元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(9月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。筋肉体操が話題なので拝見したのですが、なかなか面白いですね。個人的には「筋肉を追い込む」というワードがツボで、何度、耳にしても笑ってしまいます。

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。 プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(8月・振り飛車編)

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.8/1~8/31)

 

調査対象局は85局。先月同様、対局数が多めでした。それでは、それぞれの戦型ごとに見ていきましょう。

 

 

先手中飛車

△6四銀型には銀対抗で迎え撃つ。


12局出現。先手番の主力戦法として支持を得ています。

居飛車側は相変わらず△6四銀型を作る作戦が多いですね。対して、中飛車側は▲6六銀型に構える銀対抗の駒組みを選ぶケースが増加しています。(第1図)

 

2018.8/24 第90期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 ▲里見香奈女流四冠VS△藤井聡太七段戦から。

中飛車側が▲4六歩と指した局面です。何気ないところですが、ここで後手が△5二金右と囲いを固めると、▲4七銀△7三桂▲5六銀で銀の応援が間に合ってしまい、仕掛ける手段を封じられてしまいます。

ゆえに△7三桂は絶対手(青字は本譜の指し手)なのですが、それを見て▲5四歩△同歩▲同飛5筋の歩を交換できることが先手の主張です。(第2図)

 

もし、後手に△5二金右の一手が入っていれば△5五歩と打って飛車を捕獲できますが、第2図でそれを実行すると▲7五歩から暴れられて後手不利です。

▲6六銀型は膠着状態になりやすい性質があるのですが、5筋の歩を交換すれば、その心配もなくなります。これは、先手番の利を活かした手順ですね。

 

これは、居飛車側が左美濃のときも同様です。(第3図)

 

 

2018.8/1 第59期王位戦七番勝負 第3局 ▲菅井竜也王位VS△豊島将之棋聖戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

次に△4三金と上がられると5筋の歩交換ができなくなり、千日手の懸念が生じます。よって、▲5四歩△同歩▲同飛と一歩を手持ちにしておきます。後手は△4三金▲5九飛△3四歩と囲いを発展させますが、▲5五銀△同銀▲同角と攻め駒を捌いて先手は軽い配置を作ることができました。(第4図)

 

後手は△6四銀と受けるくらいですが、▲7七角と引いた局面は自分だけ銀を手持ちにしているので、先手は動いた甲斐があったと言えるでしょう。

 

▲6六銀・▲5五歩型は角道を二重に止めているので、本来は重い配置なのですが、先手番の利を活かして5筋の歩を交換すれば、その欠点を克服することができます。現環境は、中飛車側が互角以上に戦えていると考えられます。

 

 

四間飛車

後手番の有力策。


15局出現。そのうち、9局が後手番での採用です。四間飛車は緩やかな将棋になりやすい性質があり、そういった将棋に持ち込むことで、先後の差を抽象化させたい意図があるように感じます。(ちなみに、四間飛車の対極とも言える戦法がゴキゲン中飛車で、これは激化しやすい将棋)

 

居飛車側は当然、穴熊に組むことを目指しますが、これに対しては△5四銀型に構える作戦が有力です。(第5図)

 

2018.8/28 第77期C級1組4回戦 ▲金井恒太六段VS△杉本昌隆七段戦から。

角を右辺へ転回し、7筋の歩を交換する指し方は居飛車穴熊の常套手段ですね。後手は7筋が素通しなのが気になるところですが、ここから△2二飛▲2八飛△7四銀と盛り上がったのが7筋の歩交換を逆用する構想です。

以下、▲6八銀△8一玉▲7七銀右△8二玉▲4八角△7五歩▲5七角△6五歩と進みました。(第6図)

 

後手は△7四銀と盛り上がったあとは、千日手を含みにして待機を続けます。先手は打開する義務があるので、角を5七に設置して、2・3筋方面から動こうとしましたが、角が3七から逸れたので、△6五歩と先攻することができました。

第6図の局面は、持ち歩を溜めて端攻めをするビジョンが見えており、そうなると7筋の位が光り輝く存在になります。(端攻めで得た桂や香を打ち込む足場になる)後手番としては、満足のいく序盤戦だと考えられるでしょう。

 

第5図の局面は、かつては7筋の歩を交換していることを高く評価していて、居飛車側が満足という見解だった印象ですが、歩の交換に手数を費やし過ぎているので、最近では四間飛車側が嫌がっていません。むしろ、歓迎している感すらあります。

△5四銀型の四間飛車は、厚みが作りやすく、防御力が高いことが特徴です。千日手を後ろ盾にして、上手く待機するのがコツですね。現環境は、後手番で採用する価値は大いにある印象です。

 

 

三間飛車

玉を深く囲う前に……。


17局出現。先後ともに多く指されており、ホットな戦型です。

今回は先手番での指し方に話を絞ります。8月はさっさと▲6六歩と突いて角道を止める指し方が増加しました。早い段階で角道を止めると、居飛車に穴熊に組まれやすい懸念がありますが、最近はそれを構想力でカバーしています。(第7図)

 

2018.8/19 第3回YAMADAチャレンジ杯 決勝 ▲大橋貴洸四段VS△近藤誠也五段戦から。

ここから後手が△1二香や△3二金などで穴熊に囲う駒組みにこだわると、▲5六銀→▲4五銀→▲1七桂という要領でトマホークを誘発し、危険を伴います。こちらの将棋が好例ですね。 ~トマホークの攻防~ 第68回NHK杯解説記 安用寺孝功六段VS広瀬章人八段

 

よって、本譜はそれを警戒して△3二銀と指しました。以下、▲1五歩△2四歩▲5八金左△2三銀から後手は銀冠に組みます。後手の理想は、もちろん銀冠穴熊ですね。

対する先手は、玉を4八に置いたまま、着々と駒組みを進めていきます。これが、好着想でした。(第8図)

 

第7図から十数手後の局面です。先手が玉の移動よりも、▲3七桂や▲5六銀といった攻めの手を優先的に指していることに注目して頂きたいです。

後手は△1二香から銀冠穴熊へ組み替えたいのですが、▲2五歩と仕掛けられるのが目に見えているので、実戦的には選びづらいでしょう。「タテ」から攻める展開になると、先手の▲4八玉型が活きてきます。

また、角道を開通させておかないと▲6五歩があるので、△4四歩を突くこともできません。

結局、本譜はプレッシャーに屈して△3一玉と妥協しましたが、これだと堅い囲いには組めません。先手はそれに満足して、▲3九玉△7四歩▲4七金と通常形に戻しました。後手の玉は囲いからはみ出ているので、「ヨコ」から捌き合えば、先手に分のある将棋です。

 

このように、▲4八玉型のまま駒組みを進めれば、後手の駒組みを牽制できることが分かってきました。そうなると、以前、流行していた普通の三間飛車と角交換振り飛車を両天秤にする指し方を選ぶ理由が乏しくなります。

現環境は、角道を止めるほうが主流で、三間飛車も十分、戦えています。居飛車側としては、早めに△4四銀型を作って角の利きを間接的に緩和するなど、速攻を警戒した駒組みが必須でしょう。

 

 

角交換振り飛車

赤信号が点灯しつつある。


13局出現。先手番は2局のみ。先手の場合、打開する手段を見出さなくてはいけないので、それなら他の振り飛車を選びたいという節を感じます。

後手番では、△4二飛・△3三角型の組み方が人気だったのですが、厄介な対策が出現しました。(第9図)

 

2018.8/5 第39回日本シリーズ JTプロ公式戦 ▲丸山忠久九段VS△久保利明王将戦から。

△4二飛・△3三角型の角交換振り飛車には、左美濃+▲7七角・▲4六銀型で3筋を攻めるのがポピュラーな作戦です。

ただし、第9図から直ちに▲3五歩と仕掛けても、△同歩▲同銀△6四角▲4六銀△4四歩▲同角△4五歩▲3七銀△4三銀▲7七角でぱっとしません。(A図)

 

先手は歩得という主張はあるものの、3七の銀が釘付けで活用が難しく、このあと苦労しそうな印象を受けます。居飛車側が好んで選ぶ変化ではないでしょうね。

 

第9図に戻ります。

「▲3五歩が上手くいかないのであれば、攻める手段が無いでしょ」というのが後手の言い分だったのですが、丸山九段は新たな仕掛けを披露します。ここから▲5五歩△同歩▲同角と5筋から動いたのが面白い手法でした。

後手は△7三角で応対しますが、▲同角成△同桂▲6六角と進んだ局面は、先手良しです。(第10図)

 

なぜ、第10図が先手良しなのかと言うと、次の▲3五歩と▲7五歩の桂頭攻めを後手は同時に受けることができないからです。

特に、▲7五歩のほうが強烈です。後手は7・8筋方面を戦場にされると△3二金と△4二銀が無用の長物になってしまうので、効率に差を着けられてしまうんですね。実戦も、この二枚の金銀は一歩も動くことなく終局しています。

 

本局以降、△4二飛・△3三角型の角交換振り飛車は一局しか指されておらず、(しかも、結果は先手勝ち)振り飛車側があからさまにこの戦型を避けていることが分かります。

長らく主力になっていた作戦に赤信号が灯り、角交換振り飛車は作戦の幅が狭まりました。来月以降は局数が減少することが予想されます。

 

 

ゴキゲン中飛車

復興の気配……?


10局出現。7月同様、それなりの数が指されています。居飛車は判で押したように超速を使ってきますが、それには△4四銀型で対抗するのが主流です。これは、先手中飛車の▲6六銀型と呼応していますね。

後手の場合、一手のズレが大きいので5筋の歩を交換することができません。したがって、膠着状態になりやすい性質を利用して、待機策を取ることになります。

特に、印象的だったのはこの将棋です。(第11図)

 

2018.8/9 第77期B級1組4回戦 ▲渡辺明棋王VS△菅井竜也王位戦から。

自然な発想は△5四銀と駒を中央へ活用する手ですが、本譜は△4四銀とあえて、こちら側に上がりました。先手の仕掛けを封じることを重視した意味です。

以降は、3二の金をひたすら玉に近づけて、囲いを発展させます。(第12図)

 

ここまで立派な形に組めれば、振り飛車もまずまずといったところでしょうか。もちろん、居飛車側も好形ですし、右桂を使いやすいので悪い理屈はありません。この辺りの判断は、プレイヤーの好みが出そうですね。

 

基本的に、△4四銀型は自分から動くこと(主導権を握ること)を諦めており、多少、相手任せな意味合いがあります。また、指し手の傾向から序盤は互角になることが目標で、少しくらい悪くなっても仕方がない。中終盤の力で勝負する、というニュアンスも感じます。

そういう意味では超速に対して具体的な対策を打ち出せておらず、復権したとは言い難いのですが、対局数が増加していることは確かな事実なので、再流行の予兆と言えるかもしれません。今後に注目ですね。

 

 

その他の振り飛車

向飛車が多い。


9局出現。そのうち、向飛車が6局。先手番で▲6七歩型の向飛車を選ぶケースが多いですね。

ただし、これは仮の姿で、相手の形を見て▲6六歩を突いたり、他の筋へ振り直したり、まさに三者三様です。

体系化がしづらく、力戦系の将棋に誘導しやすい性質があるので、定跡型を好まないプレイヤーには持ってこいと言えるでしょうか。

 

 

相振り飛車

先手は中飛車が多い。


9局出現。そのうち、4局は先手が中飛車です。これは、初手に▲5六歩を指すプレイヤーが多いためですね。特筆すべき事柄はなかった印象です。

 

 

今回のまとめと展望

 

・現環境は、先手番は三間飛車。後手番は四間飛車が有力だ。角道を止める振り飛車の評価が上がっている。 

 

 

超速系統の将棋には、銀対抗の形で戦うのがベスト。逆に言えば、それ以外の駒組みは芳しくないので、銀対抗を嫌う中飛車党のプレイヤーは苦労が絶えないだろう。

 

 

・角交換振り飛車は下落気味。現状は避けた方が無難と言える。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

2 Comments

たかっしー

他の記事も面白いですが、この最新戦法記事はとても役に立ちましたありがとうございます
ここ数ヶ月将棋から離れていたので、復帰する際に非常に助かりました

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あらきっぺ

はじめまして。
ご覧いただき、ありがとうございます! 一助になれたようで、誠に嬉しく思います。
今後も続けていくので、ご期待ください!

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