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第69回NHK杯 高見泰地七段VS増田康宏六段戦の解説記

NHK杯 高見

今週は、高見泰地七段と増田康宏六段の対戦でした。

 

髙見七段は居飛車党で攻め将棋。堅い玉型を好む終盤型の将棋です。また、苦しい局面から差を縮める技術が卓越していることも特徴の一つですね。

一回戦はシードだったので、二回戦からの登場です。

 

増田六段は居飛車党で、棋風は攻め。基本的には先攻することを重視しますが、待機する作戦も苦にしないところがあり、取れる戦術が幅広い印象があります。

一回戦では西田拓也四段と戦い、四間飛車を攻略して二回戦へ進出しました。
第69回NHK杯 増田康宏六段VS西田拓也四段戦の解説記

 

なお、本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント


第69回NHK杯2回戦第8局
2019年10月6日放映

 

先手 高見 泰地 七段
後手 増田 康宏 六段

序盤

 

初手から▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲2六歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

戦型は矢倉。対して、後手は早繰り銀系統の急戦策を採用します。この作戦は今期の棋聖戦や王座戦といったタイトル戦で出現しており、ホットな戦型の一つですね。

ここは先手にとって方針の岐路で、後手の攻めを警戒するのであれば▲6六銀と上がる手が有力です。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年7~8月・居飛車編)

 

本譜は▲2四歩△同歩▲同飛で一歩交換しました。こちらは攻めを重視する方針ですね。以下、△8五歩▲3四飛で先手は積極的に良さを求めに行きます。(第2図)

 

ただ、この進行は後手としても想定の範囲内で、歩損になったからといって作戦負けになった訳ではありません。増田六段は△3三角▲3六飛△2二銀で形を整えていきます。

先手も飛車が中段にいると目標になりかねないので、▲2六飛△6四銀▲2八飛と無難に引き下がります。(第3図)

 

こうなると[先手の歩得 VS 後手の手得]という構図なので、均衡が取れていますね。プレイヤーの好みによって見解が分かれそうな局面です。

さて。後手は△7五歩と突っ掛けることが出来ますが、直ちにそれを実行しても▲7五同歩△同銀▲7六歩で追い返されてしまいます。部分的には△8六歩から銀交換ができますが、それには王手飛車が待っているので上手くいきません。(A図)

 

という訳で、△4二玉で居玉を解消するのは自然なところですね。今度こそ△7五歩が来るので先手は▲6六銀と上がります。以下、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛▲3八銀△7三桂▲2七銀で互いに着々と攻める準備を進めました。(第4図)

 

先手は銀を6六に配置したことにより、玉を堅く囲うような展開にはしにくい面があります。なので、居玉のまま棒銀を繰り出す攻撃的な駒組みを採用している訳ですね。

互いに攻めを志向する作りなので、激しい展開になることは避けられない将棋になりました。

 


中盤

 

後手は攻めの形がセット完了しているので、そろそろ動く手を考えたいところ。増田六段は△7五歩と突っ掛けていきます。

これに対して、素直に応じるなら▲同歩ですが、△6五銀▲同銀△同桂▲3三角成△同銀と進んでみるとどうでしょうか。(B図)

 

先手はこれで▲7三角に期待するプランもありましたが、やはり2筋の飛と銀が見るからにダサい格好なので選びにくい感は否めません。そもそも、これでは▲2七銀と上がった方針と噛み合っていないでしょう。

 

そこで、本譜は△7五歩に対して▲3六銀△7六歩▲4五銀で棒銀をどんどん進軍していきました。(第5図)

 

狙いはもちろん、▲3四銀ですね。後手がそれを受けるなら△2三銀が自然ですが、(1)▲3四銀△同銀▲2一飛成や(2)▲2四歩△同角▲3四銀といった手があるので、本当にそれで受かっているのか怪しいところがあります。

 

そういった事情があったので、増田六段は△2三金という意筋の受けを捻り出しました。あまり褒められた配置ではありませんが、▲5六歩△5二金▲7九角△2四歩▲4六角△1四歩と進んでみると、なかなかどうして後手陣は安定しています。△2三金は、臨機応援な一着でしたね。(第6図)

 

前述したように、先手は持久戦には不向きなフォーメーションなので、どんどん攻めて行くより道はありません。

まずは▲5五歩と突いて、後手の角道を止めつつ△8五飛の筋を封じます。後手は自分から動く必要性がないので△3二玉で待機しますが、▲3六歩△7四飛▲3五歩で銀をぶつける足場が作れました。これで攻め筋には困らなくなりましたね。

ただ、そこで△5一角が巧みな対応でした。(第7図)

 

これは、次に桂を跳ねて△9五角と飛び出す狙いを秘めています。先手がそれをケアするなら▲9六歩や▲8六歩になるのですが、ここで一手緩んでしまうと△3三銀で壁銀を立て直されるので、攻めの威力が落ちてしまいます。

つまり、先手は「攻め」か「受け」の選択を迫られている場面なのですね。判断が難しいところでしたが、高見七段は作戦の趣旨を貫くべく、▲5四歩△同歩▲3四銀で斬り込む順をえらびます。

 

こうなると、苛烈な攻め合いになることは決定的。増田六段は△8五桂と跳ねて狙い筋を決行します。以下、▲7五歩△7一飛▲8六歩△9五角▲8六歩△8八歩と進みました。(第8図)

 

先手が守りを重視するなら▲8八同飛になりますが、2筋から飛車が逸れてしまうと後手に安心される側面がありますし、先程の方針とチグハグになってしまうので指しにくいところではあります。

したがって、高見七段は▲7六金△8九歩成▲8五金△6二角▲7四金と金を繰り出して、さらに攻めに力を加算する対応を取りました。(第9図)

 

しかしながら、本来、守り駒であるはずの金を攻めに使うのは矛盾しているところがあり、先手の指し手にはひずみが生じつつあります。

実戦の進行を辿ると、それが分かりやすいですね。本譜は△9九と▲6四金△同歩▲同角と進んだのですが、そこで△6三香が痛打なので形勢は後手に傾きました。(第9図)

 

先手が「守り駒を繰り出して攻める」というセオリーに反した手を指し続けたのに対し、後手は「戦力を補充して駒得を拡大する」という自然な手を積み重ねています。そこで生まれた差が、そのまま優劣に直結することとなりました。

 

このような激しい斬り合いになると、やはり玉が囲いの中に収まっている方が有利としたものです。加えて、後手のほうが駒得しているので尚更ですね。増田六段は相手の攻め過ぎを上手く咎めて優位を掴むことに成功しました。

 


終盤

 

何はともあれ▲5三歩は叩いてみたいところですが、△4二金とかわされると後手玉はまだ寄りつきません。

以下、▲8二角成△6六香▲7一馬△同角までは一本道ですが、6六の銀が消えると先手玉は詰めろが掛かりやすくなってしまうので、一刻の猶予もない状況に追い込まれました。(第11図)

 

ここで先手は本音を言えば▲5二歩成△同金▲6一飛と迫りたいのですが、△3五角が絶好の飛び出しになるので負けを早めることになります。

よって、本譜は単に▲6一飛と打ったのですが、これなら後手は4一の地点が堅いので△3四金を指す余裕があります。▲同歩は妥当な応手ですが、△5七銀で攻め駒を設置して寄り形が見えてきました。

 

高見七段は▲2三歩と嫌味をつけに行きますが、堂々と△2三同玉が堅実な対応で、後手の優位は揺るぎません。(第12図)

 

先手は△6八銀打からのトン死筋がある上に、△7七角や△2六角といった手で合駒請求される手も残っているので、とてもじゃないですが攻めに転じれる情勢ではありません。

 

仕方がないので本譜は▲3五桂△3四玉で敵玉を露出させてから▲6八銀と辛抱しましたが、(△5六銀▲5七銀△同銀不成▲6八銀という千日手模様の手順が入ってから)△8二角が抜け目の無い利かし。取られそうだった角がまんまと逃げられたので、後手がさらにリードを広げました。(第13図)

 

後手は飛車が取れれば2五への逃げ道が増えたり、△8九飛で合駒請求する保険が使えたりするので、あの飛車を取ることは勝利と同義です。

なので、先手が▲3七歩と受けるのはやむを得ないのですが、この利かしによって後手は4六の地点に利きが増えたので、自玉を安全にすることが出来ました。ゆえに、△6八銀不成▲同玉で5七の銀を盤上から消しても差し支えありません。(途中図)

 

ここは後手がどう仕上げるかという局面ですが、△5六銀が最も明快だったでしょうか。先手は▲6六飛成と指すくらいですが、△5七銀打▲同竜△同銀成▲同玉△4五桂と畳み掛ければ寄り筋です。(C図)

 

4五の地点を押さえながら攻めているのがクレバーなところです。C図は後手玉が実質的なゼットなので、寄せに専念できることが自慢ですね。

 

本譜に戻ります。(途中図)

実戦は△5六金と指しました。これは▲6六飛成すら許さんという意図なのですが、▲4五銀△同玉▲6五飛成が強烈な勝負手。このとき、後手は妙にしっくり来る応接が見当たらないのです。(第14図)

 

竜を弾くなら△5五金ですが、▲5六金と打たれるので結局、手番は取れません。

本譜は△5五歩と受けたのですが、▲4六金△3四玉▲5六金△同歩▲4五金△3三玉▲5六竜と進むと、先手は五段目に厚みが作れたのでもうひと頑張りできる格好になりました。(第15図)

 

香ではなく、あえて歩を刈り取ったのが粘っこい手です。これにより先手玉のトン死がさっぱり消えたのが大きいですね。

後手は香を渡すと自玉が詰めろになるので△3四歩と守りましたが、▲5二歩成があるので先手の攻めを切らすことは出来ません。

 

後手は寄り形を築いて勝利寸前だった局面から逆流してしまったので、変調であることは明らかなのですが、増田六段は底力を発揮します。△6四桂と竜取りに桂を放ったのが的確な一手でした。

 

本局のハイライト!

 

 

後手としては5六の竜に働き掛けないと先手玉を寄せるビジョンが見えません。それを踏まえると△6四桂はぱっと目に付く手なのですが、▲5四竜詰めろ逃れの詰めろになるので危険な手に映るのです。

 

すわ、逆転かと感じさせましたが、そこから△6七香成▲5九玉△6八角▲4八玉△5六桂が華麗な返し技。この手があるからこそ、△6四桂が成立しているのです。(第17図)

 

 

 

▲同竜は△5七金と打てば竜が抜けるので、後手の勝ち筋に入ります。

 

この△6四桂と△5六桂は、どちらも先手の竜を移動させるための桂なのですが、目的に応じて打ったばかりの駒をすぐに捨てるのは思考が柔軟で、増田六段の才覚の一端が窺えた手順でした。

 

上記の通り、この桂を取ることは不可なので▲3八玉は妥当ですが、さらに△4八金で追い打ちを掛けるのが読みの入った一着です。(途中図)

 

先手は手駒が欲しいので▲同金△同桂成▲同玉と指したいのは山々ですが、△5七角成▲同竜△同成香▲同玉△5六歩▲同玉△6五銀で玉を釣り上げられると仕留められてしまいます。(D図)

 

(1)▲5七玉は、△5六銀打で4五の金が抜かれてしまうのでアウト。

(2)▲6五同玉は、△6四飛▲5六玉△6七銀▲4六玉△6六飛が両王手で即詰みコースに入ります。(E図)

 

▲5七玉と引く一手ですが、△5六飛▲6七玉△6六金▲7八玉△7七銀▲8七玉△7六金▲9六玉△8六金▲9五玉△7三角で捕まっていますね。

 

本譜に戻ります。(途中図)

こういった事情があるので本譜は▲2七玉とかわしましたが、△2六銀▲同玉△2五銀▲2七玉△3五角成▲同金△1五桂▲1八玉△2七銀▲同飛△同桂成▲同玉△3五歩で先手の攻め駒を一掃したのが賢明な好着想です。

五段目の厚みを解体して後手は再び自玉が安全になったので、勝負の帰趨が見えてきましたね。(第18図)

 

高見七段は▲2八歩△4九金▲4五銀と懸命の抵抗を見せますが、ドカンと△3七角成が狙い澄ました一撃。大熱戦に終止符を打つ決め手となりました。(第19図)

 

▲同桂は、△2六金▲1八玉△1七金▲同玉△1六飛で詰みます。(F図)

本譜は▲同玉と応じましたが、△3六金▲同銀△同銀▲4六玉△4五金▲同竜△同銀▲同玉△4四飛と物量にモノを言わせれば詰んでいます。(第20図)

 

▲3五玉と逃げると△2五飛▲3六玉△3五歩▲3七玉△3六銀以下、詰み。

実戦は▲5五玉△6四銀と進んで終局となりました。

 


本局の総括

 

  • 序盤は[先手の歩得 VS 後手の手得]という構図で、互角の進行と言える。
  • 先手は第7図からアグレッシブに攻める方針を採ったが、もう少し穏やかに指すべきだったかもしれない。7八の金を出動させるようでは、反動がキツかった。
  • 後手は優位を築いたが、▲6八同玉のときに△5六金がやや危険で、差が詰まる。
  • しかしながら、その後の△6四桂から△5六桂の組み立てが素晴らしいリカバリーで逆転を許さなかった。以降も、際どいところはあったが、増田六段がきちんと着地を決めた。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!



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