最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情・居飛車編(2022年2・3月合併号)

どうも、あらきっぺです。基本的に水とブラックコーヒー以外は飲まないのですが、最近知人から紅茶を頂く機会があり、これの良さを知りました。新たなマイブームが始まりそうです笑

 

タイトルに記載している通り、相居飛車の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。

前回の内容は、こちらからどうぞ。

最新戦法の事情 あらきっぺ最新戦法の事情・居飛車編(2022年1月号)

 

注意事項

 

・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・記事の内容は、プロの公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。

 

・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2022.1/1~2/28)

 

調査対象局は167局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

角換わり

端歩の打診が優秀


25局出現。前回の期間から出現率は20%→15.0%と推移しました。角換わりはここ最近、減少傾向にありますが、今回はさらに拍車が掛かっていますね。

先手の作戦は、[腰掛け銀・早繰り銀・桂ポン]の三つに分かれます。オーソドックスなのは腰掛け銀ですが、現環境では基本形△9三歩型で対抗されると、なかなか良くなりません。詳しくは、以下の記事をご覧くださいますと幸いです。

【後手の有力策 (基本形の将棋)】

2020年7・8月合併号

【後手の有力策 (△9三歩型の将棋)】

2021年11・12月合併号

また、桂ポンは決まれば爽快ですが、攻めが軽く一本調子なのでハイリスクハイリターンであることが不安材料と言えます。

それゆえ、現環境では早繰り銀が採用される比率が上がっています。確実に先攻することができ、かつローリスクで攻撃できることが早繰り銀の魅力ですね。

早繰り銀に対して、後手の方針は

(1)相早繰り銀
(2)腰掛け銀

この二つ。ただ、相早繰り銀は先手にも用意があり、互角以上に戦える将棋です。詳しくは、以下の記事をご参照くださいませ。

【相早繰り銀における先手の有力策】

2022年1月号

ゆえに、後手は腰掛け銀を志向する姿勢で戦う方が有力と考えます。今回は、その将棋をテーマにしましょう。(第1図)

角換わり 早繰り銀 基本図
[▲早繰り銀 VS △腰掛け銀]という構図になると、これは頻出する局面ですね。

ここで後手は△5四銀と上がるのが常識でした。対して、先手は▲7八玉△4四歩▲5六歩と組んでおきます。(図)

角換わり 早繰り銀 対策

これはこれで五分の将棋なのですか、基本的に先手は攻勢に出れる展開になるので、作戦の趣旨に沿った展開になるのが心強いですね。そういう意味では、先手不満なしと評価できるでしょう。

なお、この変化の詳しい解説は、以下の記事をご覧くださると幸いです。

【▲7八玉型の早繰り銀】

詳細は、こちら!

角換わり 早繰り銀 基本図なので、現環境ではこの局面で後手が工夫する動きが出るようになりました。それが△9四歩という打診です。(途中図)

角換わり 早繰り銀 対策

この手の意味は、端的に述べると▲7八玉型に対する威嚇行為になります。と言っても、現状では正直、チンプンカンプンですね。今の時点では、そういう狙いがあるんだなと知って頂くだけで十分です。ひとまず、解説を進めましょう。

なお、この作戦の実例としては、第7期叡王戦本戦 ▲糸谷哲郎八段 VS △佐藤天彦九段戦(2022.2.17)が挙げられます。

角換わり 早繰り銀 対策

さて、この端歩に先手がどう応じるかですが、出来ればこの手を緩手にしたいところですね。そうなると、▲7八玉から囲いを整えるのが妥当でしょう。

これに対して後手は、△7四歩▲6八金△7三桂▲5六歩△7二金と進めます。腰掛け銀のセットではなく、[△7三桂・△7二金型]に構えることが後手の工夫ですね。(第2図)

角換わり 早繰り銀 対策

ここで先手が▲3五歩△同歩▲同銀と動いてきたら、すかさず△7五歩▲同歩△6五桂でカウンターを撃ちます。その進行は、後手の方が効率的に敵陣を攻撃することが出来ていますね。銀の進軍よりも桂の跳躍の方が攻め足が速いですし、何と言っても先手は自玉が戦場に近いことがネック。玉頭から攻められる展開になると、▲7八玉型は脆いところがあるのです。

こういった背景を知ると、△9四歩が▲7八玉型を威嚇していることがお分かり頂けるでしょう。初めに様子見していても、最終的には攻勢に出れることが△9四歩の優秀性を示しています。後手としては、非常に魅力的な作戦ですね。

 

角換わり 早繰り銀 対策

それでは、話を総括します。現環境の先手角換わりは早繰り銀を選ぶ比率が上がりましたが、△9四歩の打診が厄介です。先手の有力策である▲7八玉型を牽制できることが大きいですね。8一の桂を活用する将棋に持ち込めば、後手は主導権を取られることなく対抗できます。

角換わり 早繰り銀 対策

先手は、ここで▲7九玉や▲7八金と指せば桂を使われる将棋は回避できますが、そうすると▲7八玉型が採用できなくなるので、痛し痒しと言ったところ。現環境の角換わりは、先手に苦労が多い印象ですね。

 

矢倉

中住まいで勝負する


34局出現。出現率は20.4%であり、前回の期間よりも3%ほど増えました。角換わりを指していたプレイヤーが矢倉へ流れている傾向もありますね。

後手側は急戦が圧倒的に多く、実に26局が急戦です。そして、先手が左美濃急戦を警戒して▲6七歩型で駒組みを進めた場合、16局が令和急戦矢倉を採用していますね。(基本図)

令和急戦矢倉

現環境では、これの対策が最重要のテーマだと言えるでしょう。

令和急戦矢倉 対策

令和急戦矢倉に対して先手は、こういった構えを作り、▲3七銀→▲4六銀から先攻を目指す姿勢で対抗するケースが主流でした。

ただ、これには△5二金▲5六歩△4一玉が手強い作戦です。(第3図)

令和急戦矢倉 定跡

傍目には▲3七銀から銀を繰り出せば先手が攻勢に出れそうですが、後手は優秀な迎撃策を編み出しており、一筋縄ではいかないのが実情です。

詳しい理由につきましては、以下の記事をご参照くださいませ。

【▲3七銀→▲4六銀が上手くいかない理由】

詳細は、こちら!

令和急戦矢倉

そこで、先手は違うプランを模索する動きが出ています。具体的には、ここから▲2四歩と突き、横歩取りを狙うプランですね。(第4図)

令和急戦矢倉 定跡

この局面は、基本図から▲2四歩△同歩▲同飛△8五歩と進んだ局面です。

実を言うと、この指し方も先手は以前にチャレンジしており、従来は▲3四飛と直ちに横歩を取っていました。

しかしながら、それには△4四角▲2四飛△2二銀と応じられたときが問題です。(参考図)

令和急戦矢倉 定跡

先手は次に△2六歩を打たれると飛車が狭いですね。ゆえに▲2八飛と引くことになりますが、そのあとに後手に有力な構想があり、先手不満という見解が定着しています。

詳しい内容は、以下の記事をご覧くださると幸いです。

最新 居飛車最新戦法の事情・居飛車編(2020年12月号)

令和急戦矢倉 定跡

そういった事情があるので横歩取り型は下火になっていたのですが、ここで先手は新たなアイデアを披露します。それが▲3八銀△7三桂▲5八玉ですね。(第9図)

なお、この指し方の類例としては、第80期順位戦C級1組9回戦 ▲船江恒平六段VS△三枚堂達也七段戦(2022.1.11)が挙げられます。(棋譜はこちら

令和急戦矢倉 定跡

横歩を取る前に、陣形整備を進めたことが先手の工夫です。矢倉に組むことに拘泥しないのが柔らかいですね。

このあとは、▲3六歩→▲3七桂と右桂を活用してから▲3四飛を実行する要領で指し進めていきます。先手はそういった手順で横歩を取るほうが自陣が安定しているので、参考図よりも得した条件で一歩得する変化に持ち込めますね。

令和急戦矢倉 定跡

後手としては、ここで攻勢に出ることが出来れば先手の構想を咎めることが出来ますが、△6五桂と跳んでも▲6六銀で攻めになりません。先手玉は場合によっては右辺へ逃げていく含みもあるので、そう簡単には潰れない格好ですね。

令和急戦矢倉 定跡

この指し方は矢倉に組む将棋ではなくなりますが、自陣が安定した状態で歩得できることが魅力です。令和急戦矢倉への対策として、要注目の作戦だと言えるでしょう。

 



相掛かり

穏やか路線の指し方が人気


61局出現。出現率は驚異の36.5%。角換わりの先手番が苦労していることも相まって、人気はうなぎ登りです。

相掛かりは作戦の間口が広いことが特徴ですが、先手は7割以上が▲9六歩優先型を採用しています。この形が現環境における相居飛車のホットスポットですね。(基本図)

相掛かり 96歩

ここで後手には複数の選択肢がありますが、支持を得ているのは

(1)△1四歩
(2)△9四歩
(3)△5二玉
(4)△3四歩

この四つになります。

相掛かり 96歩

中でも、相対性理論に則る△1四歩は、今回の期間で最も多く指された手(13局出現)ですね。

ただ、この△1四歩には先手の有力策が二つあり、どちらを選ばれても後手は互角以下の将棋になってしまう懸念があります。ゆえに、先手目線からすると、あまり嫌な対策ではありません。

詳細は以下の記事をご参照くださいませ。

【△1四歩に対する有力策 その1】

2021年11・12月合併号

【△1四歩に対する有力策 その2】

詳細は、こちら!

相掛かり 96歩

そういった事情があるので、ここ最近の後手は(4)△3四歩に活路を求める傾向が強まっています。(第6図)

なお、この指し方の代表例として、以下の対局を挙げておきます。

・第71期王将戦第1局 ▲藤井聡太竜王VS△渡辺明名人戦(2021.1.9~1.10)(棋譜はこちら

 

・第70期王座戦一次予選 ▲服部慎一郎四段VS△池永天志五段戦(2021.1.14)

 

・第7期叡王戦段位別予選 ▲八代弥七段VS△横山泰明七段戦(2022.1.25)

 

・第35期竜王戦2組ランキング戦 ▲三枚堂達也七段VS△広瀬章人八段戦(2022.2.24)

相掛かり 96歩 定跡

この段階で角道を開けるのは、昨今の相掛かりでは少し早いですね。もちろん後手には明確な意図があり、この手を優先しています。それは、選択肢を狭めることですね。

相掛かり 96歩 定跡

先手はここで歩交換をしないと、△3三角でそれを防がれてしまいますね。ゆえに、ここで▲2四歩△同歩▲同飛と行くのは必然。後手も横歩を取られる可能性があるため、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛でそれを受けます。以下、▲2八飛△2三歩▲7六歩△4二玉までは自然な進行でしょう。(第7図)

相掛かり 96歩 定跡

後手があの局面で△3四歩を選ぶと、(基本的には)この局面を迎えることになります。そして、これに誘導することが後手の狙いですね。

昨今の相掛かりでは、歩交換したついでに何らかのメリットを追及する姿勢が顕著です。例えば、歩交換したときに▲2九飛と引ける形を作ったり、横歩を取りに行ったりする指し方のことですね。

相掛かり 96歩 定跡

しかし、このように早い段階で先手の歩交換を強要する将棋に持ち込めば、その含みがサッパリと消えることになります。後手としては、そうして相手の選択肢を狭めてしまう方が対応が楽になるので、作戦負けを回避しやすいと踏んでいる訳なのですね。

相掛かり 96歩 定跡

もう一つの狙いとしては、先手の利を抽象化させることです。

相掛かりにおいて、こうして早期に歩交換を行う将棋は意外に急戦調の将棋にならず、持久戦になることが殆どです。それは、急戦を起こすつもりなら「歩交換したついでにメリットを追及する」姿勢の方が適性が高いからです。ただ歩を交換するだけではスピードが加速しないので、急戦には不向きと言えるのですね。

後手としては、持久戦に持ち込む方が先後の差が曖昧になってくるので、先手の利を抽象化させることに繋がります。

相掛かり 96歩 定跡

もちろん、この指し方にもデメリットはあります。それは、早く突いた3四の歩を守るために、自分も△8四飛型を固定しないといけないことです。つまりこの指し方は、お互いに選択肢を狭める将棋になるのですね。

ただ、後手としては持久戦に落ち着くのであればそれで満足なので、選択肢が狭まるデメリットには目を瞑っているところがあります。ゆえに、△3四歩が支持を得ているのです。

相掛かり 96歩 定跡

この指し方の後手は先攻する展開にはなりにくいのですが、じっくり組み合う将棋になるのでリスクが低いことが魅力です。相掛かりは激しい展開になりがちですが、この形に限っては穏やかな将棋に落ち着きます。堅実な棋風のプレイヤーには、面白い選択かもしれません。

 

雁木

やはり急戦に手を焼いている


21局出現。出現率は前回の期間から15.3%→12.6%と推移しており、減少傾向にあります。

雁木は後手番で多用される作戦です。そして、後手で確実に採用するとなると、2手目△3四歩を経由するオープニングになります。しかし、これには▲7八玉型の急戦策が強敵。これの存在が、雁木の採用数を減らしている要因ですね。(第8図)

雁木 対策 早繰り銀

この局面が、雁木の悩みの種となっているテーマ図です。2手目△3四歩を経由する雁木は、この局面を回避することが難しいので、必然的にこれを打破する方向性で活路を見出さないといけません。

なお、この局面に至るまでの解説は、以下の記事をご参照くださると幸いです。

【▲7八玉型の急戦策 基礎編

2021年11・12月合併号

雁木 対策 早繰り銀

次に先手は、▲6八角→▲3五銀という方法で銀を捌くことを視野に入れています。角を使って▲3五銀を実現すると、先手は2筋の歩も交換できる可能性が広がります。そのベネフィットを得られることが、この作戦が有力である理由の一つですね。

雁木 対策 早繰り銀

さて、後手はひとまず△4三金右で上部を強化します。先手も▲6八角で狙いを進める手を指しますね。そこで後手がどうするかですが、最新の対策は△7五歩▲同歩△4五歩とアグレッシブに動く手順になります。(途中図)

なお、この局面の実例としては、第80期順位戦C級2組9回戦 ▲伊藤真吾六段VS△藤森哲也五段戦(2022.1.6)が挙げられます。(棋譜はこちら

雁木 対策 急戦

この手順の意図は、大駒の効率を最大化させることが目的です。

なお、角道を通すだけなら7筋の突き捨ては不要ですが、これは飛車の働きを良くするために捨てている意味があります。理由は後述するので、ひとまず解説を進めましょう。

雁木 対策 急戦

先手は▲3五銀△同銀▲同角で銀を捌くのが自然ですね。対して、後手は△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛と進めます。ここまで来ると、後手の大駒が生き生きとしている印象を受けるのではないでしょうか。(第9図)

雁木崩し 急戦 定跡 

後手は飛車を四段目に据えることで、▲2四歩を防ぐことが出来ました。加えて、大駒が二枚とも先手の本丸に直射していることも大きいですね。次は△7六銀と打つ手が楽しみです。

第9図は[△7五歩▲同歩△4五歩]という工夫が功を奏しており、後手満足と言えるでしょう。

雁木 対策 急戦

このように、雁木はたとえ先攻されたとしても、後から反撃できる態勢を整えることが出来れば、十分に戦える将棋になりますね。

しかし、残念ながら、これで一件落着とはいかないのです。

雁木 対策 急戦

実を言うと、先手は第9図に至るまでの手順で、一つミスを犯しています。「あること」を心掛ければ、先手は途中図からリードを奪うことが可能ですね。

続きは豪華版の記事にて解説しておりますので、ご興味がある方はご覧くだいますと幸いです。

【[△7五歩▲同歩△4五歩]という工夫を打ち破る方法】

詳細は、こちら!

 

その他の戦型

横歩取りが増加している


26局出現。全体的な出現率は前回の期間と大して差がありませんが、指される戦法の内訳は大きく変化しています。具体的に述べると、横歩取りが増えていますね。(5.9%→9.0%と上昇)元々が少な過ぎる数字ではありますが、ここ最近は増加傾向にあります。

横歩取りは△3三角型に構えるのが一般的ですが、この指し方は青野流が強敵です。これに立ち向かう将棋はそれなりに指されていますが、どれも苦心している印象は拭えません。

そこで、後手は青野流を回避する駒組みに活路を求める動きが出ています。

横歩取り 42玉

図が示すように、△3三角ではなく、△4二玉と上がるのが青野流を避けるアイデアです。これは角を3三に上がらなければ▲3七桂→▲4五桂がヒットしないので、青野流が発動できないでしょうと述べている訳ですね。

横歩取り 42玉

なお、角を3三に上がらないと▲2四飛と戻られる手が生じるのですが、後手にとって、これはそこまで嫌な手ではありません。詳しい理由は、以下の記事をご覧くださると幸いです。

居飛車 最新最新戦法の事情・居飛車編(2021年2・3月合併号)

横歩取り 42玉

ゆえに、先手は▲5八玉が妥当なところ。対して、後手は7四歩と突いておきます。この手待ちが面白い一着ですね。(途中図)

なお、この局面の実例としては、以下の対局が挙げられます。

・第15回朝日杯将棋オープン戦本戦トーナメント ▲藤井聡太竜王VS△船江恒平六段戦(2021.1.16)

 

・第72期王将戦一次予選 ▲佐々木大地五段VS△中座真戦(2022.1.31)

 

・第7期叡王戦本戦 ▲佐々木大地六段VS△船江恒平六段戦(2022.2.20)

横歩取り 42玉

この歩はタダではあるのですが、▲同飛にはすかさず△7七歩と叩かれ、先手は痺れてしまいます。以下、▲同金に△8七歩が痛烈ですね。よって、この歩は取れません。

横歩取り 42玉

後手はこの場所の歩を突けば、▲8四飛と回られる筋を消すことが出来ます。つまり、次に△7六飛と横歩と取りやすくなっているのですね。

先手がそれを嫌うのであれば、▲3六飛と引くことになります。が、これを指させれば青野流が消えますね。そうなると、安心して△3三角▲2六飛△2二銀と組めるという寸法です。(第10図)

横歩取り 42玉

無論、これで後手が作戦勝ちになっている訳ではありません。ここからの駒組みが大事な将棋です。ただ、青野流という強敵を比較的ローリスクで回避して△3三角型に組めることは、後手にとって魅力ではありますね。一気に潰される将棋にはまずならないので、力が出せるフィールドだと言えるでしょう。

横歩取り 42玉

この作戦は、まだまだ未開拓の部分が多いので、これから定跡が整備されていく戦型です。お互いに手探りの部分が多く、やり甲斐のある戦型ではないでしょうか。横歩取りにおける主流になり得るかどうか、目が離せない形ですね。

 


お知らせ

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今回のまとめと展望

 

【角換わりは先手の得を放棄している】

現環境は、相変わらず2手目△8四歩系の将棋が多く指されていますが、先手の選択はずいぶんと様変わりした印象を受けます。

昨年の8月頃は角換わりが最も多く指されていましたが、時を経るごとに徐々に下降していき、今年に入ってからは矢倉よりも少なくなってしまいました。

最新戦法の事情 2手目△84歩に対する分布

※数字は出現率を意味する。 一月毎の出現率の合計が100%にならないのは、2手目△3四歩の将棋も加味した出現率だから。

現環境の角換わりは、腰掛け銀も早繰り銀も上手くいっていないことが辛いところ。作戦として旨味がなく、先手番の利を放棄しているように感じます。角換わりの出現率が低下しているのは、頷けるものがありますね。

 

【行きつく先は、相掛かり?】

上のグラフが示すように、現環境の相居飛車は相掛かりが大人気。そして、この傾向は他の戦型においても強い影響を与えている印象を受けます。

例えば、今回の記事では令和急戦矢倉に対して、こういった作戦が有力と述べました。

令和急戦矢倉 定跡

こうして中住まいに囲うのは臨機応変であり、柔軟に方針を切り替える現代将棋らしい駒運びと言えるでしょう。ただ、こうなると矢倉というより、もはや相掛かりですね。

他には、横歩取りの△4二玉型も、相掛かりチックな作戦です。

横歩取り 42玉

元々、横歩取りと相掛かりは性質が似ている戦型ですが、平成後期に流行した横歩取りは、玉を5二(もしくは6二)へ配置したり、△7三歩型のまま戦う作戦が支持を集めていました。すなわち、下図のような駒組みです。(参考図)

横歩取り 平成後期に盛んだった指し方

これを踏まえると、現環境で指されている[△4二玉・△7四歩型]という配置は、同じ横歩取りと言えども、ジャンルが全く異なることが分かります。

従来は参考図の配置を志向していたので、[△4二玉・△7四歩型]という配置は昔の目線で見ると違和感を覚えることでしょう。

横歩取り 42玉

けれども、この配置も相掛かりを類推すると、そこまで違和感はありません。

昨今ではAlpha流のように角頭に歩を打たずに突っ張る指し方は相掛かりの常套手段ですし、桂の活用を優先するのも普遍的な戦術です。将棋の骨格が、どんどん相掛かりベースになっている印象を受けるのではないでしょうか。

雁木 対策 早繰り銀

裏を返せば、そういったアナロジーが難しい雁木は、苦労している感がありますね。特に、後手番でこうした受けに偏った指し方をすると、急戦策の餌食となってしまいます。現環境の相居飛車は、「いかに相掛かりの良いところを応用できるか」「受け身にならず攻撃的な姿勢を取れるか」。そういったことがキーだと言えるでしょう。

 

それでは、また。ご愛読くださり、ありがとうございました!

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