プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(7月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。毎日のように酷暑が続きますね。傘を指すのは好きでは無いのですが、日傘を購入しようかどうか迷っています。しかし、そもそも外出する機会が少ないから、どうせ使わないんだろうなぁ(^_^;)

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(6月・居飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.6/1~6/30)

 

調査対象局は79局。相居飛車系の将棋は安定して70~80局指されていますね。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

 

角換わり

▲2五歩型がホット


20局出現。約25%の出現率で、猫も杓子も角換わりという感じです。

先手としては、▲2五歩型と▲2六歩型、どちらで勝負するのかが序盤の岐路なのですが、▲2五歩型を選ぶ将棋が多数派です。背景としては、▲2六歩型の将棋でリードを奪うことが難しくなったことが挙げられます。(第1図)

 

2018.6/5 第31期竜王戦5組ランキング戦 決勝 ▲石田直裕五段VS△藤井聡太七段戦から。

第1図は▲2六歩型の将棋で頻出する局面です。従来は、この局面になれば先手満足と認識しているプレイヤーが多かった印象ですが、ここで△2四歩(青字は本譜の指し手)が効果的なパス。この手が成立することが分かってから、先手の攻めが鈍化したように感じます。

なぜ、高跳びした桂を取りに行く手が軽視されていたのかというと、次に△2五歩で桂を取っても、▲同歩→▲2四歩と2筋を伸ばされてヤブヘビになってしまうからです。だから、△2四歩で桂を取りに行っても、一手の価値が無いと考えられていたわけですね。

しかし、後手にとって重要なことは、桂を取る権利を握ることなのです。つまり、いつでも桂を取れる状況を作ることで、先手の攻めを緩和することができるのです。(駒得を目指すための桂取りではなく、受けやすい状況を作るための桂取りということ。)

 

▲2六歩型の腰掛け銀は、第1図の局面が先手良しという前提で指されていたのですが、根底からそれが覆されてしまいました。そうなると、先手は▲2六歩型の将棋を選ぶ理由が乏しくなります。

▲2五歩型の将棋では、前回から述べている通り、第2図から後手がどう指すのかがテーマです。(第2図)

 

2018.6/6 第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負 第1局 ▲豊島将之八段VS△羽生善治棋聖戦から。

前回の記事ではここで△3一玉が有力と書きましたが、6月は一局も指されませんでした。△3一玉は、次に△6五歩から仕掛けますよという意味なのですが、先に▲3五歩で仕掛けられると受けに回らされてしまうので、指し手の趣旨が噛み合わないことを嫌っているのかもしれません。個人的には先手の攻めも軽いので簡単ではないと思うのですが…。

 

代案として、△4二玉型のまま仕掛ける指し方が登場しました。すなわち、第2図から△6五歩▲同歩△同銀という手順で動いていったのです。(第3図)

 

ここで▲同銀△同桂と進むと、銀取りと△4七銀が同時に防ぐことができないので先手不利。部分的には▲5五銀とかわす手が受けの形ですが、ここではもっと良い手があります。▲5八玉が後手の攻めをいなす好手です。(第4図)

 

囲いから玉が離れるので奇異な手に見えますが、これがピッタリした受けです。4七に利きを増やしつつ、▲6九飛と転回する手を作ったのが自慢ですね。実戦もここから丁寧に後手の攻めに対応した先手が快勝しました。

 

話をまとめると、先手は▲2五歩型の腰掛け銀が最有力。後手は第2図の局面で策が求められている状態です。現状では第2図から△3一玉や△6五歩は後手が思わしくないと考えられます。

 

 

雁木

大きな変化は見られない


12局出現。4手目△4四歩タイプの雁木は特に変化がなかったので、角換わり拒否タイプの雁木の話をします。

角換わり拒否タイプの雁木には腰掛け銀で対抗するのが主流で、6月は4局指されました。対して、後手は△5四銀型に組むのが最強です。(第5図)

 

2018.6/16 第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負 第2局 ▲羽生善治棋聖VS△豊島将之八段戦から。

先手は▲3六歩からゆっくり駒組みする手も考えられますが、本譜の▲4五歩のほうが魅力的な手です。なぜなら、ここで仕掛けて角交換になれば、後手に壁金を強要できるからです。

▲4五歩以下、△同歩▲2二角成△同金▲4五銀△同銀▲同飛△4四歩▲4八飛までは自然な進行です。(第6図)

 

後手は言いなりになっていて面白くないようですが、ここから△3三桂▲7七銀△3二金▲3八金△4二玉と進むと景色が変わりつつあります。やはり、雁木が好形なんですね。(第7図)

 

後手は△4五桂と跳ねる手が切り札で、この手がある分、後手のほうが攻撃力が高い陣形を作ることができています。先手は2九の桂がなかなか活用できないので、あまり芳しくない序盤戦と言えると思います。

 

角換わり拒否の雁木は有力で、先手にとっては厄介な作戦です。▲2六歩型の角換わりの評価も下がっていることから、先手は早めに▲2五歩と突く将棋に持ち込む方がベターでしょう。

 

 

矢倉

金矢倉に組む時代ではない


10局出現。今月は新機軸が打ち出されたので、それにスポットを当てたいと思います。(第8図)

 

2018.6/22 第44期棋王戦 予選 ▲高見泰地叡王VS△増田康宏六段戦から。

先手は流行の兆しを見せている▲6七金左→▲7八玉と囲う将棋を目指しています。後手も△4四歩と突いて、先手に追随するのが自然ではあるのですが、増田六段は斬新な構想を披露します。ここで△4二銀が目新しい試みです。(第9図)

 

一度、上がった銀を引いているので二手損なのですが、それ以上に一方的に角道を通っている状態にしたことが大きいのです。先手が▲4七銀・▲3七桂型に組んだことを間接的に咎めている意味もあります。

第9図で平凡に▲6七金右と指すと、すかさず△6五歩▲同歩△同桂で仕掛けることができます。以下、(1)▲6八銀には△8八角成▲同金△6六歩で後手勝勢。(A図)(2)▲6六銀も△6四歩と力を溜めて後手不満無しです。(B図)

このように、△6五桂が実現すると△3九角の筋を狙われたり、5七の地点が薄くなっている点が際立ってしまうので、▲4七銀型が仇になっています。

髙見叡王はそういった展開を嫌って、第9図から▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2五飛と飛車を五段目に配置することで後手の仕掛けを封じましたが、△4四歩が柔軟な一着で、後手が巧みに立ち回りました。(第10図)

 

仕掛けを封じられても持久戦に移行できることが後手の強みです。次は当然△4三銀から雁木に組みます。雁木VS矢倉という構図になると矢倉側は相性が悪いので、本譜は仕方なく▲6八銀と引いて先手も雁木を目指しました。しかし、相雁木になると、千日手模様になりがちなので後手に不満はありません。つまり、後手の作戦は成功しています。

 

増田六段は、この「銀引き作戦」を先手番でも応用します。(第11図)

 

2018.6/29 第31期竜王戦決勝トーナメント ▲増田康宏六段VS△藤井聡太七段戦から。

後手が△6五歩と突いて、先手の進展性を奪ったところです。先手は駒組みの方法が難しいので、▲6八銀で急戦を目指します。

後手は▲4五桂と跳ねる手がいつまでも残っていると安心して駒組みを行うことができないので△4四歩と指しましたが、▲5五歩△同歩▲同角と中央から動いて先手が主導権を握りました。(第12図)

 

一歩を持ったことで、先手の攻め筋がぐっと広がりました。この後は▲7七角と引いて、▲4五歩△同歩▲同桂を狙うのが基本姿勢です。先手の方針が分かりやすいのに対し、後手は陣形をまとめるのが大変そうなので、実戦的には先手が勝ちやすい将棋と言えるでしょう。

 

この「銀引き作戦」は、手損ながらも自分だけ角道が開いた状態で戦えることが主張です。相手が6筋の歩(後手番のときは4筋)を突いていることが発動条件ですね。(△6三歩型の場合、歩で銀を追い返されないので普通に▲6六銀で上から銀を活用すれば良い)

今までには見られない新たな駒組みが登場したことにより、矢倉の定跡はこれから大きく変わる可能性が出てきました。既存の金矢倉に組み合う将棋は、もはや隔世の感があります。

 

 

相掛かり

力戦型に飢えている?


14局出現。まぁまぁ多めです。様々な形の将棋が指されていることから、何か特定のジャンルが流行っている訳ではなさそうな印象は受けます。

序盤の自由度が高いことが相掛かりの魅力であり、これは「角換わり」「矢倉」「雁木」には無い特徴です。フォーマルな定跡型はソフトで全て洗い出される時代ですが、相掛かりに関しては(よほどナンセンスな駒組みをしない限り)互角の範囲内で収まることが多く、中終盤の力勝負に持ち込みやすい性質があります。その辺りに対局数が増加した要因がありそうですね。

 

 

横歩取り

後手の苦慮が続く


10局出現。5月は居飛車主要戦法の中で最も多く指されていましたが、6月は打って変わって最小の数字が出ました。出現率も21%→12%と大幅にダウンしています。

下火になっている原因は、青野流に苦しめられているからです。後手の対抗策は分散しており、絶対的エースが不在の状態です。前回の記事で注目株として取り上げた大橋新手も1局しか採用されず、市民権を得るには至りませんでした。

そんな中、直線的な斬り合い勝負を挑んだ将棋が現れます。(第13図)

 

2018.6/28 第77期順位戦B級1組2回戦 ▲行方尚史八段VS△橋本崇載八段戦から。

従来は、ここで△2六歩▲3八銀の交換を入れてから△7七角成▲同桂△5五角で決戦に持ち込む手順が主流でしたが、それはこちらの記事で示したように、先手に分のある戦いと見られています。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(4月・居飛車編)

 

なので、橋本八段は単に△7七角成▲同桂△5五角という手順を選びました。以下、▲2二歩△3三桂▲2一歩成△4二銀▲2三歩△同金▲8四飛△8二歩と進みます。激しい乱戦ですが、前例は多く定跡化されている進行でもあります。(第14図)

 

既存の定跡はここで▲2四歩ですが、▲6六歩がさらに良さを求めた一着。この手は昨年の12月にfloodgateの対局で登場しており、個人的にも有力手の一つと認識していました。満を持して、公式戦で日の目を見たといったところでしょうか。

 

さて。肝心の▲6六歩の意味ですが、(1)6七に角を打つスペースを作った。(2)6筋の歩を後手に取らせる。これが主な狙いです。

本譜は△4五桂と跳ねて飛金両取りを緩和しましたが、やはり▲6七角が急所の角打ち。以下、△6六角▲6八銀△8四角▲7六角△8九飛▲6七角先手有利となりました。(第15図)

 

シンプルな桂取りですが、後手は意外と対応に苦労します。△4四歩と突けば受かりはしますが、コビンが開くので陣形が弱体化します。

また、先手はいつでも▲6四歩と打つ攻め筋を確保していることが大きいですね。floodgateの将棋も行方ー橋本戦も、6三に空間が開いたことが致命傷となり、二局とも先手が制勝しています。

 

後手は毎回のように工夫を凝らしていますが、なかなか実を結ぶことがなく、苦慮している印象です。現環境は青野流が強力で、先手が押しています。

 

 

その他の戦型

研究よりも力で勝負!


13局出現。基本的に先手側が変化球を投げることは無く、後手側が変わり種の手を用いるケースがほとんどです。

注目すべきところは、対局数の多さです。横歩取りよりも採用数が上回っており、これは当ブログで観測してから初めてのことです。つまり、2手目に△8四歩を指さないプレイヤーは横歩取りを評価していないことを意味しており、力戦調の将棋を渇望していることが窺えます。名人戦の第6局はその象徴(羽生名人が2手目に△6二銀と指した将棋)と言えるでしょう。

主要戦法(矢倉・角換わり・相掛かり・横歩取り・雁木)との兼ね合いの中で採用されるので、爆発的に増えることは想像しにくいですが、逆に淘汰されていくこともないだろうという印象です。

 

 

今回のまとめと展望

 

・角換わりと横歩取りで先手が互角以上に戦えているので、後手は力戦調の将棋を選んで定跡型から離脱する展開が増加している。

・雁木は後手の戦法の中では安定感が高いので、無難な選択と考えられる。主導権が握りにくいので攻め将棋のプレイヤーには不向きかもしれないが、現環境では心強い味方になり得るだろう。

 
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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