行したのが目新しいところです。従来は▲7八銀(もしくは▲8八銀)で備えてから仕掛けることが一般的でしたが、その必要は無いと見切った松尾八段の慧眼が光りましたね。

▲3五歩以下、△同歩▲2六銀△4五歩▲2四歩△同歩▲3五銀△7七角成▲同桂と進みましたが、銀がスムーズに五段目に進出したので先手有利です。(第7図)

 

▲7九銀型で攻めて行くと、角交換になった際にはこのように桂馬で取らなければいけません。しかし、この形が思いの外、しっかりしているので仕掛けが成立しているのです。

後手は2筋を受けることができないので、本譜は△8六歩▲同歩△同飛と攻め合いましたが、▲3三歩が痛打で先手がそのまま押し切りました。

 

第6図は仕掛けがヒットしていることが証明されたので、後手は駒組みの手順に制約を受けることになりました。雁木側の対策としては、前回の記事で紹介した△3二銀型を維持して駒組みを進める手法が一案でしょう。

 

相掛かり

 

13局出現。相掛かりは駒組みの多様性が高い戦型ですが、5月は▲6八玉・▲3八銀・▲2五飛型に組む将棋が多く見られました。(第8図)

 

2018.5/8 第68王将戦一次予選 ▲高見泰地六段VS△石井健太郎五段戦から。

先手の布陣は以前からぽつぽつと指されていましたが、このところ増加傾向にあるように感じますね。

ここから機を見て▲2四歩と合わせて横歩を取る手が基本的な狙いです。後手がそれを警戒した駒組みを行えば、▲4七銀→▲4八金→▲2九飛と角換わりでお馴染みとなっているフォーメーションへ移行する柔軟性も持ち合わせています。

また、▲2五飛型を選んでいる理由ですが、これは現代将棋のトレンドである早繰り銀を抑止する含みがあると考えられます。それを証明するかのように、5月は早繰り銀系統の将棋がほぼありませんでした。

 

この布陣に組めれば作戦勝ちという訳ではありませんが、軽快な攻めを好んだり、角換わりが好きなプレイヤーには適性が高い指し方ではないかと思います。今後の注目株ですね。

 

横歩取り

 

16局出現。そのうち10局が青野流で、相変わらずの大流行です。

4月は後手が△4二銀型に組んで力戦模様に誘導する将棋が多かったのですが、5月はゼロ。このことからも、前回記したように、この作戦が妥協の産物であったことが分かります。

代わって、5月上半期は△4二玉型の将棋が多く指されました。(第9図)

 

2018.5/3 第59期王位戦挑戦者決定リーグ <紅組> ▲木村一基九段VS△羽生善治竜王戦から。

△4二玉型に構えることで、上部を強化しつつ、3二の金に紐を付けた意味があります。

これはこれでいい勝負ではあるのですが、通常の中原囲いと比較すると、定位置に玉がいないことは気がかりですし、攻めの形が作りにくい(△7四歩→△7三桂の2手がなかなか指せない)という懸念もあることから、どちらかというとネガティブな作戦だと認識しているプレイヤーが多いと思われます。

そうはいっても、他に有力な作戦が見当たらないので、(仕方なく)これを採用するケースが続いていたのですが、5/16に大橋貴洸四段が斬新な新手を披露します。(第10図)

 

2018.5/16 第31期竜王戦6組ランキング戦 ▲上村亘四段VS△大橋貴洸四段戦から。

ここから△8八角成▲同銀△2七歩成▲同銀△5五角が今まで指されていなかった新手法。△2七歩成とあっさり拠点を捨ててしまうのは、かなり意表ですね。

この手順の意味としては、とにかく形を乱して決戦に持ち込めば、陣形の差でこっちが良いだろうと主張しているのです。(第11図)

 

1号局は、▲7七角△7六飛▲2二歩△3三桂▲2一歩成△4二銀と進みましたが、この進行では類似局と比較すると、7七に角を打たせているので後手満足でしょう。

したがって、2号局以降は▲8七銀で角を節約する手が主流になりました。▲8七銀に飛車を逃げると、今度こそ▲7七角で受かってしまうので、△8七同飛成▲同金△9九角成は必然の踏み込み。そこで▲2三歩(佐藤天彦新手)が先手期待の一着です。(第12図)

 

2018.5/19 第76期名人戦七番勝負 第4局 ▲佐藤天彦名人VS△羽生善治竜王戦から。

羽生竜王は△4四馬と引いて飛車を捕獲しに行きましたが、▲4四同飛△同歩▲1六角と進むとコビンが開いた弱点を突かれており、後手が指しにくい将棋になりました。

よって、△4四馬に代えて△3三馬が後手の修正案。今度は後手陣が安定しているので、飛車を切ることはできません。ゆえに、▲3五飛で穏便に指します。以下、△2三馬▲3七桂△8四歩▲7七桂で先手は桂を活用して、攻撃力を高めます。(第13図)

 

2018.5/24 第68期王将戦一次予選 ▲阿部隆八段VS△大橋貴洸四段戦から。

この局面が大橋新手の最前線です。直前に後手が指した△8四歩は奇異な手ですが、先手の飛車を8五へ移動させると安定してしまうので、それを阻止した意味があります。

後手としては、この不安定な飛車を上手くいじめてポイントを稼ぎたいところ。それを踏まえると、第13図では△2四馬▲6五飛△6四銀が候補手です。(1)▲6六飛は△5五銀▲6五飛△6四銀….で千日手になりそう。(2)▲9五飛のときに上手く飛車をゲットできるかどうか。

 

大橋新手は第13図以降の指し手がとても大事で、好手順が編み出せれば青野流に対する希望の星になり得る存在です。先手としては、マークしておかなければいけない作戦でしょう。逆に言えば、これ以外の対策はあまり怖くないように思います。

 

その他の戦型

 

9局出現。一手損角換わりや無理矢理矢倉、角換わりを拒否して早繰り銀を繰り出す作戦が指されていました。しかしながら、工夫が実ったと言える将棋はなく、苦労している印象です。

 

 

今回のまとめと展望

 

・(プレイヤー向けの話をすると)「角換わり」「横歩取り」「雁木」の3つが現代将棋の相居飛車における主要戦法なので、居飛車党はこれらを少なくとも一つは指せるようになっておかないと、なかなか厳しいように思う。

・4手目△4四歩タイプの雁木は駒組みの条件が悪くなったので、減少するかもしれない。現環境での後手番は、角換わりを受けて立つのが最も手広く変化できるので、これが最強のように感じる。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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