元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(2月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。自分が子どもの頃、通っていた道場に「マジカルエミちゃん」と名のる謎の おっさん 地下アイドルがいたのですが、最近その方がテレビに出演されたという噂を聞き、衝撃を受けました。世の中、分からないものですね……。

先月に引き続き、プロの公式戦を分析し、その傾向から最新の序盤事情を記していこうと思います。タイトルにも書いてある通り、今回は相居飛車の将棋を見ていきます。

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.1/1~1/31)

 

調査対象局は82局。戦型ごとにそれぞれ、見ていきましょう。

 

矢倉

11局出現。苦労が多い割には意外にも指されていますね。ちなみに、矢倉を採用するプレイヤーの多くは40~50代でした。やはり、その年代の棋士にとっては最も時間を費やして勉強した将棋(だと思われる)なので、愛着があるということでしょうか。内容的には相変わらず後手の急戦策に苦戦していて、NHK杯の佐藤(康)―斎藤戦のように、玉型が安定する前に仕掛けられてリードを奪われているパターンが多い印象です。

急戦に対抗するための良いアイディアが生まれたということもなく、特に先月から環境の変化は見られません。強いてその点を挙げるなら、互いが金矢倉に囲った将棋はゼロだった。そのくらいですかね。

 

角換わり

 

19局出現。先月同様、最も多く指された戦型で、多くのプレイヤーが主力にしていることが分かります。

基本的に先手は▲4八金型の腰掛け銀を目指します。対して、後手は今まで△6二金型の腰掛け銀で対抗することが多かったのですが、このところ早繰り銀を有力視しているプレイヤーが増えたように感じます。△6二金型で待機するよりも、積極的に動いていける早繰り銀の方が魅力的ということでしょうか。

早繰り銀と言えば、前回はこのような将棋を紹介しましたね。(第1図)

 

しかし、1月に入ってからこの局面は一度も出現しませんでした。

形勢は互角かと思いますが、先手としては6八に上がった玉が戦場に近づいている嫌いがあるのは確かです。また、第1図から▲7五同歩△同銀は必然ですが、スムーズに相手の銀を五段目まで進ませることに抵抗があるのかもしれません。そこで、もう少し工夫した駒組みを模索するようになりました。(第2図)

 

2018.1/9 第76期順位戦C級1組9回戦 ▲西尾明六段VS△永瀬拓矢七段戦から。

居玉であることと、▲3七桂ではなく腰掛け銀の形を優先していることが先手の工夫です。これは、居玉で相手の攻めから遠ざかる腰掛け銀に組むことで相手の銀を▲6五歩で追い返せす手を作る、という狙いがあります。

第2図から△6四銀は▲6五歩で上手くいかないので、本譜は△8四銀と上がります。以下、▲9六歩△7五歩▲2五歩△7六歩▲同銀△7三銀▲6七銀左と進みました。(第3図)

 

この局面をどう見るか。先手は先攻されたものの、陣形は傷んでおらずダメージは受けていません。

とはいえ、後手も8筋の歩交換が権利になったので攻めが空振りになったという訳でもない。つまり、これからの将棋……とは思うのですが、先手は欲を言えば▲9六歩の一手を他の手に分配したいところです。

そこで、さらに尖った対策が登場しました。披露したのは豊島将之八段です。(第4図)

 

2018.1/18 第76期順位戦A級9回戦 ▲豊島将之八段VS△屋敷伸之九段戦から。

第2図とやや形は違いますが、やはり居玉で腰掛け銀というフォーメーションです。

第4図から△6四銀は▲6六歩△7五歩▲6五歩で受けが間に合っています。よって、屋敷九段は△8四銀と上がりますが、▲4八金が意欲的な一手です。(第5図)

 

ここで△7五歩だと、▲9六歩を省略されているので、先ほどの変化よりも後手が損をしています。ゆえに、後手は△9五銀が本命ですが、▲8八銀△8六歩▲同歩△同銀▲8七歩△9五銀▲3七桂と対応して後手の銀を捌かせないようにします。その後は▲7七桂~▲4五桂と二枚の桂を跳んで反撃するのがプランの一つですね。

 

二つの早繰り銀対策を紹介しました。どちらの指し方にも共通していることは、後手に易々と7五の地点に銀を進軍させていないことです。第1図の将棋と比べると、後手は銀の運用に苦労しており、それが先手の工夫の成果と言えるでしょう。ただ、先手には玉を囲う場所が難しいという懸念があるので、後手も戦える印象はありますね。

 

現環境は、先手が▲4八金型と早繰り銀の迎撃が両立できる布陣を模索している段階です。決定版と言える駒組みがまだ確立されていないので、後手としては早繰り銀を選ぶオッズは悪くないと言えます。

 

相掛かり

 

12局出現。12月は7局だったので、なかなか増えています。1月は、「一歩を取らせて堅陣を作る」方針が流行ったように思います。(第6図)

 

2018.1/23 第66期王座戦二次予戦 ▲飯島栄治七段VS△屋敷伸之九段戦から。

後手が△7四歩と突いたところ。代えて、△1四歩なら無難ですが、そういった無駄な手は指したくない! というちょっとわがままな一手です。

このまま淡々と駒組みしても一局ですが、人間は相手の指し手を咎めたいという心理と、実利が大好きな傾向が強いので▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲7四飛と一歩をかすめ取る指し方を選ぶプレイヤーが多数派ではあります。実戦もそのように進みました。

その後、第7図のようになりました。

 

先手が▲7六飛~▲2六飛と飛車を移動している間に、後手は雁木に組むことができました。まだ優劣が着いている局面ではありませんが、「堅さ」というアドバンテージを得た後手に不満は無いでしょう。

このような例もあります。(第8図)

 

2018.1/19 第59期王位戦予戦 ▲野月浩貴八段VS△佐々木勇気六段戦から。

これは、先手が7六にあった歩を飛車で取らせた将棋です。7六の歩は囲いの一部なので失うと陣形が弱くなりますが、銀冠に組むことでその薄さをケアしています。

どちらの事例も、歩を捨てることで手数を買い、そのリソースで堅陣を構築していることに注目して頂きたいです。既存の感覚だと、歩を損した側は早く戦いを起こして持ち歩の数が関係ない展開を目指すのが一般的な戦略でした。しかし、上記の事例はそうではありませんね。手得を攻撃ではなく、防御に投資するのが新しい感覚で、このような手法が確立したのは大きな発見ではないでしょうか。

「一歩を取らせて堅陣を作る」方針は、相手に歩を取ってもらわないことには始まらないので、自力では実行できませんが、駒組みの幅を広げたという意味では一石を投じたと言えるでしょう。

 

横歩取り

 

17局出現。全て△3三角戦法系列の将棋でした。

先手の主な対策としては、先月同様、勇気流と青野流に分散していて、▲8七歩を打つ将棋は少数派です。▲8七歩と打つ将棋は、どちらかと言えば相手の注文を受ける性質の将棋なので、相手の研究に対応するのが大変という話はあるかもしれません。

1月は勇気流の方が対局数が多かったので、今回はそれに絞って話を進めます。勇気流に対しては様々な対策がありますが、個人的には△7六飛と横歩を取る将棋が最も強力ではないかと考えています。(第9図)

 

2018.1/13 第11回朝日杯将棋オープン戦本戦 ▲糸谷哲郎八段VS△八代弥六段戦から。

勇気流の黎明期(私が奨励会を退会する二ヵ月ほど前だったように記憶している)は、△7六飛と横歩を取っても▲6八玉型が活きて先手にならないので、割と抵抗感があるというか、横歩を取る手は軽視されていたようなニュアンスがありました。

しかし、多くの前例が現れると7六の歩を刈り取ることが見た目以上に大きいことが分かってきました。というのも、勇気流は▲3七桂~▲4五桂と桂を使って攻めて行くので、△7六桂で王手角取りの筋を作るだけで、先手の攻めに制約を与えることができるからです。

 

後手としては、NHK杯の畠山(鎮)ー菅井戦のような展開が理想的です。この将棋のように中原囲いを作ってしまえば、彼我の玉型が大差なので圧倒的に後手が勝ちやすいと言えるでしょう。

先手が△7六飛を直接的に咎めるなら、第9図から▲8四飛と回ってしまう手は考えられます。以下、△8二歩▲3三角成△同金(△同桂は▲2四飛で揺さぶられる手が嫌味)▲5八玉△2六飛▲2八歩までは、妥当な進行でしょう。(第10図)

 

2018.1/26 第59期王位戦予選 ▲松尾歩八段VS△佐藤天彦名人戦から。

問題は、この局面が作戦として先手満足なのか? ということです。第10図は相横歩取りの将棋と酷似しており、先手は勇気流を志向したのに、結果的には全く異なる戦法を指すことになっています。
これで良しとするかどうかは、もうプレイヤーの好みや棋風としか言いようがありません。

 

話をまとめると、勇気流の現状は、△7六飛と横歩を取る対策が最も厄介。ただし、第10図の将棋が望むべき進行なら、先手は憂いなく勇気流が指せる。と私は見ています。

 

雁木

 

14局指されました。12月とほぼ同様の出現率です。急戦策に手を焼いているので下火になると予想していたのですが、雁木側が攻撃的な駒組みを選ぶことが多くなり、やや環境が変わりつつあります。(第11図)

 

2018.1/14 第11回朝日杯将棋オープン戦本戦 ▲永瀬拓矢七段VS△佐藤天彦名人戦から。

従来は右の銀を4七か5七のどちらかに配置することが多かったのですが、それで早繰り銀の速攻を受け止めることはできませんでした。ならば、受けではなく攻めに活路を見出そうというのが、この▲3六歩の意図です。

後手は当然、△7五歩から仕掛けてきますが、先手は攻め合いを目指しているので、素直に▲同歩とは応じません。手抜きで▲3七銀が大事な一手です。以下、△7六歩▲同銀△6四銀▲4六銀と進みました。(第12図)

 

互いに銀を四段目まで繰り出しましたね。このような展開になると、先手の居玉が相手の攻めから遠いので、逆に良いポジションになっていると言えます。第12図は後手の方が一手、攻め足が速いのですが、玉が戦場に近いので互角の勝負でしょう。

そして、第12図の将棋よりも、さらに攻撃力を特化させた駒組みも登場しました。(第13図)

 

2018.1/23 第11回朝日杯将棋オープン戦本戦 ▲村山慈明七段VS△三枚堂達也六段戦から。

この将棋では銀を3八に上がっています。雁木系統の駒組みでは、あり得なかった配置ですね。

ここから▲2七銀が意表の構想です。▲3六歩すら省略して敵陣を攻める意味で、今まで雁木が持ち得なかったスピードという武器を搭載しています。

本譜は▲2七銀に対して△7五歩と仕掛けましたが、やはり手抜きで▲3六銀が正しい着手です。攻め合う場合は、△7五歩を無視しましょう。▲3六銀以下、△7六歩▲同銀△7二飛▲4五銀△8四銀と両者、騎虎の勢いで攻め合いますが、銀取りを受けずに▲3四銀!が良い踏み込みで、先手良しです。(第14図)

 

後手は△7六飛で銀を取りたいところですが、▲3三銀成△同桂▲2四歩△同歩▲2三歩が厳しく、先手良しです。最終手の▲2三歩に△同銀は▲6七角が痛いですね。

この構想は、▲3六歩を突かないことで△5五角や△1五角といった角のラインを遮断していることが大きく、雁木側が隙の無い構えで速攻を発動できています。一手たりとも無駄な手が無く、極めて効率の良い構想なので、優秀だと思います。

ただし、注意しなければいけないのは、これは雁木側が先手番だから成立している構想です。もし後手番でこれを実行してしまうと、手数が一手間に合わないので、逆に大惨事となってしまいます。

 

ちなみに、後手雁木は12月同様、先手からの急戦策に苦しめられており、特に環境の変化はありません。

結論を述べると、

後手雁木→ 先手の急戦策が優秀で旗色悪し
先手雁木→ 攻め合う駒組みを選択することにより、互角以上に戦える。

となります。

 

その他の戦型

 

9局出現。一手損角換わりや、3手目▲2五歩から先手が一目散に早繰り銀にする将棋など。1月は特筆すべきことはないように感じました。

 

今月のまとめと展望

 

角換わり・横歩取り・雁木の三つが現代居飛車のテーマ。相居飛車を指す以上、これらの将棋は避けて通れない。角換わりは互角で、先手雁木は復権の気配あり。そうなると、先手で角換わりではなく雁木を採用するプレイヤーが増える可能性はある。

「早繰り銀」が最も注目すべきキーワード。ほぼ全ての戦型で登場しており、汎用性の高い、優秀な配置であることの証明と言える。裏をかけば、早繰り銀に相性の良い駒組みを作ることが序盤を上手く戦うコツなのかもしれない。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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