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~盤上を支配した天王山の銀打ち~ 第68回NHK杯解説記 佐藤天彦名人VS広瀬章人竜王

広瀬章人

今週は、佐藤天彦名人と広瀬章人竜王の対戦でした。

 

佐藤名人は居飛車党で、受け将棋。丁寧な手をしっかり積み重ねて、着実にリードを広げる展開が勝ちパターンの一つという印象があります。また、細かいところまで丹念に読むスタイルなので、ミスが極めて少ない棋士の一人ですね。

二回戦では佐々木慎六段と戦い、角交換振り飛車を打ち破って三回戦へと進出しました。~未来を射貫いた遠見の角~ 第68回NHK杯解説記 佐々木慎六段VS佐藤天彦名人

 

広瀬竜王は居飛車党で、攻め将棋。序中盤は悠然とした手が目立ちますが、局面が進むにつれ、切れ味がどんどん増していく棋風です。終盤型の理想ともいうべき将棋を指される棋士ですね。

二回戦では安用寺孝功六段と戦い、苦戦の将棋を跳ね返して勝名乗りを上げました。~トマホークの攻防~ 第68回NHK杯解説記 安用寺孝功六段VS広瀬章人八段

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯3回戦第8局
2019年1月27日放映

 

先手 佐藤 天彦 名人
後手 広瀬 章人 竜王

序盤

 

初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7六歩△3二金▲7七角(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

広瀬章人

戦型は、角換わり腰掛け銀。最先端の定跡型となりました。類例がたくさんある将棋なのですが、先手が居玉の状態を維持していることが目を引きます。

これは、後手が△7二金と上がったあとに△6二金と寄る、一手パス待機型を警戒している意味があります。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
年末プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(12月・居飛車編)

 

本譜は△6二金だったので、先手も通常通り、玉を6八に上がる将棋を選択しました。(第2図)

 

後手は先手と同型の形を保つ指し方もありますが、どうしてもそれだと受け身になってしまいがちです。

そこで、広瀬竜王は△4四歩▲7九玉△6五歩で果敢に動きました。後手が9筋の一手を省いて先攻する積極策を選んだことが、吉と出るか凶と出るかという将棋になりました。(第3図)


中盤

 

歩がぶつかったときは、取る手から考えることが一般的なのですが、▲6五同歩には△7五歩で戦線が広がるので、先手は好ましくない印象があります。(A図)

 

よって、ここでは▲6九飛で6筋に応援を送って、7三の桂を跳ねさせないようにするほうが勝ります。以下、△6六歩▲同銀△6五歩と進みました。(第4図)

 

ここで▲7七銀と引けば穏便ですが、それだと△6四角羽鶴の陣を作られるので、先手は打開に困ってしまいますね。

 

したがって、佐藤名人は▲5五銀左を選択しました。ただ、これはリスクを伴う一手でもあります。なぜなら、△同銀▲同銀△4七銀という反撃があるからです。(第5図)

 

これを▲4九金と逃げると、△3六銀成が厄介です。以下、▲6三銀△6一金▲6四角△3七成銀▲7三角成△4七角が一例ですが、これは先手の旗色が悪いですね。(B図)

 

互いに似たような攻め筋で敵陣に迫っていますが、こうなると先手の飛車が目標にされているので、その分、苦しい情勢になっています。これは、「玉飛接近悪型なり」という典型的なパターンですね。

 

本譜に戻ります。(第5図)

先手は6九の飛がお荷物なので、佐藤名人は▲4七同金△5八角▲4八金で飛車を取らせる順を選びます。

以下、△6九角成▲同玉△2九飛▲5九銀△1九飛成までは一本道ですね。ここで先手は、手番を活かしてどれだけ価値の高い手が指せるかが肝です。(第6図)

 

最も指してみたい手は、攻めの銀桂に活を入れる▲4五歩です。けれども、この歩を動かすと、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛飛車に捌かれてしまう弊害が生じます。(C図)

 

次に△7八飛成という強襲があるので、先手は▲7七歩と受けるくらいですが、△3六飛と転回して後手不満無しです。この変化は8一の飛が寄せに加担するので、先手は選びにくいところです。

 

本譜に戻ります。(第6図)

佐藤名人は▲5六角と指しました。これは直接的に何かを狙っている訳ではありませんが、

(1)囲いの防御力の向上。
(2)2九に駒を打って壁を作る余地を残した。
(3)▲3五歩と突く攻め筋を作った。

といった意図があり、含みの多い一着です。

 

ただ、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛と初志貫徹に飛車を活用されると、やはり指す手が悩ましいですね。(第7図)

 

ここで▲7七歩と打てば飛車は取れますが、歩切れになるので△5六飛▲同歩△6六香が強烈です。

 

佐藤名人は▲2四歩△同歩の利かしを入れましたが、歩が一枚しかないので、なかなか▲2九歩を打てる状況にならないことが歯がゆいですね。

△2四同歩から、本譜は▲6七銀△7五飛と進みましたが、ここでまた先手の指す手が難しいのです。(第8図)

 

本音を言えば、▲6四銀△8五飛▲5一角といった要領で後手の駒を取りに行きたいのですが、▲6四銀には△6六歩▲同銀△7八飛成というスマッシュが炸裂します。(D図)

 

▲同角と取る一手ですが、△7九金で崩壊していますね。

 

先手には、第6図の辺りから指してみたい手がたくさんありました。しかし、自陣が薄かったり、持ち歩が少なかったりすることから制約が多く、どれもこれも断念せざるを得ない状況になってしまった印象です。

 

結局、本譜は安全を確保するために▲7六歩△8五飛▲7七桂△8一飛で飛車を追い払い、▲3五歩と突きましたが、△5四香▲同銀△同歩▲3四歩△4二銀と進んだ局面は、後手に駒損を回復されてしまったので、先手は主張点が無くなってしまいました。(第9図)

 

次に△3六歩を打たれると先手陣は持たないので、▲3六香と打つのは妥当でしょう。

後手は労せず手番を握りましたが、先手に狙いを消されたところなので、どこに目を向けるべきなのか悩ましく見えます。しかし、広瀬竜王は的確に急所へ着手しました。△5五銀が、盤面を掌握する好打です。(第10図)

 

5六の角は先手の攻めの司令塔なので、その駒をやっつけることが最速の勝ちに繋がると見たわけですね。先手は角が逃げると△6六歩の突き出しが痛いので、非常に忙しくなっています。

 

佐藤名人は、▲3三歩成△同銀▲同香成△同金▲3四銀と食らいつきますが、△3二金が冷静沈着な応接。先手は攻め駒が角・角・銀の三枚しかないので、切れ筋の懸念が出てきました。(第11図)

 

次に△3三歩を打たれると攻めが頓挫するので、▲3三歩△同桂▲4三角と肉薄しましたが、△5三金が絶好の活用です。離れていた金が玉に近づき、味が良いことこの上ないですね。

 

△5三金には▲3二角成△同玉と進めるしかないですが、後手玉は左辺が広いので、相当に捕まらない格好です。後手は△5五銀から攻めを催促する構想が、見事に奏功しました。(第12図)


終盤

 

ここで▲2三金と打てば桂は取れますが、△4一玉▲3三金△5二玉ですたこらさっさと逃げられて勝ち目がありません。

本譜は▲6五桂と指しましたが、これも本意ではなかったでしょう。なぜなら、△同桂▲同角△6三香が痛烈な田楽刺しだからです(第13図)

 

ここで▲3五桂と打っても、△3一桂と対抗されると無効ですね。

佐藤名人は▲3三銀成△同玉▲4五桂打△同歩▲同桂で強引に王手金取りを掛けましたが、△4四玉▲5三桂成△6五香と自然に駒得を重ねて問題ありません。後手は大きく駒得の上、自玉が安全なので、勝勢とも言える局面です。(第14図)

 

先手は成桂を失う訳にはいかないので、▲4三金△3四玉で紐を付けてから▲6六歩と受けましたが、△6八歩▲同玉△6六香▲同銀△同銀とシンプルに進軍されて、処置無しです。

佐藤名人は、▲2六歩と詰めろを掛けて、首を差し出しました。(第15図)

 

広瀬竜王は、潤沢な持ち駒を活かして△7七銀打から詰ましに行きます。以下、▲同金△同銀成▲同玉△6五桂と進み、終局となりました。(第16図)

 

▲6六玉と逃げるくらいですが、△5五銀▲6七玉△8七飛成▲5八玉△3六角が一例で、先手は詰みを免れません。手数は長いものの、駒を捨てない王手を掛ければ詰んでいます。

 


 

本局の総括

 

後手が先攻し、先手がそれに対応する展開になった。第4図の局面になれば、第6図までは自然な進行と言える。
先手はその局面での指し手がとても大事だったが、どうも、しっくり来る手が見つからない。本譜の進行では、不満が残った。
後手は△5五銀と打った手が好判断。この手を境に、一気に形勢が傾いていった。
先手に致命的な悪手は無かったが、気がつけば芳しくない局面になってしまった。裏を返せば、それだけ広瀬竜王の指し回しが素晴らしかったと言えるだろう。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



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