最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情 振り飛車編(2022年8・9月合併号)

振り飛車 あらきっぺ

どうも、あらきっぺです。この時期になると近所の農家の方々が稲刈りを進めているのですが、今年はあまり暑さが和らいでいないので、あんまり秋っぽくないなぁと感じる今日この頃です。とか言ってたら、いきなり冬とかになるんでしょうね笑

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 2022年7月 振り飛車最新戦法の事情 振り飛車編(2022年6・7月合併号)

 

注意事項

 

・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。
棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。
全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・記事の内容は、プロ公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。

 

・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2022.7/1~8/31)

 

調査対象局は135局。それでは、戦型ごとに解説していきましょう。

 

先手中飛車

端を放棄して中央志向。


15局出現。前回の期間から比べると、出現率は8.4%→11.1%と増加しました。復調している様子が窺えます。ただし、後手超速に対して何かしら策を用意しておかないと、この戦法を指すことは出来ません。

ところで、後手超速には様々な指し方がありますが、現環境で最強と見られているのは桂跳ね優先型ですね。

先手中飛車 後手超速 定跡

図が示すように、△6一金型のまま二枚の銀と右桂を活用するのが優秀な駒組みです。この作戦に対して振り飛車は、あの手この手で対抗していましたが、どうも有効な対策が無く、現環境ではこれを回避しなければならないという見解が定着しています。

なお、この作戦の詳しい解説は、以下の記事をご参照くださいませ。

【桂跳ね優先型が優秀な理由 その1】

 続きは、こちら!

【桂跳ね優先型が優秀な理由 その2】

 続きは、こちら!

 

先手中飛車 後手超速 定跡

という訳で、振り飛車はこの形を回避する工夫が求められています。ゆえに、現環境では違う駒組みに活路を求めている動きがありますね。(第1図)

先手中飛車 後手超速 定跡

案の一つに、図のように1筋の位を取らせてしまう指し方が挙げられます。端の位を取らせるのは本意ではありませんが、こうすれば中央方面の整備が進むので、急戦を受け止めやすくなるという訳ですね。

第1図のような組み上がりになれば、振り飛車は二枚の銀で中央をグイグイ圧迫される展開にはなりにくい将棋になります。▲6六銀型で対抗するよりも穏やかな将棋になりやすいので、急戦を安全に受け止めたいプレイヤーには、面白い作戦かもしれません。今後に注目です。

 

四間飛車

穴熊に苦戦している。


28局出現。先手番で12局。後手番で16局。出現率は20.7%であり、これは前回の期間から9%も落ち込んでいます。

四間飛車の支持率が落ちている理由として、先手四間が、急戦と穴熊を両天秤に構える作戦に対して手を焼いていることが一因として推察されます。

四間飛車 △55角急戦

図の作戦が、四間飛車を悩ませている指し方です。ここから居飛車は、穴熊と急戦を使い分けてきます。態度をギリギリまで保留することで、相手の配置に対して相性の良い作戦を選べることが、この作戦の自慢ですね。

なお、先手四間がその作戦に手を焼いている詳しい理由については、以下の記事をご覧くださると幸いです。

【先手四間が苦戦している理由】

 続きは、こちら!

 

さて、今回は、後手四間飛車の話をしたいと思います。

なお、後手四間飛車の場合でも、上記の両天秤作戦は厄介な相手であり、これも振り飛車は苦戦している印象を受けます。ただ、後手四間飛車の場合、振り飛車はオープニングで工夫すれば、それを回避しやすい側面があるのです。(第2図)

四間飛車 対策 定跡

ご覧のように、まだ飛車を振っていない段階で端歩を打診するのがちょっとした工夫になります。

ところで、現代将棋は端歩突き穴熊の優秀性が認知されているので、居飛車は序盤で△9四歩と突かれても、気軽に▲9六歩と突き返しやすくはなっています。ただし、こうした後手の作戦がまだ決まっていない段階では、▲9六歩と突きにくい意味があるのです。

四間飛車 対策 定跡

というのは、ここで▲9六歩を受けると、後手は雁木にシフトしてくる可能性があるからです。雁木の将棋になると、9筋の突き合いは雁木側が得になるケースが多く、先手目線からすると損な取引と言えます。ゆえに、ここで▲9六歩は少し指しにくい側面があるのですね。

そうなると、後手は9筋に位が取れるので、それから四間飛車を採用すれば両天秤作戦(及び、端歩突き穴熊)を封じることが出来るという訳です。

 

さて、端の位を取らせた場合、居飛車は穴熊を目指すのが妥当と言えます。対して、振り飛車は平凡に銀冠を目指す指し方もありますが、昨今のトレンドはミレニアムを志向する指し方ですね。

四間飛車 対策 定跡

四間飛車が△9五歩型のミレニアムを志向すると、概ねこういった局面になります。振り飛車は囲いが整っていないので、まずはそれを整えるのが自然ですね。

四間飛車 対策 定跡

平凡に指すなら、△8一玉▲8八銀△7二金。また、早く攻めの形を作るなら、△6二金直▲8八銀△5四銀という指し方もあります。

しかしながら、現環境ではどちらのプランも居飛車が満足に戦えると見られており、振り飛車は苦戦を強いられています。続きが気になる方は、豪華版の記事をご覧くださると幸いです。

【△9五歩型四間飛車が穴熊に苦戦している理由】

 続きは、こちら!

 

話をまとめると、現環境の四間飛車は、端歩突き穴熊を志向する作戦に苦戦しています。後手番であれば9筋の位を取りやすいので端歩突き穴熊を回避できますが、やはり穴熊に組まれたときが厄介ですね。

四間飛車 対策 定跡

△9五歩型の四間ミレニアムは、四間飛車の中でも相当に優秀な作戦ではあるのですが、それでも穴熊に屈しているのが実情です。現環境の四間飛車は、先後ともに苦労が多い印象ですね。

 

三間飛車

▲3九玉型で動きを見せる。


43局出現。先手番で23局。後手番で20局。現環境でのトップメタを走っている戦法です。出現率も30%を超えていますね。

居飛車の対策は持久戦一色で、穴熊と左美濃の二派に分かれます。そして、このところ注目されているのは左美濃ですね。特に、振り飛車が石田流の組み換えを目指した場合、左美濃を採用する傾向が強まっています。(第3図)

三間飛車 対策 定跡

従来は、ここから▲2八玉△3二銀と進めてから石田流の組み換えを図るケースが多数派でした。しかし、その進行は振り飛車が苦労しやすく、芳しくないと見られている節があります。詳しい理由につきましては、以下の記事をご覧くださると幸いです。

最新戦法の事情 振り飛車編(2022年4・5月合併号)

最新戦法の事情 振り飛車編(2022年6・7月合併号) 豪華版

 

三間飛車 対策 定跡

そういった背景があるので、ここ最近の振り飛車は▲3九玉型のまま▲7五歩と突くケースが多いですね。▲2八玉を保留することで、素早く攻撃態勢を作ろうという訳です。今回は、その指し方を掘り下げていきましょう。

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これに対して居飛車は複数のプランがありますが、じっくりした将棋に持ち込むなら、△3二銀▲6八角△6四歩という組み方が最もそれに適しています。これは6三の地点に銀を配置して、7筋からの捌きを抑える意図があります。そうして相手の攻めを受け止め、銀冠穴熊を作ることが居飛車の描く理想像ですね。

振り飛車としては、そのビジョンを防ぐ構想が必要です。具体的には、以下のような攻撃態勢を作るのが良いでしょう。(第4図)

三間飛車 対策 左美濃

ご覧のように、▲3九玉型を維持したまま駒組みを進めるのがポイントです。振り飛車は場合によっては▲2六歩→▲2五歩という手段で攻めて行くことも視野に入れているので、▲2八玉と上がる手は必ずしもプラスとは言い切れません。ゆえに、▲3九玉型の方が賢いのです。

三間飛車 対策 左美濃

この後は▲4六角と出たり、▲3七桂→▲2六歩と進めて▲2五歩と突く攻め筋を作るのが楽しみです。居飛車は銀冠穴熊を完成させる前に相手から仕掛けられそうな格好なので、こうなるとそれを目指すことは出来ません。形勢としては互角ですが、振り飛車としては相手の理想を阻めているので不満のない序盤戦だと言えるでしょう。

 

画像

このように、▲3九玉型のまま駒組みを進めると、居飛車の銀冠穴熊を牽制しやすくなる恩恵が得られます。左美濃相手には、こういった手法で石田流の組み換えを目指す方が面白い印象ですね。

 

角交換振り飛車

ダイレクト向飛車が多いが…。


16局出現。多くはありませんが少ない訳でもなく、いつも通りといったところでしょうか。

16局のうち8局がダイレクト向飛車系の将棋で、この戦法が支持を得ている様子が窺えます。ただ、結果に結びついた将棋は一つもなく、苦労している印象は拭えません。

とはいえ、多く指されているということは、鉱脈があると思われている証でもあります。今後に期待ですね。

 

その他の振り飛車

ぐんぐん歩を伸ばす。


23局出現。このうち18局が角道を止めないタイプの振り飛車です。昨今では居飛車の端歩突き穴熊が優秀な囲いと認知されているので、それを牽制するために角道を止めないようにしている風潮を感じますね。

さて、今回は角道オープン向飛車において面白い工夫を講じた将棋がありましたので、それを解説したいと思います。(基本図)

角道オープン向かい飛車 定跡

この辺りまではプロ棋戦でも実戦例が多く、この戦法における普遍的なオープニングと言えます。

さて、ここで振り飛車は▲5七銀と上がるのが一般的です。それで悪い訳ではないのですが、より得を求めて意欲的な構想を見せた将棋が登場しました。

具体的には、▲4六歩△4二金▲4五歩で足早に4筋の歩を伸ばす指し方ですね。(第5図)

角道オープン向かい飛車 定跡

この構想の趣意を平たく述べると、「さっさと急戦で攻めて来い。でも、その展開は美濃囲いの堅さが活きるので怖くないぞ」と居飛車に主張している意味があります。ただ、これでは言葉が足りないと思うので、もう少し詳しく説明しましょう。

角道オープン向かい飛車 定跡

振り飛車は、このまま相手が何もしてこなければ、▲5七銀→▲5八金左→▲4七金→▲4六銀で左辺の金銀を盛り上げます。そこまで組めれば非常に手厚い格好になるので、振り飛車は作戦勝ちが期待できます。つまり、居飛車は指をくわえて駒組みを進めるわけにはいきません。

角道オープン向かい飛車 定跡

そうなると、必然的に高美濃に組まれる前に動くことが求められます。ただ、この局面から急戦志向で来てくれれば、振り飛車は玉の堅さでアドバンテージを得ることが出来るので、それは怖くないと踏んでいる訳です。要するに、相手に薄い玉型で攻めてきて欲しいのですね。

加えて、相手に動いてもらうことで、千日手の懸念を払拭する意図も少なからずあると言えるでしょう。

角道オープン向かい飛車 定跡

ただ、問題は本当に急戦に対して互角以上に戦うことが出来るのか? という点にあります。例えば△6四銀と上がったり、△7七角成→△3三桂という順で動いてくることが予想されますね。

それらの手順は手強い指し方ですが、結論から述べると、振り飛車も十分に対抗することが可能です。詳しい解説を読みたい方は、豪華版の記事をご覧いただけますと幸いです。

【急戦を仕掛けられたときの対処法】

 続きは、こちら!

 

相振り飛車

金無双が主流。

10局出現。出現率は7.4%。たまに指されるといったところですね。

特に目新しい部分はありませんが、強いて現環境の相振りの特徴に言及すると、先手側は金無双が多いことが挙げられます。

現環境の先手振り飛車では、三間飛車が最も指されています。三間に振る場合は初手に▲7八飛と指すか▲7六歩△3四歩▲6六歩のオープニングを選ぶのが一般的なので、相振り飛車もその出だしが殆どですね。

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このとき、先手はどちらのケースでも、向飛車に構えるのが一般的です。初手▲7八飛の場合は、主導権を握るため角道を止めないまま駒組みを進めたいので、角交換になっても大丈夫な配置を維持する必要があります。そうなると、低い構えでかつ、端やコビンの弱点がない金無双はうってつけと言えます。

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また、▲7六歩△3四歩▲6六歩の出だしから相振り飛車になる場合、4手目は△3二飛が多数派です。このときも先手は金無双に組んでおくのが最も無難な選択ですね。矢倉では主導権が取りにくいですし、美濃では端に弱点を抱えますから。

こうした背景があるので、先手側は金無双が多数派であると考えられます。

逆に、後手側はかなり囲いが多様化しており、今回の期間では[金無双・美濃・カニ・矢倉・穴熊・雁木・不定形]とバラエティーに富んだ内容になっています。これは、後手側は相手の態度を見てから飛を振る位置を決められるので駒組みが幅広く、それに伴って囲いの選択も広がりを見せていることが理由だと考えられます。

こういった理屈を知っておくと、相振り飛車を指したり見たりするのが面白くなるかもしれませんね。

 


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今回のまとめと展望

 

【後手番で何を指すのかが死活問題】

 

現環境では、先手中飛車が復活傾向にあり、先手三間も魅力溢れる作戦と言えます。反面、四間飛車は先後に関わらず苦しんでおり、風向きが悪いと考えられます。

また、振り飛車党のプレイヤーは後手番で何を指すのかが死活問題です。後述しますが、現環境では後手振り飛車の特色を活かす指し方ではない手法が評価されているので、どんな戦法も後手番は苦労しています。後手番の適性が高い四間飛車が赤信号であることが泣き所ですね。

 

【囲いの整備がよりシビアに】

 

現環境の振り飛車の特徴して、「攻撃形の構築を最優先する」ことが挙げられます。手広く構える駒組みよりも、攻撃に特化した配置を作る傾向が色濃いですね。

三間飛車 対策 左美濃

例えば、三間飛車で▲2八玉を保留して攻撃形を作る作戦は、まさにそれを体現したものと言えます。もちろん、▲2八玉と入城するのは大きな一手ですが、これを省いてもすぐに致命的な欠陥が生じるわけではありません。なので、一手でも早く攻撃態勢を整える方が主導権が取りやすいという訳ですね。

最新戦法 振り飛車

また、上図の作戦も、それが顕著に出ています。先手中飛車の方は、端歩を省くことで左辺を充実させることを重視していますし、角道オープン向飛車の方は、▲5八金左という整備を省いて攻め味を見せていることが分かります。特に、角道オープン向飛車の▲4五歩は相当に形を決めているので含みは乏しいですが、そういうデメリットには目をつむるのが現環境の特徴であることは先述した通りです。

 

基本的に、対抗形の将棋はまず盤面の左側(大駒が配置されている攻撃陣)で戦いが起こり、中終盤以降は盤面の右側(囲い)での戦いが本格化されることになります。そうなると、序盤の段階では左側、すなわち攻撃陣を充実させる方がアドバンテージを取りやすいと考えるのは自然でしょう。ゆえに、囲いに費やす手数を簡略化する傾向が強まっていると考えられます。

そうして攻撃陣に手数を費やすと、必然的に攻めに特化した布陣ができ上がてきます。そして、敵陣を攻めるとなると、一手でも早く駒組みが完了する先手番の方が条件が良いことは言うまでもないですね。

つまり、現環境では「攻める振り飛車」が評価されているのですが、後手番では攻勢に出る条件が悪く、ゆえに後手振り飛車は苦労が多いという理屈が成り立つのです。

 

裏を返せば、後手番でも思いっ切り攻勢に出れる戦法が編み出せれば、それは一躍、対抗形の主戦場に躍り出ることでしょう。現環境の振り飛車党には、そういったことが求められているように感じますね。

それでは、また。ご愛読くださり、ありがとうございました!

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