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プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(11月・居飛車編)

冬

どうも、あらきっぺです。近頃はずいぶんと寒くなり、冬の足音が聞こえてきましたね。深夜に飲むホットココアがマイブームです。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(10月・居飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.10/1~10/31)

 

調査対象局は80局。それでは、それぞれの戦型ごとに見て行きましょう。

 

 

角換わり

先手は課題が山積している。


32局出現。相居飛車では40%の出現率で、その隆盛はとどまる所を知りません。角換わりが集中的に指されている理由は、前回の記事で記したとおりです。

 

先月に続いて、後手の工夫が後を絶ちません。10月は、早めに△6五歩を突いて位を取る作戦が注目を集めました。(第1図)

 

2018.10.11~12 第31期竜王戦七番勝負第1局 ▲羽生善治竜王VS△広瀬章人八段戦から。(棋譜はこちら)

通常、角換わり腰掛け銀では、[△6二金・△8一飛型]を優先的に作り、それから他の手を指していくケースがほとんどです。

しかし、この将棋では、まだ△8二飛型ですね。これは、△6五歩を後回しにすると、先手に▲6六歩を突かれる余裕を与えてしまうからです。

 

後手はここから、△8一飛→△5四銀→△6四角の三手を無事に指せれば、膠着状態を作れるので千日手が濃厚になります。ということは、先手はそれを指される前に、何か策を講じなければいけません

 

羽生竜王は第1図から▲5六銀△8一飛(青字は本譜の指し手)の交換を入れて、▲6六歩と動きました。(第2図)

 

以下は、△6六同歩▲同銀△5四銀▲5八玉△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛▲7五歩と進みます。

上記の手順は、ほんの一例に過ぎず、他にも考えられる変化はありますが、大まかに全容を掴んで欲しいので、あえて解説は省きます。(第3図)

 

さて。先手は動いたことで、局面を解すことには成功しました。しかし、自陣を乱していることが些か気になるところです。

 

[▲4八金・▲2九飛型]は、玉を右辺へ逃げ出しやすい利点があるので、このような指し方は、戦法の特性を活かしていると言えます……が、本来、6~8筋は後手が攻めてくるエリア、すなわち、先手にとっては守るべき場所です。

つまり、先手はわざわざ自分の防壁を切り崩してまで打開に踏み切っている訳で、果たしてこれが良い策なのかと問われると、疑問を感じるところです。

 

▲6六歩と位に反発する指し方は、このような弊害があるので、個人的には本筋と思えず、苦心の産物という印象を受けます。

 

第1図に戻ります。

この局面は、後手の△8二飛型が中途半端な位置なので、先手は直ちに仕掛けを決行する手も考えられます。ここから▲3五歩△同歩▲4五桂と動いた将棋も指されました。(第4図)

 

2018.10.21 第39回日本シリーズJTプロ公式戦 ▲渡辺明棋王VS△羽生善治竜王戦から。(棋譜はこちら)

後手は先手の仕掛けを咎めたいので、△2二銀と引いて、桂を取りに行く姿勢を見せます。以下、▲2四歩△同歩▲7五歩△8一飛▲7四歩△同銀と進みました。(第5図)

 

手順中の△8一飛が大切な一手です。これを指すことで、

(1)▲7一角の割り打ちを消す。
(2)下段に飛車の利きが通る。

という二つの恩恵を得られるので、後手陣は飛躍的に防御力が高まります。

 

渡辺棋王は、ここから▲2四飛と指しましたが、△4四角が銀取りを受けながら、後の△7六歩を見せる攻防手となり、後手は満更でもない局面です。(A図)

 

このように、先手は局面を動かすことはできても、良さを求めるレベルにまでは至らず、良い対策を打ち出せていない状態です。

他にも、前回で紹介した△7二金型や、基本形から△5二玉⇔△4二玉で待機する指し方など、先手は打破すべき作戦がたくさんあります。

 

現環境は、先手の課題が山積みなので、後手が存分に戦えていると見ます。ただ、この戦型は先手が「先攻しやすい」という利点を持っているので、今後も指され続けることでしょう。

 

 

矢倉

桂ポンにどう対応する?


9局出現。相も変わらず急戦調の将棋が圧倒的に多い(8局)ですね。

今では先手はそれを警戒するために、▲6七歩型で矢倉を目指すことが「常識」となりましたが、そんなの関係ないよと言わんばかりの作戦がこの将棋です。(第6図)

 

2018.10.9 第31期竜王戦4組昇級者決定戦 ▲高見泰地叡王VS△遠山雄亮六段戦から。

この作戦は、こちらの記事で紹介したように、7月頃に登場したものです。面白い作戦なのに、その割には、なかなか出現しないものだなあと思っていました。 プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(8月・居飛車編)

 

先手は△6五桂を見せられていますが、▲6六歩と突いても△6五歩で歩がぶつかってしまうので、根本的な解決にはなりません。

そこで、髙見叡王は▲7九角と引いて、角の活用に期待します。以下、△6五桂▲6六銀△8六歩▲同歩△同飛▲8八歩△7六飛▲2四歩△同歩▲4六角と進みました。(第7図)

 

一見、6四の歩取りが受からず、後手が攻め急いでしまったようですが、じっと△6二銀が堂々たる一着。仮に▲6四角だと、△6六角▲同歩△5七桂成で先手はノックアウトです。(B図)

 

よって、髙見叡王は▲5五歩と突いて、後手の動きを抑制しましたが、△8六歩が冷静な一手でした。(第8図)

 

後手は桂を五段目に活用できた上に、歩得をしているので、もう一定の戦果は上げています。この△8六歩は、それに満足しているので、ゆっくり指しても良いよと主張しているのです。

 

後手はこのあと、△3二銀→△4二玉→△5二金右と美濃囲いに組めば良いですが、先手は囲い方が難しく、理想形が見えにくいですね。

一応、先手には「3筋の歩を伸ばして一歩を持ち、▲7七歩で飛車を取る」というビジョンはありますが、その頃には後手の美濃囲いが完成しているので、飛車を切る準備が整っています。後手にとっては、恐れることのない展開です。

 

この作戦は、▲6七歩型でも、▲6六歩型でも決行できるところが最大の長所です。先手矢倉にとっては、強敵と言えるでしょう。

 

 

横歩取り

復権は厳しい。


5局出現。この採用数の少なさが、苦慮していることを暗示していますね。

青野流に対して、後手は長らく△5二玉型の将棋で立ち向かっていましたが、10月の採用数は、なんとゼロ。打ち出した新手がことごとく踏ん付けられていったので、ちょっと策が尽きてしまったのかもしれません。後手横歩は前途多難ですね。

 

雁木

振り飛車と併用する。


12局出現。角換わり拒否タイプが4局。4手目△4四歩タイプが4局。先手雁木が4局と、きれいにバラけました。

 

△4四歩タイプの雁木は、先手の早繰り銀が強力なので、現環境ではやや苦戦気味です。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。 プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(9月・居飛車編)

 

そこで、後手はオープニングで工夫を見せるようになりました。(第9図)

 

2018.10.31 第90期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 ▲藤井聡太七段VS△村田顕弘六段戦から。

雁木VS早繰り銀の将棋では、よく見かける局面ですが、端歩の交換が入っていることが、通常形と異なる部分です。

 

なぜ、このような形になっているのでしょうか。それは、後手が飛車先を伸ばす前に△9四歩と打診したことがキーです。(第10図)

 

今月の振り飛車編でも述べましたが、最近はミレニアムや左美濃が有力視されているので、居飛車は△9五歩と突き越される手を嫌う傾向があります。

なので、△9四歩には▲9六歩と受けるケースが多いのですが、それを見て、雁木の将棋に誘導することが後手の工夫なのです。

 

端歩の交換が入っていると、△6四銀→△7五歩で先手の角頭を攻める手が実行しやすくなります。理由は、▲9五角と王手で切り返される筋が無くなっているからです。9筋の突き合いは、後手が損を被るケースはほぼ無く、得な取引だと考えられます。

 

また、この戦術は先手番でも応用が利きます。(第11図)

 

2018.10.24 第77期順位戦B級2組5回戦 ▲大石直嗣七段VS△千田翔太六段戦から。

これも意味合いは先程と同じです。先手の場合は、三間飛車と雁木を両天秤にすると良いでしょう。

 

端歩を打診したところで作戦勝ちになるという訳ではありませんが、どちらの将棋に転んでも、通常形よりは得した状態で、その戦法を指せることが期待できます。居飛車も振り飛車も指しこなせるプレーヤーには、是非ともレパートリーに加えておきたい指し方ですね。

 

 

相掛かり

UFO銀が増加したが……。


15局出現。以前までは▲3八銀・▲6八玉型の将棋が多かったのですが、後手の迎撃策が進歩したので、10月は代替案としてUFO銀が多く指されました。具体的に数字を示すと、9月は2局だったのに対し、10月は6局です。

 

しかしながら、UFO銀にはこの対策が秀逸です。(第12図)

 

2018.10.24 第77期順位戦B級1組7回戦 ▲山崎隆之八段VS△斎藤慎太郎七段戦から。

このフォーメーションが、数あるUFO銀対策のなかで、最強の構えです。要点としては、

(1)△3三角・△2二銀型を早めに作る。
(2)歩交換は後回し。
(3)9筋の突き合いを入れておく。

この三つです。

 

先手は▲7六歩を突くと、△8六歩▲同歩△同飛から横歩をかっさらわれる手が嫌味です。また、できれば雁木に組みたいので▲6八玉も上がりたくありません。

したがって、第12図で山崎八段は▲6八銀と指しましたが、△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△3六飛▲同歩△5五角が狙い澄ました強襲です。(第13図)

 

ここで(1)▲1八飛では△2七銀から桂香をボロボロ取られてしまうので、(2)▲2五飛打と打たざるを得ません。しかし、△2八角成▲同飛△9五歩▲同歩△9七歩と端に火を着けて、後手ペースの将棋です。(第14図)

 

(1)▲同角は△9五香。(2)▲同香は△9八銀があるので、(3)▲同桂と応じましたが、△9五香で後手の攻めが続きます。

先手は▲6八銀と上がったことで、△9八歩▲同香△8九銀という攻め筋が発生していることが不愉快なところですね。

 

本来、UFO銀という戦法は、2筋を攻めるぞと脅すことで、相手の駒組みに制約を与えて作戦勝ちを狙うことが趣旨です。しかし、第12図の組み方をされると、横歩をかっさらう手と、△3六飛からの強襲を見せられているので、逆に先手が制約を受けているような印象を受けます。

 

この作戦は、銀冠に組む含みもあるので、持久戦にも対応可能なところが嬉しいですね。非常に優秀な作戦であり、大いに魅力を感じます。

 

現環境は、先手の良い作戦が不在なので、後手が十分に戦えると言えるでしょう。

 

 

その他の戦法

奇策に訴える理由が無い。


7局出現。特筆すべきことは無かった印象です。

現環境は2手目△8四歩で何不自由なく戦えるので、策を弄する必要性が乏しいですね。なので、そこまで採用数も増えないです。

 

 

今回のまとめと展望

 

現環境は、2手目△8四歩がすこぶる強力。どんな戦型になっても、互角以上に戦うことができる。先手としては、先攻の権利を握りやすい角換わりに誘導するのが安牌だろう。

 

 

玉の囲いもそこそこに、敵陣へ襲い掛かる指し方が増えている印象だ。今回の記事で言えば、第6図第13図の将棋がそう。青野流も、その性質を色濃く反映している。言い換えれば、それは先攻する重要性を高く示唆していると言える。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



2 Comments

kaka

自分は矢倉をよく指すので今回の記事で出てきた急戦策についても注目しているのですが記事にも書かれている通り第8図では確かに先手が窮屈な印象を受けます。個人的には67の歩が駒組みの発展性を邪魔しているように感じますし加えて相手の飛車が76まで来ていつでも飛車を切られるのが憎いところです。ただ第6図で66歩と突けば上の2つの問題は解決できるようにも感じますがどうでしょうか?勿論桂馬が5段目に来ることは防げていませんが67歩のままでも防ぐことは出来ませんしそれとも65の地点に争点を与えるのが怖いということでしょうか?
あらきっぺさんの見解を聞きたいです

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あらきっぺ

はじめまして。

第6図から▲6六歩だと、後手には主に3つの方針が考えられます。

(1)△3二金から駒組みに移行する。いつでも、△6五歩から仕掛けられる争点を得たことに満足するという考え方。後手は雁木を目指すのが一例。

(2)いきなり、△6五歩と仕掛ける。以下、▲同歩△同桂と進む。
そこで、(Ⅹ)▲6八銀は△6六歩で先手が冴えないので、(Y)▲6六銀△6四歩▲5五歩△6二銀となる。(A図)

矢倉VS△6五桂急戦

桂を捌いたことが後手の言い分だが、先手も5筋に位を取ったことで、後手の角を使いにくくさせたので、一方的に損を被っている訳ではない。

(3)△7二銀▲7九角の交換を入れてから、△6五歩と動く。以下、▲2四歩△同歩▲同角△6六歩と進む。このとき、7二に銀を上がった効果で、▲4六角が桂の両取りにならない。(B図)

矢倉VS△6五桂急戦

B図から、(Ⅹ)▲3三角成△同桂▲2一飛成は△6七角がうるさい。よって、(Y)▲5八金で一度、お手入れをするほうが無難だ。以下、△2四角▲同飛△2二歩が一例。先手は△2二歩を打たせたこと。後手は矢倉の構築を阻止したことが、主張と言える。

ざっと書いてみましたが、概ねこのような感じです。個人的には、(2)や(3)の変化を選ぶほうが、この戦法の趣旨に合っているのではないかと考えます。やはり、先手は安々と矢倉に組むことは許してもらえなさそうな印象ですね。

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