最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

第57回しんぶん赤旗全国将棋大会の出場記

赤旗名人戦

どうも、あらきっぺです。

Twitter でもご報告いたしましたが、11/12~11/13に、第57回しんぶん赤旗全国将棋大会が開催され、私は滋賀県代表として出場させて頂きました。そして、準優勝という結果を収めることが出来ました!

 

今回の記事では、その模様を記したいと思います。

前日編

 

将棋の全国大会は棋戦によって微妙にルールが違い、大会によっては一週間くらい前には対戦相手が決まっているものもあります。ただ、今回のしんぶん赤旗全国将棋大会(以後、赤旗名人戦と記載します)に関しては当日の対戦相手どころか、誰が代表すらも分からない……といった状態でした。

なので対策の練りようが無いなーと思っていたら、偶然、新幹線の中でこんなツイートを発見。

で、リサーチしてみたら、確かにありました。なるほどなるほど。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-11-11/2022111114_01_0.html

 

うーん、やっぱり全国大会の代表とあって、お強い方が多いですね。ただ、不遜な表現かもしれませんが、客観的に見て、このメンバーなら私は上位5本の指には入っているのでは? という気もしました。

という訳で、今回はベスト4に入ることをノルマにして大会に臨むことに。もちろん全国大会の非日常を楽しむことが第一ですが、それなりに結果を求めておかないと気持ちに張り合いが生まれませんからね。

 

午後7時頃にホテルに着き、とりあえず荷物を放り投げて夕食へ。お目当てのラーメン屋はあったものの、20人以上並んでいたので流石にパス。ちょうど近くにオムライス屋があったので、今晩はそこのお世話になることにしました。ビーフシチューオムライスばんざーい٩(๑>◡<๑)۶

ビーフシチューオムライス

幸せ~

ちなみに、自分が入店した直後に3人組で入ってきた方がいらしたのですが、座席の都合上、ちょっと上手く入れなさそうな感じでした。ただ、自分が移動して座席を詰めれば3人入れるので、「私、移動しますね~」「あざっす!」という会話を店員さんと交わすことに。

 

そんな経緯があったので、料理を提供されたとき、「さっきはご配慮いただいたので、お肉サービスしておきました~」と満面の笑みで言われました。

 

…神!!!

 

いや~。こういう粋なサービスしてくださる店員さんは最高ですね~。自分も見習いたいです。(正直、多すぎた笑)

 

という訳で、(色々な意味で)とても満たされた気分で夕食を済ませ、ホテルに帰って明日の準備を行いました。身支度をしていると寝巻を完っ全に忘れていたことが発覚。将棋の準備はちゃんとしてたんだけどなぁ笑

幸い、ホテルから徒歩1分の場所に服屋があったので、そこで調達して事なきを得ました。しかしこれ、きっと全国大会に参加するたびに物が増えていくパターンですね……笑

 


大会初日

 

翌日、7時頃起床。開会式は10時だったので、9時半頃に会場入り。もう少し遅めでも良いんですけど、こういう場でしかお会いできない人も多いので、その方々とご挨拶しておきたい意味はあるんですよね。対局が始まっちゃうと、そんな時間もないですし。久々にお会い出来た方が多く、こういう時間は全国大会に出場する楽しみの一つですね。

 

予選は四人一組でリーグ戦を行い、2勝通過・2敗失格というアマ大会ではよくある形式。持ち時間は25分30秒です。

一局目のお相手は畑山氏。畑山氏は立命館大学の団体戦におけるレギュラーメンバーであり、他のアマ大会でもご活躍されている若手強豪ですね。

将棋は、[三間飛車 VS 居飛車穴熊]という構図。序盤は悪くない進行でしたが、中盤の選択を誤り、模様の良さを帳消しにしてしまいました。その後は均衡のとれた局面が長く続き、どちらが勝っているのか分からない終盤戦を迎えます。(第1図)

赤旗名人戦 あらきっぺ

すでにお互い、30秒の秒読みですね。こちらは5五の飛が生命線で、これが盤上から消えると▲5二飛成からのトン死筋が発生します。ゆえに、先手は自玉の安全を確保しつつ、この飛に向かって全力でアタックしてきますね。

赤旗名人戦 あらきっぺ

対局中は▲4六銀が本命で、それなら分かっていませんでした。ただ、畑山氏は飛が直射してしまうことに抵抗があったようで、本譜は▲5六金打を選択されます。

しかし、この手は3七の地点のケアが出来ていないので、「何か寄せがあるはずだ…!」と直感が囁きました。(途中図)

赤旗名人戦 あらきっぺ

手始めに、△5九角と打ち込みます。これは△3八銀成からの詰めろなので▲4八銀と受けるのが妥当ですが、△3八銀成▲同玉△3七銀▲同桂△2九角で畳み掛けます。(第2図)

赤旗名人戦

これを▲同玉は△3七歩成で一手一手。ゆえに▲4九玉は必然です。そこで当初は△6八角成を考えていましたが、よくよく見れば△5六角成▲同金△4七金がピッタリであることに気付きました。30秒将棋でこの寄せが出来たのは、我ながら冴えていましたね。(第3図)

赤旗名人戦

実を言うと、前日の新幹線の移動中はひたすら詰将棋を解いていたのですが、その成果が少しは出たのかな、と感じました。また、先述した「何か寄せがあるはず」という直感が誤っていなかったことも自信になりましたね。このパフォーマンスが出せれば、今日は大丈夫かなと思いました。

 

予選2局目は事前準備が見事にヒットして、消費時間約10分で快勝。予選通過一番乗りでした。アマ大会では予選の2局目が早く終わると、決勝トーナメントまで休憩できる時間が多いことが嬉しいですね。

(しかし、トーナメント表を見るとシード枠が4つ、一回戦の枠が24であり、ハズレがたくさんある状態で決勝トーナメントの抽選くじを引くことになったので、「これ、早く終わる恩恵少なくない?」むしろ損 という気持ちにはなりました…笑)

 

決勝トーナメント一回戦のお相手はモックン氏。 YouTuber として活動なさっており、三間飛車のスペシャリストです。

参考 モックンのモクモク将棋実況

ただ、対局前はそんなことは露知らず、「うーん、何をやられるか全く分かんないなー。まぁ普段通り指すしかないな」という心境で対局に臨みました。

振り駒で後手番を引き、またも[三間飛車 VS 居飛車穴熊]という構図になりました。(第4図)

赤旗名人戦

ご覧のように、相手は昨今のトレンドである三間ミレニアムですね。こちらも金銀四枚の穴熊に組んで、まさにがっぷり四つと言ったところです。

さて、ここで具体的にどう指すかですが、穏便に進めるなら△4四歩だと思いました。ただ、この手は▲3八金寄との交換になったときに損をしている印象ですし、▲5六飛と浮かれて仕掛けを封じてくる手も嫌でした。どうも、△4四歩は一手の価値が乏しい気がしたんですよね。

赤旗名人戦

無論、こちらは後手番なので、△4四歩からじっくり待機しても互角とは思ったのですが、長期戦になり、ぐだぐだ考えて持ち時間を溶かすのは自分の負けパターンの一つ。という訳で、本譜は△4六角▲同歩△6七銀と思い切って暴れてみました。(第5図)

赤旗名人戦

この手順は賛否両論あると思いますが、「まぁ、こっちは堅さで勝っているし、打った銀の活用も見込めるから最低でも互角はあるっしょ」という気持ちでした。また、このルートを選べば、あとは「細い攻めを繋げるだけ」という設定になるので、方針が分かりやすくなるのも魅力の一つでしたね。

ただ、この後、しばらくは切れ筋と隣り合わせの状況が長く続いたので、厳密にはちょっと強引だったかもしれません。(第6図)

赤旗名人戦

勝負の分かれ目となったのは、この局面。こちらは攻め駒が三枚しかないので、上手く戦力を補充できるかどうかが鍵ですね。なお、9九に香は落ちていますが、あれを無造作に拾うと▲6六角の攻防手を誘発するので、おいそれとは取りにくい意味があります。

赤旗名人戦

裏を返せば、振り飛車としては相手の攻め駒の力を削ぐような手を指せば、居飛車の目的を阻害することに繋がります。ゆえに、ここは▲5九歩とか▲5六銀△7六角▲6七歩とかで、大駒の利きを遮断しておくのが有力だったようです。確かに、この進行は居飛車が攻めを繋げるのに苦労しますね。

本譜は▲5三角と打たれたのですが、△4四歩と打って手応えを感じました。(第7図)

赤旗名人戦

これで桂を取ってしまえば、ノーリスクで戦力が補充できるので四枚の攻めになります。そうなると、後は穴熊の堅陣が光ってきますね。以降は遅くとも着実な攻めを間に合わせれば良い状況になったので、丁寧に押し切ることが出来ました。

なお、この対局はモックン氏の You Tube でも詳しく触れられているので、ご興味のある方はご覧くださいませ。モックンさん、ありがとうございました!

 

 

さて、決勝トーナメント2回戦のお相手は竹内氏。竹内氏は早稲田大学の OB であり、早稲田大学が2019年に優勝なさった学生王座戦のときの主将であります。流石にここまで勝ち進むと、こういった強豪しか飛んで来ないですね笑

振り駒の結果、後手番に。あれ? さっきから後手番ばっかじゃね? 確か、竹内氏は居飛車党だったかなー、という記憶がおぼろげにあったのですが……。(第8図)

赤旗名人戦

またかよ

という訳で、プロ棋界でも大流行の三間飛車です。まぁ、優秀ですもんねー。

途中までは一回戦のモックン戦と同じような将棋になったので、時間を使わずバシバシ進めることに。ただ、今回は振り飛車がミレニアムではなく、金無双に囲うパターンの将棋になりました。(第9図)

赤旗名人戦

さて、ここは相手の攻めにどう対応するかという場面です。こちらは守勢ではありますが、堅さでは大いに勝っているのでカウンター狙いで戦うことになりますね。互角の状態で終盤戦に入れば、こちらが勝ちやすい将棋になるので、楽しみの多い局面でもあります。

赤旗名人戦

自分の第一感は△8六歩▲同歩△4四銀で、強気に応戦するプランでした。ただ、これは確実に角を4四へ出られますし、1三や3三に歩を叩かれる手も気になります。「ちょっとリスキーかな」と思い、本譜は△3三歩で守備力を高めました。堅実に進めたつもりでしたが、ノータイムで指された次の一手を見て青ざめることになります。▲6八角が素晴らしい一着でした。(第10図)

赤旗名人戦

この手の何が素晴らしいかというと、こちらの△3三歩を完璧に逆用していることにあります。

△3三歩の意味としては、(1)相手の角の利きを遮断。(2)▲3三歩の防止。という二点なのですが、こうして角を引かれて端に照準を定められると、3三に打った歩はまるで機能していません。

加えて、振り飛車は▲4六角や▲7四飛といった狙いを作れたこともセールスポイントですね。なので、▲6八角って、本当に柔軟な一着なんですよ。こうした手をしっかり読めているところに、竹内氏の強さを感じました。

赤旗名人戦

おまけに、こちらは3三に歩を打ったことで△3七歩と叩く攻め筋が消えるわ、自分の角が使いにくくなるわ、1五の守りが弱まったので▲1五香を走られやすくなったわで、もう泣きっ面に蜂という有様です。先述したように、こちらはカウンターを狙っていたので、自ら攻撃力を落とす手を指してはいけなかったですね。

赤旗名人戦

という訳で、ここで自分が非勢に陥っていることをはっきりと悟りました。形勢が悪いときは自力ではどうにも出来ないので、リターンの大きそうな手を指してチャンスを待つことに。ただ、「正確に指されるとダメなんだろうな」と諦観しながら指していたことは確かです。でも、結果的には、その姿勢が良かったのかも知れません。(第11図)

赤旗名人戦

ついに、恐れていた端攻めが来ました。ここは平凡に指すなら△1二歩ですが、▲1三歩成△同歩▲1四歩△同歩▲2五桂という要領で執拗に端を狙われると、自玉が持つとは思えません。

赤旗名人戦

かと言って代案も見当たらないようですが、△2五桂と跳ねたのが渾身の勝負手。これが成立していたのは大きかったですね。(第12図)

赤旗名人戦

自玉の頭上にと金を作らせるので、普通はありえないですね。しかし、▲1三歩成に△1二歩と受ければ、先手も厳しい攻めを放つのは大変なのです。と金を引くようでは迫力がありませんし、▲1四歩と繋げると△1三歩▲同歩成△1二歩で千日手ルートに引きずり込めます。

赤旗名人戦

また、ここに桂を配置することで、敵玉に少なからずプレッシャーを与えていることも見逃せません。居飛車は、将来△7三歩で馬の利きを止めてから△3六香と打つ手が楽しみです。本譜もその攻め筋が間に合い、逆転に成功することが出来ました。この局面で自玉に明確な寄り筋が無かったことは、ツイていましたね。

 

そんなこんなで、危ない場面も多々ありましたが何とかベスト8に進出。無事、二日目に勝ち残ることが出来ました。

全国大会に出場した際には、初日で負けたら誰かを誘って飲みに行くのがいつものパターンなのですが、勝ち残った場合はさすがにそうもいかないですね笑 特に寄り道することもなく真っ直ぐホテルに戻り、今日の将棋の見直しと明日の対策を整えて寝ました。……我ながら真面目だなぁ笑

 


大会二日目

 

翌日、6時半頃に起床。二日目の開始時刻は9時半なので、少し早めに起きておきました。日常生活でもこうありたい

なお、二日目は持ち時間が30分30秒になります。ベスト8のお相手は羽仁氏。羽仁氏は第74回学生名人戦の優勝者であり、プロ公式戦の出場経験もある強豪です。

ところで、唐突ですが、少し時を昨日の18時15分頃に戻します。

================

※初日の結果を改めて確認するため、トーナメント表が張り出されている場所に向かうとお友達のY氏を発見する。

あらきっぺ「お疲れです~」

Y氏「お疲れ様です~」

あらきっぺ「お互い、何とか残れましたね」

Y氏「ですね」

あらきっぺ「決勝でお会いしましょう」

Y氏「ははは」

あらきっぺ「ところで、明日、羽仁さんと当たるんですけど」

Y氏「はい」

あらきっぺ「振り飛車党なのは知ってるんだけど、何やって来るのかは分かんないんですよねー」

Y氏「まぁ、調べたら棋譜はたくさん出てくると思いますよ。羽仁さんですし」

あらきっぺ「だよね。ありがとう」

という会話をして帰路につきました。

 

で、ホテルに戻った後、調べたのですが、

 

一局しか出てこねぇ……

================

という訳で、何も分からないことが分かったということが、リサーチした収穫でした笑

 

まぁ、結局は事前準備を信じて戦うしかないってことですね。振り駒で後手を引き、羽仁さんが採用なさった戦法は……。(第13図)

赤旗名人戦

またかよ

 

正直、今日も飛んでくるとは思いませんでした笑 本命は先手中飛車だったのですが、まぁ、それなら初手に▲5六歩を突くはずですもんね。

戦型は相穴熊になり、互いに大駒を捌いた後に右側の桂香を拾い合うこの戦型らしい様相に。そうして迎えたのが、以下の局面です。(第14図)

赤旗名人戦

現状、こちらは馬の働きでリードしており、それが最大の主張です。また、飛も自分だけ成り込めているので優位性があるように思えますね。けれども、飛の働きに関しては、こちらが勝っているとも言い切れないところがあるのです。

赤旗名人戦

すなわち、6九の竜は立派に働いているものの、これは攻め一辺倒の駒ですね。対して、3八の飛は攻防兼備の駒です。生飛車でも攻防駒になっていることを加味すると、状況によってはこちらの竜よりも力を発する駒になる可能性は大いにあるのです。ゆえに、飛の働きでリードしているとは言えません。

また、この飛と連動している3四の拠点も、こちらにとっては不気味な存在ですね。

赤旗名人戦

つまり話をまとめると、この局面における居飛車のミッションは、

・馬の働きの差を活かす
・3八の飛の力を削ぐ
・3筋のプレッシャーの緩和

この三点だと判断しました。

赤旗名人戦

それを具体的に実行する手段が、△3六香▲3七香△同香成▲同銀引△4四馬という手順です。(第15図)

赤旗名人戦

4六の銀を合体させるのは損ですが、こうすれば相手の飛は受け一方の駒になるので、竜との働きの差が顕在化すると見ました。無条件で△3四馬が指せれば、こちらは憂いが無くなりますね。ここは良い「組み立て」が作れたと思います。盤上のシナリオで書いた内容を、上手く実用できた気がしました。

以降も激戦が続きましたが、やはり3八の飛を封じ込んだアドバンテージは大きく、着実に押し切ることが出来ました。

 

準決勝のお相手は葛山氏。葛山氏とは初手合でしたが、全国大会の会場では何度か顔を合わせています。全国大会の会場で何度も見るということは、要するに代表をたくさん取っている訳なので、お強いのは言うまでもありませんね。

葛山氏は居飛車党なので、そろそろ相居飛車が指せるぞ~と対局前は意気込んでいました。で、蓋を開けてみると……。(第16図)

赤旗名人戦

またかよ!

みんな三間好き過ぎるでしょ。山本先生かよ! と心の中で突っ込んでいました笑 一つの大会で五回も三間を指されたのは、流石に今回が初めてです笑

とまぁ、軽い食傷気分を味わいつつ、局面は持久戦調の将棋に進みます。序盤の細かい部分でこちらが得をする格好となり、仕掛けが成功して優位を掴んだ状態で以下の局面を迎えました。(第17図)

赤旗名人戦

ご覧のように、こちらは銀冠穴熊の堅陣ですね。唯一の懸念は、次に△8六歩で銀を取られる手が残っていること。これのケアを上手く行うことが、現局面のテーマです。ちなみに、ここで▲5四飛は△4三銀で忙しくなるので、得策ではありません。

赤旗名人戦

数手前の時点でこの局面になることは分かっていたので、ここでどう指すのかは少し悩んでいました。ただ、水面下の中で次の手を発見できたことで、自信を持って第17図の局面に進むことが出来ました。それが▲5三歩の叩きです。(第18図)

赤旗名人戦

後手は△同角と指せないと辻褄が合わないのですが、それには▲5四飛と走ります。この配置にしておけば、△4三銀には▲5三飛成△同金▲5一飛で決まりますね。また、▲5四飛に△8六歩も▲同銀で無効です。

なお、蛇足ですが△5三同金には▲6二飛が王手角取り。つまり、後手はこの歩を取ることが出来ないのです。

赤旗名人戦

そうした背景があるので本譜は△5一金と辛抱なさったのですが、こうなると後手は生命線だった4二の角が光を失ったので、実質的には勝負あり。以降は堅さの差を活かして、攻め倒すことが出来ました。

なお、本局は中盤に入った時点でこちらがリードを奪っていた訳ですが、実を言うと、この記事に書いていた内容とドンピシャリだったんですよね。継続的に最新戦法の事情を執筆していて良かったと心底感じましたし、(手前味噌ですが)全国大会の準決勝という舞台でクリーンヒットしたので、あらきっぺ note は優秀だなと感じました笑

 

さぁ、いよいよ決勝戦。決勝はさらに持ち時間が増え、45分30秒になります。勝ち上がるごとに持ち時間が変動するのは、赤旗名人戦の特徴ですね。

決勝のお相手は山岸氏。山岸氏は元奨励会三段で、昨年の朝日アマ名人戦で挑戦者(つまり全国大会で優勝)になっていたり、今年の令和最強戦で優勝なさっていたりと、昨今のアマ棋界で最も脂が乗っているプレイヤーの一人です。なお、彼は居飛車党なので、今度はさすがに三間は無いと思っていました笑

 

振り駒で後手を引き、相居飛車の力戦系に。ちなみに、山岸氏もここに至るまで三間をやられまくっていたらしく、局後に「決勝が荒木さんだったので、やっと相居飛車が指せた」と言われました。(第19図)オレも三間振っとくんだったかな

赤旗名人戦

序盤は30手目くらいまでは概ね想定の範囲内だったのですが、この辺りから指す手が非常に悩ましく、本局は中盤で形勢を損ねることになります。

ここは一つ目のポイントで、強気に指すなら△1四歩で桂を目標にするプランでした。これが第一感ではあったのですが、▲8五銀から飛車を圧迫されたときにバランスが取れているのかどうか、判断がつかなかったですね。

赤旗名人戦

ただ、向こうも▲8五銀を指すと駒が上擦り自陣がまとめにくくなるので、ここはリスクを取って△1四歩で勝負すべきでした。本譜は△9三桂と跳ねて銀の進軍を阻んだのですが、ここで妥協したことが躓きの始まりだったように思います。(第20図)

赤旗名人戦

二つ目のポイントは、この局面。こちらは4七の飛に活躍されるとまずいので、あの駒を堰き止めることを第一に考える必要があります。

本譜は△5五銀と指したのですが、冷静に▲4九飛で先受けされると、上がった銀が負担になってしまい動きが難しくなりました。この▲4九飛をウッカリしていましたね…。

赤旗名人戦

戻って、ここでは△2四角で飛の利きを止めに行った方が良かったです。もし▲4九飛なら△4六歩を打ちやすいことが△2四角のメリット。これなら銀が負担になることはありません。また、▲2五桂が角取りにならないようにすることで、△1五香を走りやすくしていることも見逃せない利点だと言えるでしょう。

赤旗名人戦

なお、対局中は、△2四角の覗きが急所であることにこの時点では気付けていませんでした。本譜は▲4九飛と引かれた数手後に△2四角が急所と気付いてその手を指したのですが、さすがに証文の出し遅れとなってしまいました。

 

上記の二点のミスが響き、終盤ははっきりこちらが不利に。ただ、お互い30秒将棋になった辺りから、局面が激しく動き出します。目まぐるしく状況が変化する中、山岸氏に緩手があり、一気に差を詰めたと感じたのがこの局面です。(第21図)

赤旗名人戦

先手が▲4四歩と打ったところ。ちなみに、この局面に至るまでの手順を少し巻き戻すと、先手は▲4三歩成△同金▲4四歩と指しています。そう、持ち歩を犠牲に持ち時間を稼ぐ例のテクニックですね。

それを踏まえると、こちらは△3三金と寄れば損になる理屈はありません。ただ、金を逃げると▲8五銀で桂を取られる手が非常に嫌でした。(A図)

赤旗名人戦

この桂を除去すれば、先手は△5七歩成のときに▲7七玉と逃げられるようになります。ここに逃げた配置が、かなり詰みにくいんですよね。加えて、攻めに関しては▲2五桂が厳しい狙いとなっています。この変化では勝機が薄いと見て、対局中は選びきれませんでした。

赤旗名人戦

また、こちらは持ち歩が一枚増えたので、△5七歩成から突っ込んで行ったときに条件が良いということも、△3三金を指したくない理由の一つではありました。5七で清算した後に歩をバシバシ叩く変化になったとき、持ち歩の数が一枚と二枚では雲泥の差になる可能性もあります。そして、対局中はここで△5七歩成と指して成算があったという読みもありました。

赤旗名人戦

なので本譜は、△5七歩成▲同金△同香成▲同角△同角成▲同玉△5六歩▲同玉△3八角▲4七香△4四金と進めました。4七に合駒を打たせれば飛が陰になるので、△4四金と拠点を払うことが出来ます。この手の価値が高いと感じたので第21図で△5七歩成を選んだのですが、その先に落とし穴が待っていたのです。(第22図)

赤旗名人戦

確かに、こちらは玉頭の脅威を和らげることは叶いました。しかし、ここで▲1九飛と成香を取られると、有効な攻めが見当たらないんですね。4四の歩を取ることに気を取られていて、よもや攻め筋に困窮するとは予想だにしておらず……。しかし、無いものはいくら考えてもありません。という訳で、ここでゲームオーバーとなりました。

 

赤旗名人戦

戻って、第21図では△3三金と寄り、A図の変化で勝負する方が勝ったようです。確かに△5七歩成の筋には期待できないのですが、ここは平凡に△8五同飛と取っておけば、△5七角成というトン死筋が残せるので簡単ではありませんでした。歩で行くのではなく、角で突っ込むのは盲点でしたね。

 

赤旗名人戦

とはいえ、この局面からA図第22図の二つの変化を読み、それの正しい方を選ぶことを30秒将棋の中で行うのは、客観的に見ても相当にレベルが高いですね…。しかしながら、こういう際どい部分の判断の精度を高めないと、全国大会で優勝することは難しいということでしょうか。まだまだ自分にも伸びしろがあるとプラスに捉えておきます笑

 

雑感

 

そんなわけで、今回の赤旗名人戦は準優勝となりました。もちろん、最後に勝っていれば申し分なかったのですが、今回は内容がどれも充実していたので、五年前の準優勝よりも嬉しい準優勝ではありました。次回こそは、もう一歩先の場所に立ってみたいですね!

 

そして、この大会では自分が感じた課題が二つあります。一つは、先述した終盤における判断能力の部分。もう一つは、中盤の精度が安定していないこと。特に、後者の課題がかなり問題です。

この記事を書くにあたり、改めて今回指した7局を見直してみたのですが、序盤に関しては不利になった将棋は一つもありませんでした。しかし、序盤で得た優位性を中盤でフイにしてしまうケースは割とあり、7局中4局がそのパターンに陥っていました。中でも、竹内戦山岸戦で見せてしまった「堅実に指す意識が強過ぎて形勢を損ねる」パターンは、真っ先に克服しなければならない課題だと感じています。ひとまず、今年中にその悪癖が抜けるようにしておきたいですね。

 

また、今回は多くの知人と再会を果たすことが出来たのですが、中でも旧知の仲である横山大樹氏と話が弾んだことは、嬉しかったことの一つでした。やっぱり、将棋大会でしかお会い出来ない方も多くいらっしゃるので、そういった方々とは将棋を通して末永く交流できれば良いなと思っています。これからも、よろしくなっ!

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA