どうも、あらきっぺです。
今週は、真田圭一八段と野月浩貴八段の対戦でした。
真田八段は居飛車党で、どちらかと言えば受け将棋でしょうか。相手の攻めを堂々と迎え撃ってから反撃するカウンタータイプという印象です。
野月八段は居飛車党で棋風は攻め。横歩取りや相掛かりを好み、軽快で切れ味の鋭い将棋を指される棋士の一人ですね。
本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考
本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント
目次
序盤
初手から▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲2六歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。
戦型は矢倉になりました。一、二年前では後手の急戦策が強力だったので主流の座から退いた戦法になっていましたが、ここ最近は先手がきちんと対抗できることが分かってきたので復活傾向にあります。
なお、急戦策に対する具体的な対処については、こちらの記事をご覧ください。
参考
最新戦法の事情【豪華版】(2019年4月~5月・居飛車編)
さて。ここは自然に指すなら▲4七銀か▲5八金と上がるところでしょう。以降は急戦矢倉か土居矢倉のどちらかを選択することになりそうです。
しかしながら、真田八段は▲6六銀と意欲的な指し方を選びました。右辺の金銀を触っていない状態で銀を上がるのは珍しいですね。先手が攻撃態勢を優先した駒組みを見せてきたので、後手もそれに呼応する形で△7三桂と攻め駒を使います。(第2図)
まだ駒組みの最中ではありますが、ここは先手にとって局面の性質を決める重要な岐路でした。
第2図では早めに銀を上がった手を活かして▲5五歩と動きたかった感はあります。以下、△同歩▲同銀△8六歩▲同歩△8七歩▲6六角△8六角▲4五桂が進行の一例として考えられます。(A図)
のっぴきならない局面ですが、先手は繰り出した銀が中央に進軍できていますし、桂も一足早く捌くことに成功しています。囲いが相手よりも薄いことがネックですが、こういった進行なら攻め合いの将棋になるので作戦の趣旨は通っているでしょう。
本譜に戻ります。(第2図)
実戦は▲4七銀と指したのですが、ここで銀を上がるのであれば▲6六銀を優先した理由が乏しいので、少し違和感のある手順ではあります。案の定、△6四歩▲5五歩△6五歩で後手に銀を追い返されてしまいました。(途中図)
とはいえ、これはもちろん真田八段も想定内で、▲5七銀△5五歩▲同角と進んだ局面に期待していたからこそ、銀を引かされる展開を受け入れたのでしょう。(第3図)
確かに後手に△6五歩を突かせて角道を通す作戦は、有力視されている指し方です。類例はこちらの記事に紹介しています。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(7月・居飛車編)
ただ、結論から述べるとこの場合においてはミスマッチでした。というのも、後手の駒組みは反撃しやすい構えを取っていたからです。
中盤
実をいうと、先ほど紹介した類例では後手陣が[△2二角・△4四歩]という配置でした。それと比較すると、第3図は後手の角が使いやすい格好であることが分かります。それが、決定的な違いを生みました。
野月八段は、△8六歩▲同歩△4四銀と迎撃します。角を7七に引くと△7五歩の当たりがキツくなるので▲8八角を選びましたが、△8七歩▲同金△8六角がこの戦型特有の攻め。敵陣に悪形を強要させた後手がペースを掴みました。(第4図)
▲同金△同飛と進めてしまうと8筋を支え切れません。ゆえに、▲7八玉は妥当なところですが、△6四角▲8六歩△6三銀と進んだ局面は彼我の陣形の美しさが段違いです。(第5図)
ご覧の通り、6四の角が盤上を支配していますね。▲4五歩と突く手を封じていますし、持ち歩が増えれば△8五歩▲同歩△8六歩という攻め筋も見据えています。
先手はあの角を追い払わないと、攻めに転じることが出来ません。真田八段は▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2七飛で桂に紐を付けます。後手は歩を加えたいので△7五歩と突っ掛けますが、▲4五歩△3三銀▲5六銀右で角にプレッシャーを掛けに行きました。(第6図)
先手は次に▲5五銀という狙いが出来たので、何とか攻めの形を作ることが出来ました。けれども、自陣には離れ駒が多く、見るからに危うい格好ですね。野月八段は、先手陣の不備を突く華麗な攻めを披露します。
ここは平凡に△7六歩と取り込んでも悪くはありませんが、△8五歩▲同歩△7六歩がより良さを求めた手順です。次の△8六歩を喫する訳にはいかないので▲7六金は致し方ありませんが、△8七歩が正に一歩千金で、後手の攻めが突き刺さりました。(第7図)
これを▲同玉と取りたいのは山々ですが、△7四銀で増援されると8筋が薄すぎて対処できません。かと言って、▲7七角とかわすのも△8五桂が当たってきます。
また、▲7九角では自分の狙いが消えるので、これも芳しくありません。やはり△7四銀で先手が非勢でしょう。
後手の攻めは軽いようでも、銀桂を繰り出せる態勢が整っているので「4枚の攻め」を実現していることが分かります。「攻めは飛角銀桂」という格言に合致する展開になれば、攻めは必ずと言っていいほど繋がりますね。
先述した背景があるので、真田八段は消去法的に▲5五角とぶつけましたが、これは苦しい一着です。単純に△同角▲同角△8八角と進めれば駒得が約束されるので後手優勢ですね。(第8図)
▲7七角はやはり△8五桂でアウト。本譜は泣く泣く▲4六角△9九角成▲6八玉と辛抱しましたが、△8九馬でほぼ無条件の桂香得となり後手絶好調です。
受けっぱなしでは勝ち目がないので、真田八段は▲7四歩△同銀▲5四銀で攻め合いに転じます。兎にも角にも、敵陣に嫌味を着けなければ逆転の目は見出せません。(第9図)
ここで受けに回るのであれば△7二歩や△6一桂になりますが、そのような手では▲5四銀と指した手の顔が立ってしまうので、後手としては少し不満が残ります。
そこで、野月八段は△7五桂と指しました。これには▲5八金と受けるくらいですが、△6七桂成▲同金△6六香▲同銀△同歩▲同金寄△6五歩▲5六金△6六銀と強攻していきます。先手は7三の桂を取る余裕がありません。
このように、相手が訴えかけている事象(この場合では7三の桂取り)に対し、それを超えるような要求で返すと、相手の指し手を無効化することが期待できます。(第10図)
これを▲同金寄△同歩▲同金と清算しても、△6五銀で後手の攻めは止まりません。
本譜は▲7八歩で馬の利きを遮断しましたが、△7九馬が痛快な捨て駒で寄り形が見えてきました。後手が着実にゴールへ近づいていますね。(第11図)
終盤
これを▲5八玉とかわすと、△6七銀不成▲同玉△4六馬▲同金△4九角の王手飛車が待っています。よって、▲7九同玉△6七銀不成と進むのは必然ですが、先手は玉が裸の上、逃走する術も難しいので厳しい情勢ですね。
真田八段は▲2五桂△5六銀成▲5三歩とせめて一太刀と迫りますが、△5七歩が粘りを許さないトドメとなりました。(第12図)
▲8七飛で拠点を払われないようにしたことがこの手の自慢です。同時に、△8八金からの詰めろにもなっていますね。
真田八段は▲5七同角で抵抗しますが、△5八金が詰めろ角取りなのでどうにもなりません。以下、▲7七角△5七成銀▲5二歩成△同飛▲5三歩と進みましたが、これは形づくりです。(第13図)
先手玉には詰みがありますね。野月八段は△8八角▲同角△6八金▲8九玉△8八歩成▲同玉△7九角▲8七玉△8六歩と追って、しっかり着地を決めました。(第14図)
▲同玉は△8五銀から頭金を打てば先手玉は詰んでいます。本譜は▲7七玉と逃げましたが、△6七金で大同小異ですね。実戦はその局面で終局しています。
本局の総括
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!