プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(4月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。いよいよGWですか。個人的には、後ろめたさを感じることなく12時間くらい爆睡できるのが嬉しいですね笑

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。

注意事項

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.4/1~4/30)

調査対象局は82局。戦型ごとにそれぞれ、見ていきましょう。

矢倉

11局出現。やはり後手が急戦策を取ることが多く、がっぷり四つに組み合う将棋には(ほぼ)なりません。先手がそうするには、▲6七歩型の状態で▲2五歩を決める必要があるというのは、これまでの記事でもたびたび記してきました。

しかしながら、先手がそのような指し方をしても、後手が急戦に打って出る将棋が登場しました。(第1図)

 

2018.3/1 第31期竜王戦1組出場者決定戦 ▲阿久津主税八段VS△永瀬拓矢七段戦から。

先手が▲2五歩と突いた手に対し、後手がそれを無視して△7三銀と上がったところです。

2筋を受けてこなかったので、当然、先手は▲2四歩△同歩▲同飛と一歩交換を行いますが、後手は△8五歩と突いて着々と攻めの準備を整えます。以下、▲2五飛△2三歩▲5八金△6四銀▲6六歩△4四角と進みましたが、早くも後手満足の序盤となりました。(第2図)

 

先手は▲2五飛型に構えることで、後手の攻めを牽制しましたが、この△4四角でそのプランが打ち砕かれています。次に△3三桂→△7五歩で早繰り銀を捌く攻め筋を防ぐことができません。

 

少しシビアな話をすると、先手は▲6九玉・▲4八銀・▲5八金といった手が、後手の攻めに対して適応しておらず、それゆえに作戦負けに陥ってしまったと考えられます。先手矢倉は序盤がとてもデリケートで、ほんの些細な手の選択が作戦負けの原因になってしまうこともままあります。現環境では後手の方が実戦的に気楽で、先手に苦労が多い戦型と言えます。

少し補足すると、このような2筋を受けずに早繰り銀で攻める構想は、昨年の名人戦第2局でも指されており、真新しい作戦という訳ではありません。ただ、当時よりも今現在の方が、この構想の評価が高いような印象を持っています。それについては、別項で。

 

角換わり

23局出現。約30%の出現率で、相変わらずの人気っぷりです。多くのプレイヤーが2手目△8四歩に対して最も有力な戦法と認識していることが窺える数字ですね。

後手の対策としては、早繰り銀が減って腰掛け銀系統の将棋が増えました。なぜ早繰り銀が下火になったのかというと、以前から指されていた先手の対抗策の精度が向上したからではないかと考えています。(第3図)

 

2018.3/11 第43期棋王戦5番勝負 第3局 ▲渡辺明棋王VS△永瀬拓矢七段戦から。

▲3七桂と跳ねた局面です。

従来は銀の進軍を防ぐために▲9六歩を突いていましたが、それを省略して攻める手を優先することが先手の工夫です。

後手はそれを咎めるために△9五銀と指しますが、▲8八銀と引いて銀を捌かせないようにします。以下、△8六歩▲同歩△同銀▲8七歩△9五銀▲4八金で反撃するセットは完了です。(第4図)

 

後手はこのままでは9五の銀が遊び駒になってしまうので、△8四銀で立て直しを図りますが、▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲4五桂と素早く動くのが好着想です。以下、実戦は△4四銀▲2四飛△2二歩▲2九飛と進みましたが、その局面は先手満足です。(第5図)

 

後手は棒銀を捌くために△7五歩と攻めたいところですが、先手に一歩でも渡すと▲3三歩△同桂▲3四歩という攻めを誘発するので、簡単には攻めることができません。第5図は8四の銀よりも4五の桂の方が敵陣にプレッシャーを掛けており、先手の攻めの方が威力が高いのです。これが先手満足の理由ですね。

また、2月では居玉+腰掛け銀で対抗していたのですが、▲5六銀と上がる一手を▲6六歩に修正したのがさらなる工夫です。これにより、第5図から△3六歩のような手をケアしているので、従来よりも後手陣を攻めやすくなった利点があります。

後手番早繰り銀は、上記の迎撃策が優秀で、後手の旗色が悪いと言えるでしょう。

腰掛け銀については、先月にも述べた通り、先手が打開策を模索している状況です。先手としては▲2五歩型で打開する手段が確立できれば理想的ですが、現状ではなかなか苦心している印象を受けます。

したがって、今後は相腰掛け銀の将棋がもっと増加すると見ています。しばらくは先手の打開策が見つかるかどうかが焦点となるのではないでしょうか。

 

雁木

11局出現。内訳としては、先手雁木が5局。角換わり拒否タイプが3局。4手目△4四歩タイプが2局。相雁木が1局です。今回は4手目△4四歩タイプに面白い工夫が見られた将棋があったので、それを紹介しましょう。(第6図)

 

2018.3/23 第31期竜王戦2組ランキング戦 ▲飯島栄治七段VS△深浦康市九段戦から。

後手が△7二銀と上がったところ。雁木は△6二銀と上がるケースがほとんどなので、珍しい一手です。

△4四歩タイプの雁木には早繰り銀が有力な対策なので、飯島七段は▲3七銀と指しましたが、△8三銀▲3五歩△7四銀▲3四歩△同銀▲3八飛△6五銀と足早に銀を前進させたのが後手の趣向です。(第7図)

 

このような激しい展開になると、先手は▲6八玉と上がった一手が戦場に近づいた悪手になってしまう可能性があります。形勢は難解ですが、後手としては相手の指し手がマイナスになるような展開に持ち込めているので、まずまずと言えるでしょう。

実は後手の構想は、こちらの記事で紹介した村山流の応用です。しかし、村山流は先手番での指し方なので、筆者は後手雁木では採用できないと思っていました。

ところが、深浦九段は△3二金を保留することで、この構想を後手でも採用できることを証明したのです。△3二金は相居飛車では定位置と言える配置なので、盲点になりがちですね。

後手でも指せるということは、裏を返せば先手番では、なお有力ということです。それゆえに、先手雁木の採用数が増加したのではないでしょうか。△3二金(▲7八金)を保留する作戦は、要注目です。

雁木VS早繰り銀は、一時期は早繰り銀側が押していましたが、最近は雁木側に工夫が多くみられ、互角の将棋という印象を持っています。今後も指され続けることでしょう。

 

相掛かり

14局出現。先月よりも6局増えました。角換わりでは打開が難しく、矢倉は受け身でつまらないと感じているプレイヤーが、相掛かりへ流れている風潮があるように感じています。

指されている戦法を大きく分けると、(1)▲3七銀型を優先的に作る早繰り銀タイプ。(2)▲3八銀・▲6八玉型に構えて軽快に動く横歩取りタイプの二種類があります。

ただ、どちらの将棋も千変万化で定跡化されておらず、まさに力戦です。基本的に、先後どちらを持っても可もなく不可もなくという性質の戦型ではありますね。

 

横歩取り

15局出現。2月同様、勇気流は0局でした。先手の対策としては、青野流が一番人気で7局指されています。という訳で、この戦法を掘り下げてみましょう。(第8図)

 

2018.3/30 第89期棋聖戦決勝トーナメント1回戦 ▲木村一基九段VS△稲葉陽八段戦から。

すでにのっぴきならない状況ですが、ここまでは多くの前例があり、定跡化されている進行です。

第8図では、▲7二歩が手筋。△同金では左辺が壁になるので▲2三歩が厳しい追撃になります。したがって、△7二同銀が正しい応手です。以下、▲8二飛成△7四歩▲8七竜△7五歩▲6五桂と進みます。まだ定跡化されている手順です。(第9図)

ここは後手の手が広いのですが、(1)△8六歩は▲7六竜△同歩▲7三歩から桂を入手して、▲2四桂と打てば先手良し。(2)△9九角成は▲7三歩から竜を侵入して先手優勢。

香を取るのなら、(3)△1九角成とこちら側の香を取る手が勝ります。しかし、▲2三歩が急所の攻め。△同金は▲3一とで迫ることができます。(A図)

 

一見、△3一同銀でタダのようですが、▲7六竜△同歩▲2一飛が痛烈で、先手良しです。

よって、▲2三歩には△4五桂と跳ねて金の逃げ場を作るくらいですが、平凡に▲2二歩成△3三金▲3一と寄で先手の攻め合い勝ちが濃厚です。(第10図)

 

2018.3/23 第59期王位戦挑戦者決定リーグ <白組> ▲阿久津主税八段VS△佐々木大地四段戦から。

▲3二と引よりも速い攻めが無いことが、先手の攻め合い勝ちになる理由です。実戦も先手が快勝しました。

第9図の局面に戻って、より良い手を探してみましょう。

 

大前提として、先手は▲2三歩から攻める手を常に狙っています。したがって、後手はそれに対処できるような手を指さなければいけません。

その見地に則ると、△4五桂が最有力と言えるでしょう。▲2三歩を緩和しながら、△3七歩を狙っています。先手はそれを喫する訳にはいかないので、▲7七歩△3六飛▲3七歩で受けに回ります。以下、△8六歩▲8九竜△3四飛の局面をどう判断するか。(第11図)

 

候補手としては、▲8六竜や▲1一とが考えられます。先手には「竜」や「駒得」といった明確な実利があるのに対し、後手はまだ具体的な戦果を上げた訳ではありません。戦果を上げていない方が手番を渡しているのは、正直なところ違和感があり、局面の均衡が崩れている可能性が大いに考えられます。

この▲木村ー△稲葉戦は後手が勝利を収めたものの、途中は先手が良かったのではないかと感じています。

 

話をまとめましょう。横歩取りに対して、先手は青野流が最強の対策です。後手は今までは第8図の将棋で対抗していましたが、現状は課題を抱えています。現環境は、青野流の対策無しに横歩取りを指すことはできないと言えるでしょう。

 

その他の戦型

8局出現。3月は、「角換わりを拒否して早繰り銀で攻める」作戦が多く指されました。(第12図)

 

2018.3/27 第89期棋聖戦決勝トーナメント1回戦 ▲佐藤天彦名人VS△阿部光瑠六段戦から。

オープニングは角換わりだったものの、後手は角交換せずに△6二銀→△7四歩を優先して、力戦型へ誘います。このような指し方をすれば、一方的に飛車先の歩交換を許してしまうのですが、そんなことはお構いなしに駒組みするのが最近の風潮ですね。

先手は▲2四歩△同歩▲同飛と一歩交換しますが、後手は△7三銀と上がって、銀を繰り出していきます。そこから十数手ほど駒組みが進んだ局面が、第13図です。

 

棋譜は省略しますが、どのように進行したのかは概ねご想像がつくかと思います。

先手は△6四銀と上がる手を厳重に警戒しているので、阿部六段は△8四銀と上がります。以下、▲9六歩△5四歩▲4七銀に△7五歩と動いて、機先を制しました。(第14図)

 

▲2五飛型に構えた以上、▲7五同歩と取りたいのですが、△3三桂▲2八飛△7五銀と進軍されて先手が困っています。本譜は▲8八角と早逃げしましたが、△4四角と上がって後手まずまずの序盤となりました。相手を受け身に追いやっているので、実戦的に勝ちやすい作りになっていると思います。

駆け足で後手の工夫、及び成功例をご覧いただきましたが、何だか既視感があるような展開だとは思いませんか? そうです。矢倉の項目で紹介した第1図の将棋と雰囲気がとても似ていますね。

相手にだけ一歩を持たれる不安はありますが、細かい定跡を覚える必要がありませんし、方針も分かりやすい。後手番で角換わりに悩まされているプレイヤーには、持ってこいの作戦と言えるのではないでしょうか。


なお、先手が矢倉の場合、8八の角が攻めにも受けにも使いにくい駒なので、第12図の将棋よりも後手がさらに得をしています。
だから先手が早めに▲2五歩を決めても、△3三銀と上がらない訳ですね。

 

今回のまとめと展望

・大まかな状況は、先月と特に変化がない印象を受ける。つまり、先手矢倉はやや苦労が多く、角換わりは打開が大変で、相掛かりは完全な力戦。後手を持った際に、2手目△8四歩を指すオッズはとても良い。

・横歩取りは青野流が有力で、現状は後手に課題あり。そして、4手目△4四歩タイプの雁木の株が上昇。相居飛車は多くの戦法が後手番でも戦える中、横歩取りだけは問題点を抱えているので、来月は採用数が減りそうだ。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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