元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(5月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。先日、仕事帰りの車内で、ばったりプロ棋士に遭遇しました。まぁ、彼とは小学生の頃からの知り合いなのでミーハーにはならないんですが、何か妙なシチュエーションだったのでおかしかったですね。ちなみに、将棋ウォーズで遊んでおりました笑

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。

 

注意事項

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.4/1~4/30)

 

調査対象局は48局。やはり、順位戦の対局がない月は少なくなりますね。戦型ごとにそれぞれ、見ていきましょう。

 

矢倉

5局出現。全ての将棋で先手が序盤早々に▲2五歩を決めており、後手の急戦策を牽制する風潮は相変わらずです。▲2五歩を決めると相矢倉になったときに駒組みの選択肢が狭まるので、後手はそれに満足しておとなしく矢倉に組む将棋も見られました。

 

早く▲2五歩型を決める弊害をクリアするにはこの作戦を先手番で応用するのが最良だと思うのですが、従来の矢倉将棋の感覚と異なることを嫌ってか、ベテラン勢はあまり指さないようですね。若手プレイヤーは角換わりを採用することが多いので、どうもあまり定跡が進んでいない印象を持っています。という訳で、環境としては今までと特に変化は無し。

 

角換わり

6局出現。4月はずいぶん少なかったですね。後手側が角換わりになることを避けている(他の戦型に流れている)傾向があるように感じています。今回はその理由を探ってみましょう。

 

基本的に後手は腰掛け銀にするか、早繰り銀にするかの二者択一なのですが、前者は千日手含みで待機する指し方なので、自分から先攻しづらいデメリットがあります。(棋理的には五分でも、勝負としてはつまらない)

後者は後手番ながら先攻できるので魅力的な作戦なのですが、先手の迎撃策が優秀でなかなか成果が上がっていない。ここまでは前回のおさらいですね。(第1図)

 

2018.4/19 第76期名人戦七番勝負 第2局 ▲佐藤天彦名人VS△羽生善治竜王戦から。

居玉+▲4七銀・▲6六歩型が、早繰り銀に対する最強の構えです。ここで△8四銀には▲3七桂△9五銀▲8八銀で後手の銀を捌かせないようにして、後から右桂を活用すれば先手作戦勝ち。詳しくは前回の記事をご覧ください。

 

上記の手順では攻めの銀が遊んでしまうので、第1図から羽生竜王は△6四銀(青字は本譜の指し手)と指しました。確かに、こちら側に銀を使う方が遊び駒になりにくい意味があります。ただ、▲5六銀△7五歩▲6五歩であっさり銀を追い返されてしまうので、良いことばかりではないのですが。(第2図)

 

銀を引くと▲7五歩で歩損だけが残ってしまうので、ここは△7六歩と取り込む一手。以下、▲7六同銀△7三銀▲7七角と進みました。仕掛けから一段落したこの局面をどう判断するか。(第3図)

 

先手は手得。後手は角を持ち駒に保持。それぞれ主張がありますが、個人的には第3図は先手持ちです。なぜなら、後手は陣形をまとめることに苦労しそうだからです。

 

一見、後手陣の方が引き締まった配置をしているので不可解に思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、後手は銀が二枚とも使いにくそうな印象を受けるのです。

まず、7三の銀ですが、五段目に進軍できるようなビジョンは全く見えてきません。理想は7五に進出することですが、先手の左辺は手厚く、実現は難しそうです。

また、3三の銀は囲いの一部なので安定しているようですが、先手は▲3五歩△同歩▲3四歩という攻め筋を権利に持っているので、この銀は的にされています。つまり、後手は盤面の両サイドに問題点を抱えているので、陣形をまとめることに苦労しそうなのです。しばらく進んだ局面を提示しておきましょう。(第4図)

 

第4図は中盤戦もたけなわの局面ですが、ここまで進むと先ほど述べた懸念が分かりやすく露呈していることが分かります。マーフィーの法則ではありませんが、何となく、第3図の局面からこういう感じになってしまうんだろうなという未来予想図が透けて見えるんですよね。

 

話を整理すると、第1図から△6四銀・△8四銀、どちらを選んでも、後手は芳しくないことが分かりました。やはり現環境は、後手番の角換わりは早繰り銀ではなく、腰掛け銀で対抗するよりないように感じます。ただ、千日手模様で待つくらいなら、他の戦型で勝負したいと考えているプレイヤーが多そうなので、角換わりの登場数が減ったのかなと思っています。では、代わりにどんな作戦が増加したのでしょうか?

 

 

相掛かり

8局出現。▲3七銀型・UFO銀・ヒネリ飛車など、バラエティに富んでおり、十人十色といったところでしょうか。ただ、画期的な戦術は特になかったように思います。

 

 

横歩取り

12局出現。先手が青野流を志向したものが9局もあり、自信を持っていることが窺えます。後手は直線コースの将棋では分が悪いので、(詳細は前回の記事を参照してください)力戦模様の将棋に誘導することが多くなりました。具体例をいくつか列挙します。(第5図)(第6図)(第7図)

 

2018.4/11 第49期新人王戦トーナメント戦 ▲高見泰地六段VS△大橋貴洸四段戦から。

 

2018.4/19 第49期新人王戦トーナメント戦 ▲澤田真吾六段VS△出口若武三段戦から。

 

2018.4/20 第68期王将戦一次予選 ▲木村一基九段VS△三枚堂達也六段戦から。

後手の配置はどれも少しづつ違いがあり、早い段階から定跡型を離脱したいという意思を感じます。

また、ここ最近の傾向として、青野流に対して後手は△4二銀型に構える駒組みが増加しています。今回、取り上げた将棋も全て△4二銀型に組んでいますね。青野流は▲4五桂と攻めてくることが多いので、それに対抗できるようにこのような指し方をしていると考えられます。

 

ただし、銀を4二に配置すると、2筋に飛車を回られたときに歩を受けに投資する必要が出てきます。横歩取りの後手番は2筋の歩を攻めに使えることが長所の一つなのですが、△4二銀型はこれを放棄する指し方なので、果たしてこれが良い構想なのかどうか、評価が悩ましいところです。個人的には、(直線コースが通行止めなので)仕方なく後手が選んでいるように感じるのですが……。

 

結論を述べると、現環境は後手が青野流に対して、どのような対策が優れているのか模索している段階です。先手としては、青野流を指さない理由はないでしょう。

 

 

雁木

8局出現。出現率は先月から12.5%→16.7%と上昇しており、多数の居飛車党がこの戦型に流れている傾向を感じます。特に、4手目△4四歩タイプの雁木がホットですね。(第8図)

 

2018.4/16 第44期棋王戦 予選 ▲飯島栄治七段VS△斎藤明日斗四段戦から。

△3二銀型を維持して、攻撃態勢の構築を優先していることが目新しい工夫です。第8図から飯島七段は▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲4六銀と果敢に仕掛けていきますが、△4五歩で反発されると成功したとは言い難い局面です。(第9図)

 

先手は▲3五銀と出るより無いですが、△7七角成のときにピッタリした取り方がありません。▲同銀は△8六歩▲同歩△8八歩が痛烈ですし、▲同桂△7五歩からの桂頭攻めが厳しいですね。このような急戦調の将棋は、後手の低い陣形が存分に活きており、△3二銀型の餌食となってしまいます。

 

そこで、先手も修正案を編み出します。第8図から直ちに動くのではなく、▲4六銀で力を溜める将棋が登場しました。(第10図)

 

2018.4/23 第31期竜王戦1組ランキング戦 ▲稲葉陽八段VS△広瀬章人八段戦から。

後手は3四の地点が手薄なので、わざわざ▲3五歩と突き捨てて攻めを加速させる必要は無いだろうという判断です。

確かに、このまま3筋を攻められると、後手は受けの形が間に合っていないので、△4三銀と受けるのは妥当です。以下、▲3五歩と仕掛けて先手は先攻することができました。ただし、▲4六銀→▲3五歩という順番で攻めると、3五の歩は絶対に取ってくれないので、攻めが減速する弊害があります。

つまり、後手の狙いは▲3五歩と突き捨てる攻め筋を封じることで、先手の攻め足を遅らせることにあり、これが△3二銀型の構想なのです。(第11図)

 

先手の攻めが減速したので、後手は△3二金と上がり、通常形に戻します。先手も現状では玉型が不安定なので、▲7八金と備えます。以下、△6四銀▲3四歩△同銀と進みましたが、これは難解な形勢です。(第12図)

 

先手は3筋を突っ掛けたことで、雁木の骨格を乱すことができましたが、3筋に費やした歩の手数で手損していることがネックです。(先手は3手。後手は1手。それが盤上から蒸発したので、第12図は先手の2手損)

また、7七の角をどのように評価するのかも悩ましいところです。後手は△7五歩▲同歩△同銀から角をいじめる手が権利ですが、6四の銀を動かすと▲5五角のラインを作るので、安易にこれを実行していいものなのか。あの角は目標になってしまうのか、攻めの主役に化けるのか、良く分からないですね。

 

第12図は、互いに言い分があるのでこれからの将棋という印象です。ただ、互角の範囲内であれば、後手は避ける理由はありません。角換わりの後手を持って千日手模様で待機する指し方よりも面白いと感じているプレイヤーが多いのではないでしょうか。

 

現環境は、雁木は互角の範囲内で収まる展開になりやすく、後手は採用しやすいように思います。数ヶ月前とは違い、速攻に対する対抗策が生まれたことが大きいですね。

 

その他の戦型

9局出現。前回、紹介した「角換わりを拒否して早繰り銀で攻める」作戦は指されていますが、それに対する対抗策が登場しました。(第13図)

 

2018.4/26 第89期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント ▲豊島将之八段VS△阿部光瑠六段戦から。

後手が△7三銀と上がったところです。

ここからどのように駒組みを行うのかはセンスが問われるところですが、豊島八段の指し手はスマートでした。

 

まず、▲3八銀と上がり、急戦・持久戦どちらにも対抗しやすい構えを取ります。後手は△6四銀で銀を繰り出しますが、▲6六歩△5四歩▲6七銀で雁木の骨格を作り、△7五歩に▲6五歩を用意して後手の攻めを牽制します。

後手も△4一玉と寄って居玉を解消しますが、▲1六歩が巧みな一手で、先手満足の序盤です。(第14図)

 

▲1六歩を突いたことにより、次に▲3四飛が指せるようになりました。しかし、後手は分かっていても、この狙いを防ぐことが難しいですね。さすがに△3三金では形が悪く、将来性がありません。実戦も▲3四飛を実現させた先手がペースを掴みました。

 

聡明な方なら、先手の駒組みにどこか見覚えを感じたのではないでしょうか。そうです。こちらの記事で紹介した「極限早繰り銀」対策と瓜二つなのです。それと比較すると、先手番で実践できているので、悪い理屈はありませんね。

先月では面白い作戦と記しましたが、ここまで的確な対策を示されると評価を変えざるを得ません。今後は採用数が減少するでしょう。

 

 

今回のまとめと展望

 

・全体的には先手が押している。そんな中、雁木は互角に渡り合っているので来月以降も採用数が伸びそうだ。

 

・戦型を問わず、早繰り銀に対しては雁木の骨格(▲6七銀・▲7八金型)を作って対抗することが多くなった。この風潮もしばらく続きそうだ。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

4 Comments

namu

後手雁木に対する先手の早繰り銀作戦について、先手の陣形で8八銀型のメリットというのは7八銀型に比べてどのようなものがあるのでしょうか?
ご教唆いただけたらと思います。

返信する
あらきっぺ

はじめまして。

▲8八銀型に組むメリットは、端的に言えば「角交換に強いこと」です。具体例として、こちらの局面を提示します。

雁木VS早繰り銀

このような状況になると、後手は△4五歩▲同銀△3五歩という受け方をしてくることが予想されます。
そのとき、図のように▲8八銀・▲7八玉型にしておけば、△5五角のラインを遮断していますし、△7七角成に形良く▲同銀と応じることも可能です。これが、▲7八銀・▲7九玉型だと、少し支障が生じてしまいますよね。

また、少しご質問の内容からは離れてしまいますが、後手は上図のような展開を避けるために、
第8図のような駒組みをしています。これに対して▲7八玉型を作ると、△6四銀→△7五歩が直撃してしまいますよね。なので、この場合は▲7八銀型を選ぶ方がベターだと考えられます。

つまり、それらを踏まえると、先手は後手の右銀の動向を見てから、▲7八銀型か▲8八銀型を選ぶことが理想と言えるでしょう。

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namu

非常に丁寧で分かりやすい解説ありがとうございます。質問させていただいた先手の陣形の細かな違い、ずっと気になっていたもののこれという解釈がなかったのでとてもすっきりいたしました。
あらきっぺさんのブログこれからも楽しみにしてます。

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あらきっぺ

お力になれたようで、良かったです!
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する

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