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~振り飛車は左桂の捌きが命~ 第68回NHK杯解説記 阿久津主税八段VS久保利明王将

今週は、阿久津主税八段と久保利明王将の対戦でした。

 

阿久津八段は居飛車党で、切れ味鋭い攻め将棋です。踏み込めるか否かの判断を見極める技術が高い印象があります。

一回戦では竹内雄悟四段(当時)と戦い、相振り飛車を採用して勝利しました。 ~手得を活かした位取り~ 第68回NHK杯解説記 竹内雄悟四段VS阿久津主税八段

 

久保王将は、今さら説明するまでもない、振り飛車の名手です。また、「捌きのアーティスト」という二つ名はあまりにも有名ですね。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯2回戦第16局
2018年11月18日放映

 

先手 阿久津 主税 八段
後手 久保  利明 王将

序盤

 

初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△4二飛▲6八玉(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

久保利明

戦型は、後手の角交換振り飛車。まだ、駒台に角は乗っていませんが、後手がそれを志向しているのは明らかです。

ここから先手は、▲3三角成△同桂と進める手がポピュラーですが、阿久津八段は▲5六歩△2二飛▲5七銀と指しました。これは、持久戦(穴熊)を目指した方針です。(第2図)

 

久保利明

やはり、角交換系の将棋になると駒が偏るので愚直に穴熊には組みにくい背景があります。

なので、穴熊を目指すのであれば、さっさと▲6六歩を突く手も一案なのですが、あまりに早く角道を止めると、こちらの将棋のような指し方が気になるところです。 ~踏み込みのタイミング~ 第68回NHK杯解説記 井出隼平四段VS近藤誠也五段

 

つまり、▲5六歩→▲5七銀という手順は、角交換はしたくないけど、角道も止めたくないよと言っている訳です。なかなか、わがままな作戦ですね。

 

先手は持久戦を望んでいるので、後手としては逆に急戦調の将棋に持ち込みたいところ。久保王将は、△3二銀▲3六歩△2四歩と足早に動いていきました。互いの思惑がぶつかり合った結果、戦いが勃発しましたね。(第3図)


中盤

 

久保利明

この△2四歩に対して、先手には二つの選択肢があります。単に、▲2四同歩とするか、▲3三角成△同銀の交換を入れてから▲2四歩とするかです。

 

結論から述べると、後者が勝りました。すなわち、第3図から▲3三角成△同銀▲2四歩△同銀▲6六角△3三角▲3七桂と進めるべきだったのです。(A図)

 

逆棒銀の受け方

逆棒銀には、▲3七桂と跳ねて△2五銀を阻止することが肝要です。この場合も、その例に漏れません。

ここで△3五歩は気になりますが、▲4五桂△6六角▲同銀と強気に応じれば大丈夫。この変化は、2四の銀が負担になっているので、後手が不満です。(B図)

 

したがって、A図で後手は△5二金左と整備するくらいですが、▲5五歩で角道を止めれば、次に▲2五歩で銀を詰ます狙いが生じるので、先手が互角以上に戦える将棋でした。

 

本譜に戻ります。(第3図)

久保利明

阿久津八段は、▲2四同歩△同飛▲2五歩で局面を収めに掛かりましたが、△8八角成が機敏な一着。この手を境に、後手が主導権を握ったような印象を受けました。(第4図)

 

左桂を捌く準備

後手は2五の歩を目標にしたいので、将来的には△3三桂と跳ねる手を指したいのです。ただし、単に△2二飛と引くと、▲5五歩と指されたときに自分の角が邪魔をして、桂の活用に手間取ってしまいますよね。

 

しかし、あらかじめ角を捌いてしまえば、後手はスムーズに△3三桂が跳べるので、上記のような心配は皆無です。つまり、ここで角を交換する手が、唯一無二のタイミングなのです。

 

△8八角成に対し、▲同玉は離れ駒が増える上に、△4四角のラインが嫌らしいので▲同銀は妥当です。以下、△2二飛▲4六銀△3三桂▲3七桂と互いに2筋へ戦力を集めました。(第5図)

 

左桂には右桂で対抗

▲4六銀と上がった効果で、△3五歩の桂頭攻めをケアしています。

銀を上がると△3九角で馬を作る手が生じていますが、▲2六飛△8四角成▲3五歩で反撃できるので、これは誘いの隙。第5図は、2~4筋が主戦場なので、8四に馬を作っても無価値と言えます。

 

後手は3七の桂がいなくなれば、△2五飛が実現するので、この駒がターゲットです。しかしながら、現状は4六の銀に守られているので、久保王将は△4四歩と突いて、銀を攻める準備をしました。

 

対して、阿久津八段は▲2四歩と指しましたが、先に▲6六角を打っておくほうが勝ったように思います。(C図)

 

左桂の捌きを封じる

後手は△4三銀と受けるくらいですが、それから▲2四歩を指せば、突き出しの威力が上がっています。以下、△2五歩▲同桂△2四飛▲2六歩が進行の一例ですが、後手が嫌らしい局面を迎えているのではないでしょうか。(D図)

 

振り飛車の左桂に対抗

(1)△2五桂は、▲同歩から2筋を逆襲できますし、(2)△3二金は、▲3三桂成△同金▲4五桂があります。

 

本譜に戻ります。(途中図)

左桂を捌く下準備

実戦は単に▲2四歩だったので、△2五歩▲同桂△2四飛▲2六歩△4五桂と跳ね違える手が成立しました。この手が発生していることが、▲6六角を打たなかった弊害です。(第6図)

 

左桂が捌ける

先手は遅まきながら▲5五角と急所のラインに角を設置しましたが、△3五歩▲同銀△5四歩が軽妙な歩使い。低い陣形を最大限に活かした好手順でした。(第7図)

 

ここで▲4四角と指すと、後手は喜んで△同飛と切るでしょう。ご覧の通り、後手陣は飛車に滅法強い配置なので、この局面において飛角交換は、後手の駒得と言えるのです。

 

よって、阿久津八段は▲6六角△2一飛▲4六銀と辛抱しましたが、△6四角が味の良い攻防手となりました。(第8図)

 

左桂の捌き

受けることだけを考慮すれば▲5五歩で事足りるのですが、それを指すと自分の狙い(▲4四角)も消えてしまうので、△2四歩が間に合ってしまいます。

 

ゆえに、阿久津八段は▲3八飛を選びましたが、やはり△2四歩が着実な一手。桂得が確定し、後手がはっきり有利になりました。

先手も飛車を寄った手を活かすべく、▲3五歩△2五歩▲3四歩と歩を伸ばしますが、△2六歩の取り込みが利いてしまうのが泣きどころです。(第9図)

 

左桂が輝いている

先手は本音を言えば、ここで▲3三歩成と指したいのですが、△3七歩▲3二と△同金で飛車を押さえ込まれると、勝ち目がありません。(E図)

 

仕方が無いので、第9図から阿久津八段は▲3五飛と浮いて、△3七歩を回避しますが、△4三桂と再度、飛車を責めたのが厳しい追及。以下、▲3九飛△3八歩▲2九飛△5五歩先手の大駒を封じることができました。(第10図)

 

久保利明

この局面は、後手が桂得で、囲いの堅さも勝り、飛車の働きも大差なので、後手優勢は疑いの余地がないでしょう。

 

形勢が苦しい立場としては、何か一つでも相手より勝る部分を作って、主張点を見出すより道はありません。阿久津八段は、▲5五同歩△2七歩成▲5四歩と指して、角の働きに差を着けようとします。しかし、△3九歩成が小味な成り捨てでした。(第11図)

 

左桂が光っている

▲同飛は△3七とが絶好の活用ですね。次の△2八飛成が痛烈な成り込みです。

阿久津八段は▲2二歩△同飛▲4四角と攻め合いに活路を求めましたが、一直線の寄せ合いは、玉型で勝る後手の土俵です。久保王将は、△2九と▲2二角成△3七とで最短の勝ちを目指しました。

 

局面は終盤戦ですが、美濃囲いが堅固なことと、3七との存在感が大きく、後手の勝利は目前という状況でしょう。(第12図)

 


終盤

 

と金の遅はや

先手陣には、と金が着々と迫っていますが、侵略を防ぐことができないので、攻め合い以外の選択肢がありません。

阿久津八段は▲4四馬△3八飛▲4五銀と指しましたが、△4七と▲6八金寄に、△5七歩が正確な速度判断に基づいた決め手でした。(第13図)

 

と金の遅早

△5七歩に代えて、△5七とも当然、厳しい攻めです。しかし、6八の金を攻めると、どこかで▲7九銀から壁銀を受けに使われてしまう手が気になります。

△5七歩は、次に△5八歩成→△6九とが狙いです。つまり、6八ではなく6九の地点を攻めることで、8八の銀を受けに使わせないようにしているんですね。

 

本譜は▲5三桂と両取りを掛けましたが、△5八歩成▲6一桂成△同銀が冷静な対応。後手玉には詰めろが続きません。(第14図)

 

と金が間に合った

阿久津八段は▲5三歩成でと金を作りましたが、これは首を差し出した手です。久保王将は、△6九と▲同玉△5八金▲7八玉△6八金▲7七玉△6七金で、しっかり着地を決めました。(第15図)

 

久保利明

▲同玉と取るしかないですが、△5八飛成(終局)▲6六玉△5七竜▲6五玉△7四金で、先手玉は詰みですね。

 

本局の総括

 

  • △2四歩から後手が積極的に仕掛けたが、A図の変化を選べば、先手も互角以上に戦えた。
  • 先手はこの局面からの数手で、形勢を損ねてしまった。本譜は△4五桂と捌いた手が絶好。桂の働きの差で後手が有利になった。
  • △3五歩~△5四歩が巧みな手順で、後手は順調に優位を広げていった。
  •  終盤は、△5七歩が粘りを許さない決め手。向飛車からの素早い動きが、見事に功を奏した一局だった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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