元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(2月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。早く暖かくなって欲しいものですが、そうなると花粉症に悩まされるので春が恋しいような、そうでもないようなという心境です。

タイトルに記載されている通り、今回は振り飛車の将棋を見ていきます。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(1月・振り飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

調査対象局は58局。戦型ごとにそれぞれ、見ていきましょう。

 

先手中飛車

1月は8局出現。12月と比較すると、何と11局も減ってしまいました。理由は後述します。

居飛車側の対策は、早めに△6四銀型を作る形、いわゆる後手超速(以降は後速と表記)が一番人気です。後速に対抗するため、先手中飛車も▲5五歩を保留して中央の歩が負担にならないようにするなど、工夫を凝らしていますが、さらにそれを逆手に取る対策も出現しつつあります。文面だけではちょっと分かりにくいと思うので、具体例を紹介します。(第1図)

 

2018.1/31 第89期棋聖戦二次予選 ▲北浜健介八段VS△稲葉陽八段戦から。

ここから後手が△7三銀~△6四銀と銀を繰り出してきても▲6六銀で対抗しておけば、先手は▲5六歩型が活きるのであまり不満がありません。詳しい解説は前回の記事をご覧ください。

それを踏まえて、稲葉八段は△7三桂と銀ではなく、桂を活用させました。次の△6五桂を受けなければいけないですが、▲6六歩や▲6六銀では角道が止まるので、北浜八段は▲4六銀を選びます。以下、△3四歩▲5五歩△4四歩▲1九玉△4三金▲3六歩と自然な駒組みが続きましたが、そこで△1三角と上がった手が機敏で後手が作戦勝ちになりました。(第2図)

 

次に後手は△6五桂▲6八角△8六歩▲同歩△4五歩のような仕掛けを狙っています。先手は△6五桂を防ぐ必要がありますが、これが思いのほか難しい。直接的に防ぐには▲6六歩しかありませんが、角道が何重にも止まって効率が悪い上に、△6四歩~△6五歩で相手の攻めを助長する意味もあるので根本的な解決にはなっていません。要するに、第2図の局面は先手が困っているのです。

なぜ、△7三桂を優先する駒組みが今まで指されなかったのかと言うと、それは中飛車側が早めに▲5五歩を突いていたからです。つまり、従来は早めに△7三桂と跳ねても▲5六銀と上がられて効果が無かったのですが、この将棋では▲5六歩型なのでそれができないという理屈なのです。

先手中飛車VS後速は、全体的に居飛車の方が駒組みのバリエーションが多く、工夫のし甲斐があるように感じます。居飛車目線だと何か一つ、自信のある駒組みを用意しておけば良いですが、中飛車側はそれら全ての指し方に対応する必要があるので、準備の時点で負担が違います。

現環境は、居飛車の方が駒組みの幅が広く、中飛車側としては旨味の乏しい作戦になってしまっているように感じます。それが採用率の減少した理由ではないでしょうか。また、もう一つ理由があるのですが、それについては別項で。

ゴキゲン中飛車

4局出現。スペシャリスト以外は採用しない(つまり、迂闊には手が出せない)戦法です。一昔前なら、居飛車党のプレイヤーが裏芸として使うこともありましたが、ここ最近はめっきり無くなりました。超速を相手に戦うよりは、他の戦型で勝負したいということなのでしょう。

12月同様、採用率が低く、この傾向は今後も続くと思われます。

 

角交換振り飛車

13局指されました。先月と比較すると、出現率は17%→23%と、増加しています。序盤から激しい展開にはなりにくいので安心感があることや、駒組みの幅が広いことが支持を得ている理由でしょうか。他には、後手番でゴキゲンが使いにくいから、という要因もあるでしょうね。

今回は話を後手番に絞ります。一口に角交換振り飛車と言っても様々な形があるのですが、個人的には3三に銀を配置しない将棋が有力ではないかと見ています。具体例を2局紹介します。一つは、阪田流向飛車です。(第3図)

 

2018.1/18 第76期順位戦B級1組 ▲斎藤慎太郎七段VS△糸谷哲郎八段戦から。

ここでは△7二玉などでゆっくり駒組みしても一局ですが、糸谷八段は△2四歩▲同歩△同金と早くも動きます。対して、斎藤七段は▲3六歩を突き、▲3七桂を見せて後手の攻めを牽制します。(第4図)

 

本譜はここから△3三桂だったので穏やかな進行になったのですが、代えて△2五金と前進する手が成立していたかどうかは興味深いところです。以下は▲3七桂△2六金▲同飛△同飛▲1五角△2二飛打が変化の一例でしょうか。(第5図)

 

自陣飛車を打つようでは苦し気に見えますが、局面が落ち着けば駒得が大きいので、後手は受け甲斐のある局面と言えます。△2五金の局面は、先手に他の手段も考えられるので成否は分かりませんが、後手にとって有力な手段だったように思います。

阪田流向飛車は普通の角交換振り飛車と比較すると、手損せずに飛車を振れているので、このように速攻を発動しやすい特色があります。

 

もう一つは、このところ久保利明王将が多用しているこの将棋です。(第6図)

2018.1/23 第11回朝日杯将棋オープン戦本線 ▲三枚堂達也六段VS△久保利明王将戦から。

四間飛車に振った後、角を交換せずに△3三角と上がる将棋です。ここで角を交換しないと△3二銀と上がられて、角交換振り飛車と普通の四間飛車を使い分けられてしまい、居飛車としては、やや不満です。よって、本譜は▲3三同角成△同桂▲8八玉と相手の形を限定させます。

以下、△7二銀▲7八銀△2二飛▲7七角と進みました。(第7図)

 

この▲7七角が振り飛車側にとって、厄介な角打ちです。△4二銀と受けておけば何でもないように見えますが、ここに角を設置されると、後手は3四の地点を強化する手段が難しくなります。すなわち、▲3六歩→▲3七銀→▲4六銀→▲3五歩というシンプルな桂頭攻めが分かっていても防ぎにくいのです。

ゆえに、この局面は振り飛車が避けるべき局面という見解だったのですが、ここで△3二金が目新しい一手。先手は当然、▲3六歩と突きますが、△6四角が△3二金からの後続手です。(第8図)

 

先手は当初の予定通り▲3七銀と上がると、すかさず△4五桂▲4六銀△5七桂不成とされて痺れます。この△4五桂を実現させるために、△3二金と上がったのです。第7図から△4二銀では2二の飛車に紐が付かないので、桂は跳べませんね。

本譜は▲3七桂で飛車取りを受けましたが、これだと先手は3筋から攻めることが難しく、持久戦に移行せざるを得ません。形勢としては互角ですが、後手は一局の将棋になれば不満無しなので、及第点は満たしていると言えます。

どちらの事例も、居飛車側に角を交換させている点に注目して頂きたいです。角交換振り飛車は手損が欠点なのですが、相手から角交換を強要させることでその弱点を和らげようとする意図を感じます。

現環境は、振り飛車の工夫が奏功していて、序盤はほぼ互角に戦えているように感じます。少なくとも、ゴキゲンのような危険性はないですから。

 

四間飛車

8局出現。普通の美濃+四間飛車は4局ありました。普通の四間飛車は昭和から数多く指されているだけあって定跡が成熟しており、環境が変わりづらい戦法だと思っています。基本的には急戦には分が良く、穴熊にはやや苦しい。この前提条件は、よほどのことが無い限り、不変ではないでしょうか。

残りの4局は藤井システムと四間穴熊です。特筆するようなことはなかったですね。素っ気なくてすみません(^_^;)

 

石田流

僅か3局。しかも、そのうちの2局は▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛というオープニングで、後手が石田流に組んだ将棋です。実を言うと、1月は先手が3手目に▲7五歩と突いた将棋は2局しかなかったのです。

理由としては、居飛車党が先手中飛車を相手にすることを嫌がっていないので、2手目に△8四歩ばかり突いていると予想されます。いつの間にやら、登場することすら珍しい戦法になってしまいました。

 

三間飛車

石田流は激減していますが、三間飛車は流行しています。1月は12局指され、約20%の出現率です。

初手に▲7八飛と回ったり、▲7六歩△8四歩▲7八飛というオープニングが増加しました。前回の記事にも記したとおり、この出だしは角交換振り飛車と普通の振り飛車を両天秤にして駒組みを進めることができるのが特徴です。

振り飛車がその性質を最大限に活かした将棋を紹介しましょう。(第9図)

 

2018.1/22 第31期竜王戦4組ランキング戦 ▲佐々木慎六段VS△西尾明六段戦から。

▲6七歩型のまま駒組みを進められるので、角道が通っていることが普通の三間飛車よりも勝る点です。ここからさらに先手は欲張って、▲7五歩と突いて石田流を作りに行きます。以下、△4二金寄▲2八銀△1二香▲5九角と進んで、振り飛車満足の序盤となりました。(第10図)

 

次に▲7四歩から一歩交換できれば、振り飛車は非常に軽い形になります。それは許せないので本譜は△8四飛と受けましたが、▲7四歩△同歩▲9五角と好調な手順が続きました。

この戦型は定跡化が進んでおらず、居飛車側の対策がまだ整備されていない印象を受けます。振り飛車目線としては、先手中飛車で後速に苦慮するよりは、▲6七歩型三間で力戦型に誘導する方が遥かに戦いやすく、多数のプレイヤーがこちらに流れている傾向があります。

個人的にも駒組みの自由度が高いことから優秀な戦法だと感じており、先手中飛車に代わる新たなエースになり得る可能性は、大いに秘めています。

 

相振り飛車

9局出現。思ったよりも多い印象です。しかし、この戦型は流石に体系化しづらいですね……。

 

その他

1局のみ。どんな将棋だったのかというと、一度、四間に振った飛車を袖飛車に振り直す大胆な作戦でした。自由奔放ですが、もはや振り飛車とは言えない気がするので深堀りはしません。

 

今回のまとめと展望

 

角交換振り飛車と三間飛車が流行している。背景としては、振り飛車を指すプレイヤーが定跡通りの進行を嫌い、力戦型に誘導したがっている傾向がある(その方が中終盤の力で勝負できるから)。先手中飛車を選ぶと判で押したように後速の将棋になってしまうので、面白くないと感じているプレイヤーが多いのだろう。

▲6七歩型三間飛車は角交換振り飛車とリンクしているので、今の環境に合っている。急戦で潰される心配もないので、安定感があるのも大きい。今後も指され続ける可能性は高い印象だ。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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