どうも、あらきっぺです。最近はマインスイーパーにハマっています。このゲームは考え方が詰将棋とほとんど一緒なので、実質、将棋ですね笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 振り飛車編(2020年7・8月合併号)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2020.8/1~8/31)
調査対象局は65局。それでは、戦型ごとに掘り下げて行きましょう。
先手中飛車
駒組みの順番が大事
12局出現。出現率は約18.5%。7・8月よりも高い数字を出しており、人気が回復してきた印象です。
先手中飛車は後手超速への対応に苦慮しており、一時期は下火になっていた時期もありました。けれども、現環境ではそれに対抗できる駒組みを編み出したので、再び採用率が増加しています。具体的には、参考図の布陣に組むことがクレバーな駒組みですね。
なお、この布陣の優秀性については、以下の記事をご参照ください。
最新戦法の事情 振り飛車編(2020年7・8月合併号)
ただ、これに組むには▲3八銀→▲3九玉という手順で玉を囲わなければいけないので、駒組みの順番がすこぶる重要です。今回は、参考図に至るまでに中飛車がどういった順番で駒組みを進めれば良いのかを検討してみましょう。(第1図)
先手中飛車のオープニングでは、よく見られる局面ですね。
さて。現状では相手の作戦がまだ分からないので、こちらも形を決めたくはありません。例えば、ここで▲3八銀と上がると穴熊の含みが消えるので、居飛車に一直線穴熊を選ばれたときに、相穴熊にするという選択肢が消えるので損です。
なので、ここは▲5五歩が無難だと考えられます。対する居飛車も、△3四歩でまだ正体を見せないほうが柔軟性がありますね。(途中図)
振り飛車は、まだ囲いには着手しにくいところです。となると、左辺の形を充実するのが自然ですね。例えば、▲6八銀と上がる手が考えられます。
もし、居飛車が淡々と駒組みを進めれば、不自由なく参考図を目指すことが出来ますね。気になるのは△5四歩と突かれる手ですが、これには▲7七銀△5五歩▲6六銀で、歩の回収を目指します。(第2図)
居飛車は5筋の位を奪回したのは良いものの、中央で相手の銀に威張られたくはないところですね。なので、△5三銀▲5五銀△5四歩と進めて、お引き取り願うのが妥当だと言えるでしょう。
そこからの駒組みは好みが分かれるところですが、一例としては第3図のような進行が挙げられます。(第3図)
2020.8.5 第79期順位戦B級2組3回戦 ▲北浜健介八段VS△中村修九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
居飛車はガッチリと中央を固め、振り飛車は美濃囲いを完成させました。互いに自陣を整備する自然な駒組みでしょう。
第3図はこれからの将棋ではありますが、こういった進行であれば5筋の位が消失したデメリットは感じない印象です。なので、振り飛車としてはまずまずの序盤戦と言えるのではないでしょうか。
先手中飛車にとって後手超速は厄介な相手ですが、手順を尽くせば十分に対抗可能です。参考図の形に組まなければいけないので駒組みの方法は限定されますが、現環境は互角以上に戦えるでしょう。
四間飛車
先手四間は、対急戦が鍵
18局出現。先後の比率は完全な五分(9局ずつ)であり、現環境ではどちらの手番になっても頼りにされている戦法であることが分かります。
居飛車は先手番の場合、端歩突き穴熊を軸にした戦い方をするのが主流の指し方です。これは2020年7・8月合併号で解説した通りですね。例えば、居飛車側はこういった局面を作ることが理想です。(仮想図)
仮想図のように、[端歩突き穴熊VS美濃系統の囲い]という構図になれば、居飛車は大満足の序盤戦となりますね。
ただ、これが後手番の際には、少し話が変わります。確かに端歩突き穴熊は有力なのですが、穴熊を完成させるまでに手数が掛かってしまうことがネックです。なので、手が遅れてしまう後手番ではリスクが高い側面があり、振り飛車の攻めがヒットしてしまうのです。具体的な理由は、以下の記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2019年7月・振り飛車編)
そういった背景があるので、現環境では後手番の際には端歩突き穴熊は目指さないという見解が定着しています。それを証明するかのように、8月では一局も指されていません。
では、居飛車は後手番の際には、どんな作戦が有力なのでしょうか。候補の一つに、急戦策が挙げられます。(第4図)
2020.8.6 第79期順位戦C級2組3回戦 ▲中村亮介六段VS△渡辺和史四段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
これが後手番居飛車の有力な作戦の一つです。居飛車は金無双のような囲いですね。なお、△4二金直という組み方は部分的には昔から指されている手法ですが、従来とは狙いや意味合いがかなり異なります。
基本的に居飛車は急戦を狙っています。なので、振り飛車は▲2八玉△6四銀▲7八飛と指し、それに備えた駒組みを行うのは自然でしょう。
対する居飛車は[△6四銀・△7三桂・△8四飛型]という配置を作り、着々と攻めの準備を整えていきます。(第5図)
なお、この[△6四銀・△7三桂・△8四飛型]という駒の配置は三角形を作っているように見えるので、当記事では「三角陣急戦」と名付けて解説したいと思います。
居飛車は次に△7五歩という仕掛けを狙っています。それを踏まえると、振り飛車は▲5九角と引く手が堅実な対応と言えますね。こうすれば△7五歩と突かれても▲同歩で問題ありません。
ただし、角を引くと攻撃力が下がるので、居飛車はそれを見て方針を切り替えます。具体的には、△3三角▲3六歩△4四歩▲3七桂△4三金右で、持久戦にシフトチェンジしてくるのが面白い構想ですね。(第9図)
居飛車は角道を止めたので攻めることは出来なくなりましたが、後手番なので気にする必要はありません。あとは端歩突き穴熊に組んでしまえば、作戦勝ちが期待できるだろうという算段です。
振り飛車はその前に動きたいのですが、直前に角を引いてしまった以上、スムーズに打開するのは簡単ではありません。第6図の振り飛車は、攻撃力が低い状態で打開の術を探っていかなくてはいけないので、なかなか大変という印象を受けます。
このように、[金無双+三角陣急戦]というコンビは、先手四間飛車にとって手強い相手であることが分かります。この段階に至っても、まだ居飛車が持久戦の含みを持っているという点が厄介なところですね。
振り飛車は後手番であれば待機に徹すれば良いので苦にはならないのですが、先手番なのでそういう訳にもいかないところがネックです。先手番で四間飛車を指すプレイヤーには、解決しておかなければいけない戦型の一つだと言えるでしょう。
また、居飛車の急戦策と言えば、elmo囲い急戦を忘れてはいけません。これも昭和の時代から指されている急戦とは明らかにグレードアップされている作戦なので、振り飛車にとって対策は必須でしょう。(参考図)
例えば、[四間飛車 VS elmo囲い急戦]という戦型において、こういった局面は頻出しますね。
elmo囲いは、舟囲いよりも高い強度を誇ります。なので、振り飛車は昔ながらの平凡な対応では面白くありません。elmo囲いの弱点を突くような指し方が求められているのです。その具体的な方法については、豪華版のほうで解説しております。宜しければご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年9月号 振り飛車編)
三間飛車
石田流には頼らない
18局出現。こちらも四間飛車と同じく、先後の比率は同一でした。
三間飛車は長らく「石田流への組み替えを目指して主導権を握る」という戦い方をしていました。これは、2018年の後半辺りから主流になった戦略ですね。
しかし、8月においては石田流に組み替える指し方は下火になっており、わずか4局の出現に止まりました。これは、居飛車の▲6六銀型穴熊が強力だからだと推察されます。詳しくは、最新戦法の事情(2020年5・6月合併号 豪華版)をご覧ください。
石田流への組み替えは魅力的な作戦ではあるのですが、現環境では対処法が確立されており、振り飛車は以前のように主導権を握る展開にはなりません。ゆえに、多くのプレイヤーは石田流以外の作戦に可能性を求めるようになりつつあります。
その中でも、ひときわ目を引いたのがこの将棋でした。(第7図)
2020.8.27 第79期順位戦B級1組4回戦 ▲久保利明九段VS△丸山忠久九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
居飛車が△3三角と指したことから、持久戦系の将棋になることが予想される局面ですね。振り飛車は石田流を目指すのであれば▲6七銀型がベターなので、第7図は、石田流ではない作戦を指す気配がすでに漂っています。
ここから本譜は、▲3六歩△4四歩▲4六歩△4三金▲3七桂△5三銀▲5八金左と進みました。振り飛車はいち早く右の桂を活用しており、これは三間飛車では見慣れない手法ですね。しかしながら、これが相手の駒組みに制約を与える構想なのです。(第8図)
さて。居飛車が囲いを発展するのなら△2二玉が普通ですが、間接的に相手の角の射程圏内に入るので、▲4五歩と仕掛けられる恐れがあります。
そこで、本譜は△7四歩▲2八銀△4二銀上▲2九玉△6四銀と進めました。これは作戦を急戦にスイッチすることで振り飛車の作戦を咎めようという意図ですが、▲6五歩が用意の切り返しです。(第9図)
これを△6五同銀だと、▲4五歩△同歩▲6八飛という攻めがあります。これは振り飛車の駒が捌けていますね。かと言って、ここで銀を引くようでは居飛車の作戦が失敗であることは明白です。第9図は、振り飛車満足の将棋と言えるでしょう。
話をまとめると、現環境の三間飛車は、第8図のように石田流には頼らない方法で主導権を握ろうとする傾向があります。現時点では色々と試行錯誤しており、特定の形が流行っている印象は受けません。そういったトライアル・アンド・エラーがどういった結果に収束するのか、少し注目しています。
角交換振り飛車
景気が悪い
6局出現。7・8月と比較すると、出現率は16.1%→9.2%と落ち込んでおり、残念ながら支持を得られていません。
先月の記事でも述べたように、現環境の角交換振り飛車は苦労が多いこと、及び角道を止める振り飛車に人気が集まっているので、採用する理由が乏しい戦法になってしまっています。そういった背景があることから、しばらくは不景気が続くと予想しています。
その他・相振り飛車
リスクとリターンの兼ね合い
11局出現。なお、そのうち相振り飛車は2局のみ。
6・7月では向飛車がプチブームだったのですが、8月では2局の出現に止まりました。どうもブームは一過性のものに終わってしまったようです。
全般的な傾向としては、角道を止めない振り飛車が多いですね。具体例として、こういった将棋が挙げられます。(第10図)
2020.8.27 第92期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 ▲長沼洋七段VS△田中悠一五段戦から抜粋。
この作戦は主流ではありませんが、ときおり指される変化球の一つです。
ここで先手が▲2二角成△同飛▲6五角と指すと、大乱戦になります。振り飛車にとってはリスクのある変化ですが、正確に応じれば互角の形勢をキープすることが可能です。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
この△3二飛はなかなかに挑発的な一手ですが、先手も良くしようとすると、簡単ではないという事情があります。
したがって、本譜は穏便に▲6八玉△4二銀▲7八玉と指しました。ただ、これなら△5二金左▲2五歩△3三角と進めることで、振り飛車は角道を通したまま駒組みが出来るようになります。(途中図)
ここで▲3三同角成は△同銀で何事もないですね。という訳で、ここからは淡々と陣形の整備に勤しむことになります。十手後には、このような局面になりました。(第11図)
居飛車が▲4七銀型に構えているのは、角交換振り飛車に対応しやすくするためですね。
第11図は平和な序盤戦ではありますが、振り飛車は角道のオン・オフの切り替えが権利なので、普段よりも選択肢が多いことが主張になります。相手の態度を見て作戦を選べるようになるので、少しお得な序盤戦が出来るようになることが美味しいところですね。
こういった旨味は、4手目に△4四歩と指す将棋では味わえません。将来の得を掴み取るために、後手は4手目に△3二飛と回っているのです。
この作戦は冒頭にリスクがあることは確かですが、挑発に乗られても五分、乗って来なければ条件の良い序盤戦になる、という二択なので、後手にとって悪くない作戦ではないかと思います。
戦型の決定権を相手に委ねている嫌いはありますが、三間飛車と角交換振り飛車の両方が使えるプレイヤーであれば、持ち球に加えておきたい指し方の一つと言えるでしょう。
序盤の知識をもっと高めたい! 常に作戦勝ちの状態で戦いたい! という方は、こちらをご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年9月号 振り飛車編)
最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。
有料(300円)ではありますが、その分、内容は深堀しております。よろしければご覧ください!
今回のまとめと展望
【先手振り飛車は、より取り見取り】
現環境において、先手番の振り飛車は選択肢が広いですね。角交換振り飛車は魅力に乏しいですが、他の戦法であれば大いに戦えます。特に、四間と三間は端歩突き穴熊に組まれにくいので、持久戦になったときに条件が良いことが嬉しいところですね。
【居飛車の取るべき戦略】
全般的には、急戦よりも持久戦のほうが有力だと感じています。今回の内容で言えば、後手超速は振り飛車も抵抗力をつけていますし、第8図の将棋も、急戦策が上手くいっていません。
理想は端歩突き穴熊ですが、後手番の際には条件が悪く、かなりのリスクを伴います。そうなると、ミレニアムに組んだり、端の位を取らせた穴熊に組むようなことになるのが代替案ですね。先手番と後手番では、端歩の対応を使い分けることが必要かなと感じています。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!
1年ほど前から最新戦法の事情を読ませてもらっている者です。
こちらが先手中飛車で相振りになった時に左に囲う作戦はもうさされていないのでしょうか?
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
その作戦は、今もポツポツとは指されておりますが、主流ではないといったところですね。
これは、相振り飛車でも十分に戦えるので、わざわざ左に囲わなくても良いという考えが浸透したからだと推測されます。
返信ありがとうございます。
ポツポツさされている左玉の作戦は、以前のような左穴熊ですか?それともエルモ囲いとかその他の囲いでしょうか?
その選択は、プレイヤーの好みが分かれますね。例えば、先手中飛車のスペシャリストの一人である北浜八段は、左穴熊を採用されるケースが多い印象です。
また、それの派生形として、玉を左に移動する前に▲9六歩と端歩を打診するケースもありますね。端歩を受ければ相振りに、▲9五歩と突き越せれば、elmo囲いに組むといった要領です。
中飛車左玉系の将棋は、特定のプレイヤーが好んで指している戦法でもあるので、ちょっとトレンドとは道が逸れている感もあります。なので流行るという感じではないのですが、愛好者がいることは確かなので、今後もポツポツと指され続けていく作戦なのかなという印象です。
人によっていろんな手段があるんですね。
9筋の端歩で左玉か相振りか決めるのはねこまど将棋教室の動画で講座をやっているのを見たことがあります。
返信ありがとうございました。これからも引き続きブログを拝見させていただきます。