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第69回NHK杯 丸山忠久九段VS佐藤康光九段戦の解説記

NHK杯 丸山 佐藤

今週は、丸山忠久九段と佐藤康光九段の対戦でした。

 

丸山九段は居飛車党で、攻め将棋。先後に関係なく先攻を目指すことが多く、イニシアチブを握ることを相当に重視されていることが特徴の一つですね。

二回戦では佐々木大地五段と戦い、角換わり早繰り銀を採用して三回戦に勝ち上がりました。
第69回NHK杯 丸山忠久九段VS佐々木大地五段戦の解説記

 

佐藤九段は力戦形を好むタイプで、棋風は攻め。剛腕の持ち主で、不安定な陣形をまとめる技術や、丸太を振り回すような破壊力のある攻めが持ち味です。

二回戦では安用寺孝功六段と戦い、角交換振り飛車を打ち破って三回戦へと進出しました。
NHK杯 佐藤第69回NHK杯 佐藤康光九段VS安用寺孝功六段戦の解説記

 

なお、本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント


第69回NHK杯3回戦第7局
2020年1月26日放映

 

先手 丸山 忠久 九段
後手 佐藤 康光 九段

序盤

 

初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△8八角成▲同銀△4二銀▲4八銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

NHK杯 丸山 佐藤

後手番の佐藤九段は、ダイレクト向飛車を採用します。対して、丸山九段は素早く▲4七銀型に組み、銀冠を作りに行きます。この[▲4七銀型+銀冠]というフォーメーションは、角交換振り飛車に対して万能に用いることが出来る有力な手法の一つですね。

 

ここから後手は様々な構想がありますが、佐藤九段は△3三桂と跳ねて、その後、銀冠を目指しました。ただ、結果的にはこの指し方が波紋を呼んだところはあります。(第2図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

第1図から数手ほど進んだ局面です。ここで先手が平凡に指すなら、▲3六歩△7二金▲3七桂が一例ですね。それを選ぶと、以下のような局面になることが予想されます。(仮想図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

これはこれで一局の将棋ではありますが、先手には「打開の義務」があるので、どこから仕掛けの糸口を見出すのかという問題が浮かび上がってきます。

また、後手は上図のような隙の無い陣形を作ることが理想の一つなので、これは作戦の趣旨が通っている印象も受けます。なお、この布陣の優秀性については、こちらの記事をご覧ください。

菅井竜也王位から学ぶ、角交換振り飛車の心得

 

そういった背景があるので、第2図から丸山九段は▲5六角という積極策に打って出ました。(第3図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

この段階で角を手放すのは大きな決断で、リスクを伴う一手ではあります。ただ、第3図は先手のほうが金銀の配列が良く、自陣の安定感には大きな差が生まれています。短期決戦に持ち込めば、先手はその差がより顕在化するだろうと見ている訳ですね。

この角打ちが成功するか否かが、優劣の分かれ目と言えるでしょう。

 


中盤

 

NHK杯 丸山 佐藤

後手は3四の歩を狙われていますが、△3五歩には▲3六歩と突っ掛けられると桂頭が負担なので、指しにくいところではあります。

ゆえに、本譜は△7四歩▲3四角△3二金であっさり歩を渡す方針を採りました。これなら「▲3四歩」と指される確率はほぼゼロなので、桂は安定しますね。

対して、先手は悠然と▲6六歩と突き、自陣を充実させました。(第4図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

さて。見た目は穏やかな局面ですが、実を言うと後手は指す手がなかなかに難しい場面を迎えています。

最も指したい手は△7二金ですが、それには▲2四歩△同歩▲2三歩△2一飛▲2四飛という仕掛けがあります。この変化を受け入れるプランも考えられますが、やはり飛車が押し込まれるのは嫌なところでしょう。

後手がその攻め筋に備えるなら△2一飛になりますが、これは▲1六歩△7二金▲1五歩で端を伸ばさられる手が面倒です。(A図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

次は▲1四歩△同歩▲2四歩△同歩▲1二歩という狙いがあり、後手はすこぶる忙しい状況です。これは△2一飛と引いた手が裏目に出ており、後手は失敗していますね。

 

要するに、後手は潜在的に1・2筋から仕掛けられるリスクを抱えており、囲いを完成する余暇が取れないのです。

 

NHK杯 丸山 佐藤

そこで、佐藤九段は△5五銀と揺さぶりました。これには▲6七金右で歩を守るのが自然ですが、それを見て△7二金と待望の一手を指します。(第6図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

ここで先手は▲2四歩△同歩▲2三歩△2一飛▲2四飛という仕掛けを決行する権利がありますが、それには△6九角という打ち込みがあります。事前に[△5五銀⇔▲6七金右]の交換を入れた効果で、後手はこの手が指せるようになっているのですね。(B図)

 

という訳で、丸山九段は方針を切り替えます。じっと▲4五歩と突いたのが柔らかい発想でした。自ら角の退路を断つので浮かびにくいですね。(途中図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

この手は[▲4四歩△同歩▲5二角成]という攻め筋を見せることで、5五の銀をフリーにさせないようにした意味があります。

後手は動かす駒が難しいので△2一飛と引きましたが、▲6五歩が機敏な一手。何とこれで後手の銀は捕まっているのです。(第6図)

 

NHK杯 丸山 佐藤

ご覧のように、後手は5五の銀を引くことが出来ないので、あの銀を救助させる術がありません。佐藤九段は感想戦で「危機感が足りなかった」という旨の発言を残されており、苦笑されていました。確かに、この局面は先手の角のほうが狭く見えるので、まさか銀の命が危ういとは思い難い場面でもあります。

 

後手にとって致命的なことは、飛と銀の位置関係が悪く、どうやり繰りしても連動できないことにあります。

本譜は△6四歩と突いて暴れていきましたが、▲2四歩△同歩▲5六歩が卒のない手順。2筋の歩を消した理由は、後ほど明らかになります。(第7図)

 

後手は△6六銀▲同金△5七角と進めて馬を作りにいきますが、▲6七金引で問題ありません。このとき、2筋の突き捨ての効果がテキメンに表れていることが分かります。(途中図)

 

もし、突き捨てが無ければ△3五角成で角が憤死しているところでした。これなら1六へ退路があるので、先手の角は安泰です。

本譜は△3九角成で桂の回収に向かいましたが、▲2六飛△2五歩▲4六飛△2九馬▲4四歩と飛車を中段で活用したのが巧く、先手は好調に事を運んでいきます。(第8図)

 

これで4筋の突破が確定したので、先手は3四の角が働く目処が立っています。[堅い・攻めてる・切れない]という必勝パターンを早くも確立し、先手の優勢は火を見るよりも明らかですね。

 

佐藤九段は△2四飛▲3五銀△1四飛で先手に銀を投資させますが、▲6四歩が冷静な取り込み。じっと力を溜められると、後手は対応に困るのです。(第9図)

 

囲いのキズを消すなら△6二歩ですが、それを指すと▲4三歩成のときに△4五歩と打つ一歩がありません。6三の地点にキズが残ることが確定したので、先手は寄せの難易度が少し容易になりました。

▲6四歩のような敵陣に歩を伸ばす手は地味ではあるのですが、形勢が良いときは伸るか反るかという勝負に出る必要はありません。このように、淡々とローリスクローリターンの手を積み重ねるほうが明快なのです。

 

佐藤九段は受け一方では勝機が無いと見て、△6六歩▲6八金引△1九馬▲4三歩成△3七馬で開き直ります。しかし、▲6三歩成が軽妙な成り捨てで、先手はさらにリードを広げることに成功しました。(第10図)

 

こうして第10図を眺めてみると、やはり玉型の差が甚だしく、先手が非常に勝ちやすい印象を受けますね。同時に、先手は金気やと金の数が多く、物量で圧倒している点も心強いでしょう。

 

先手は中盤で優位を握ってからも全く緩むことなく指し手を紡ぎ、相手を突き放して終盤戦を迎えることが出来ました。

 




終盤

 

後手は△6三同金と取りたいのは山々ですが、それには▲5三とで先手の攻めが加速してしまいます。(C図)

やむを得ず、佐藤九段は△4五歩と飛車を堰き止めますが、▲7二と△同銀で金を剥されたのは大きな痛手ですね。以下、▲1六飛△3四飛▲同銀△4七馬▲6三歩と進みます。

最終手の▲6三歩も、攻めを加速する垂れ歩で汎用性の高い手筋です。価値の低い駒で攻めることが出来る場合は、それを実践するのが賢明ですね。なぜなら、リソースが少ない分、利回りが良いからです。(第11図)

 

△同銀は▲5三とが厳しく、後手は支えきれません。

佐藤九段は△6七歩成▲同金直△6一歩と粘りましたが、拠点を放棄するので辛い選択ですね。丸山九段は▲5二飛と打ち、着々と寄せの準備を進めます。

 

後手は少しでも敵玉に迫っておかないと勝機がないので、本譜は△6四香▲6二歩成△同歩▲6六歩△6九銀で、金を剥せる状況を作り、プレッシャーを掛けました。(第12図)

 

さあ。先手にとっては決め所です。現局面は勝ち方が一通りではないので、棋風が出ますね。直線的に攻めるなら▲5三と、手堅く受けるなら▲7九金打が候補でしょうか。

 

丸山九段は、▲3二飛成で金を入手しました。駒得を拡大するので自然なようですが、これは彼我の玉型に影響をあまり与えていないので、少し中途半端だった感があります。

佐藤九段は、すかさず△6六香▲同金△7八銀成▲同銀△5七馬と肉薄します。突如、先手玉は薄い格好になり、かなり嫌らしい格好になりました。どのように受ければ良いのでしょうか?(第13図)

 

本局のハイライト!

 

 

この△5七馬は、金取りと同時に△7九角からの詰めろになっています。先手は玉型の貯金が消失しつつあり、変調を感じさせますが、ここから丸山九段は真価を発揮するのです。

 

まず、▲6七金打で馬を弾きます。後手は△7九角▲7七玉△7三桂で再び詰めろを掛けますが、そこで▲8八香が的確な受けの決め手でした。(第14図)

 

 

 

安い駒を使って、8八の地点を塞ぐことが急所です。同じようでも▲8八銀は、△8五桂打▲同歩△8六金から寄ってしまうところでした。

 

ここに香を打つことで、先手は▲8七玉→▲9八玉とシェルターへ潜り込めるようになったことが最大の自慢です。再び「玉の堅さ」という主張を手にすることが出来たので、先手ははっきりと勝利に近づきました。

 

後手は攻め足を止める訳にはいかないので、△6五桂打▲8七玉△8五歩で玉頭を突っ掛けていきます。ですが、この攻め方では8八に打った香の力を引き出すので、本意ではなかったでしょう。

丸山九段は▲5七金△同角成で角を入手し、▲7一銀から後手玉を仕留めに行きます。(第15図)

 

これを△同玉は、▲6二竜が成立します。以下、

(1)△6二同玉は、▲5三角。
(2)△8二玉は、▲7一角△8三玉▲7二竜△同玉▲8二金。(D図)

いずれも即詰みです。したがって、この▲7一銀は取ることが出来ません。

 

仕方がないので△9三玉と逃げますが、▲8二角△8三玉▲8五歩が冷徹な勝ち方。8五の地点を押さえてしまえば、先手に負けはありません。このように、玉頭戦では位の勝ちがべらぼうに高くなりますね。(第16図)

 

佐藤九段は△6六馬で金を取りますが、これは下駄を預けた手です。丸山九段は▲8四金△同馬▲同歩△同玉▲8五歩△同玉▲7七桂と畳みかけて、後手玉を寄せ切りました。(第17図)

 

△同桂成は▲同玉が開き王手なので、後手玉は詰んでしまいます。

よって△8四玉と引くのは必然ですが、▲8五歩と打てば先手の勝利は不動です。やはり、この場所を制するのがポイントですね。(E図)

 

(1)△同桂は、▲7三角打△同銀▲同角成△同玉▲6二竜で詰み。

(2)△8三玉は、▲9一角成で必死が掛かります。先手玉はゼットなのでなす術がありませんね。実戦は、▲7七桂の局面で終局しています。

 


本局の総括

 

  • 序盤は穏やかな進行になるかと思われたが、▲5六角が意欲的な打開で局面が動き出す。結果的に、後手は△3三桂と跳んだ手が早かったかもしれない。
  • 3四の歩を取られたあと、後手は自然な手を続けていたが、第4図の局面が思いのほか、制約が多かった。本譜は銀を中央へ上がったものの、これを狙われてしまうことに。
  • ▲4五歩が機敏かつ柔軟な一手。これで後手は5五の銀を助けにくくなり、バランスが崩れてしまった。後手は中段に玉を泳がう。
  • 終盤は後手も懸命に迫ったものの、▲8八香が見事な凌ぎ。これで先手の逃げ切りが見えてきた。本局は、序盤で▲5六角と打っていった作戦が図星だった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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