どうも、あらきっぺです。最近はフォカッチャを頂くことがマイブームです。個人的には食パンよりも食べやすいので、なかなか良いですね。しかし、フォカッチャって知らなかったら、「何それ? 新しいポケモン?」とか聞いてしまいそうですね笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(11月・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.11/1~11/30)
調査対象局は68局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
先手中飛車
左美濃+△6四銀が強敵。
12局出現。先月は居飛車の対策が分散していましたが、11月に入ってから左美濃と△6四銀型を掛け合わす作戦が、再び増加しました。
基本的に、この作戦は、高美濃囲いと早繰り銀の形を両立することが狙いです。具体的には、このような展開ですね。(仮想図)
このような局面になると、膠着状態なので先手は打開の手段が難しいことと、居飛車側だけ攻めの桂を使いやすいという二つの利点があります。
要するに、居飛車としては、
(1)銀対抗の形を作る。
(2)△2二玉と入城した高美濃を作る。
これらを両立すれば作戦勝ちと言えます。
さて。これを作るために、居飛車はどのような手順で組みに行くかが問題です。大きく分けると、
(1)高美濃を優先するパターン。
(2)銀対抗の形を優先するパターン。
この二つに分かれます。
まずは、(1)の高美濃優先タイプを見ていきましょう。(第1図)
2018.11.7 第77期順位戦A級5回戦 ▲久保利明王将VS△糸谷哲郎八段戦から抜粋。
後手が高美濃を作ったところです。ここから、▲5七銀△7三銀▲5六銀△6四銀(青字は本譜の指し手)と進みます。(第2図)
先手は▲6六銀型に組んでしまうと仮想図のような局面に誘導されてしまうので、この場合は▲5六銀型に組むしかありません。ただ、これだと角頭の守りが弱いですね。
なので、久保王将は▲6六歩と突いて、後手の銀を追い払う態度を見せます。後手も、その要求を呑む訳にはいかないので、△7五歩で反発します。
以下、▲6五歩△7六歩▲6四歩△7七歩成▲6三歩成△7六とまでは一本道ですね。(第3図)
この斬り合った局面をどう判断するか。玉型は、先手のほうが戦場から遠い位置に居るので勝っていますが、(1)駒損していることと、(2)飛車の活用の目処が立っていないことが問題点です。
特に、(2)が重要です。後手の飛車は受けに働いていますが、先手の飛車は、と金で狙われやすいので、神経を使います。
第3図は、互いに主張があるので難解ではありますが、居飛車のほうが指す手が分かりやすい印象を受けます。
次に、(2)の銀対抗の形を優先するパターンを見ていきましょう。(第4図)
2018.11.14 第77期順位戦B級2組6回戦 ▲佐々木慎六段VS△畠山成幸八段戦から抜粋。
次に△4三金と上がられると、やはり仮想図の局面になってしまうので、銀対抗の場合は、▲5四歩で5筋の歩を交換します。以下、△同歩▲同飛△4三金▲5九飛△3四歩▲5五銀とガンガン動いていきます。
先述したように、先手は安々と△2二玉型の高美濃を許したくないので、その前にある程度、ポイントを稼いでおきたいのです。(第5図)
実は、ここまでは前例があります。従来は、このように5筋を交換して銀をぶつければ、中飛車が満足という見解でした。詳しくは、こちらの記事をどうぞ。プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(9月・振り飛車編)
しかし、ここで△6五銀とかわしたのが、新たな工夫です。(第6図)
次に△7六銀→△6七銀成と突進されてはいけないので、▲7八金は妥当なところですが、△7六銀▲6八角△4五歩▲6六歩△8六歩が鋭い攻めで、後手が優位に立ちました。(第7図)
(1)▲同歩は△8七歩と垂らす手がうるさいので、(2)▲同角と応じましたが、△同飛▲同歩△5八歩▲同飛△6七角で、後手が食い付くことに成功しています。(A図)
このように、(1)高美濃優先タイプも、(2)銀対抗優先タイプも居飛車側は満足に戦えていることが分かります。
現環境は、[左美濃+△6四銀型]を作る作戦が強敵で、先手中飛車は課題を抱えていると言えるでしょう。先手中飛車を主力にしているプレイヤーは、要注意です。
四間飛車
穴熊と急戦の二極化。
12局出現。先手が4局。後手が8局。やはり、後手番での採用が目立ちますね。
対する居飛車の作戦は、穴熊か急戦のどちらかに分かれました。ちなみに、先月で有力株と評したミレニアムは、姿を現しませんでした。
これに関しては、正直なところ謎です。ただ、個人的には、一時的な現象に過ぎないのではないか、と考えています。
ミレニアムの将棋が見れていないので何とも言えませんが、現環境での四間飛車は、可もなく不可もなくといったところでしょうか。後手振り飛車では無難な選択と言えるでしょう。
三間飛車
elmo囲い急戦に、どう戦うか。
13局出現。先手が7局。後手が6局。先月よりも、後手番での対局数が3局上積みされました。
先手中飛車と並んで、主導権を握りやすい振り飛車ですが、居飛車が急戦策を志向すれば、さすがに受け身にならざるを得ません。
現代将棋のトレンドは「先攻重視」なので、11月は、居飛車がelmo囲いから急戦に打って出る作戦が多く指されました。
elmo囲いから急戦に出る作戦は、9月頃から指され出した手法です。詳しくは、こちらの記事をどうぞ。プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(10月・振り飛車編)
そして、この急戦策はさらなる進化を遂げています。(第8図)
2018.11.15 第90期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 ▲西田拓也四段VS△大橋貴洸四段戦から抜粋。
銀を繰り出さずに、低い構えを維持して仕掛けを狙うことが、後手の工夫点です。
ここで▲3六歩だと、△7五歩▲同歩△同飛で一歩交換します。通常、この仕掛け方では▲8八角から飛車交換になるので、振り飛車不満無しがセオリーですが、elmo囲いは舟囲いよりも強度が高いので、△同飛成▲同銀△6五歩で居飛車が戦えます。(B図)
このように、振り飛車は高美濃囲いに発展すると、7筋からの揺さぶりが面倒なので、▲5八金型のまま駒組みを進めるようになりました。(第9図)
2018.11.22 第77期順位戦C級2組7回戦 ▲中村亮介六段VS△島本亮五段戦から抜粋。
このような駒組みのほうが、△7二飛の筋に対応している意味があります。
しかしながら、▲4七金を保留していると、△6五歩▲6八飛△7三桂で、4五歩早仕掛け戦法の要領で攻められる手が気になります。(第10図)
もし、先手に▲4七金の一手が入っていれば、ここで▲3七桂と跳ねる手が、将来の▲4五桂を見据えた価値の高い手待ちになります。
しかし、第10図では、上部が薄いので、▲3七桂とは指しにくいですね。要するに、先手は一手分、備えが間に合っていないのです。
無論、第10図は一局の将棋だとは思いますが、やはり、elmo囲いが強固なので、よくある舟囲いの定跡型よりも、居飛車が得をしているように見えます。
現環境は、このelmo囲い急戦に、どう対抗するのかが問題です。平凡に組むと居飛車側に主導権を握られやすいので、工夫が求められているのかも知れません。
ゴキゲン中飛車
もはや、絶滅危惧種。
たった1局のみ。かつては後手振り飛車のエース級の戦法でしたが、今ではすっかり支持率が下落してしまいました。今風の言葉で言えば、「ゴキゲンは終わった」という感じでしょうか。
角交換振り飛車
美濃囲いには拘らない。
14局出現。その内、10局が後手番です。やはり、先手番では打開の義務が発生するので、後手のほうが採用しやすいのでしょうね。
一番人気は、△4二飛・△3三角型のオープニング(4局出現)です。後手の新工夫が登場したので、それを紹介しましょう。(第11図)
2018.11.15 第4期叡王戦 本戦 ▲広瀬章人八段VS△竹内雄悟五段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
この将棋は、先手が常に▲3五歩から桂頭を攻める権利を持っており、それをいつ決行するのかが焦点です。
従来は、ここから△8二玉から美濃囲いに組むケースがほとんどでした。しかし、それだと、最も良いタイミングに▲3五歩から仕掛けられて、振り飛車が芳しくありません。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
そこで、第11図から竹内五段は△6二銀▲5六歩△5三銀右と指しました。(第12図)
仮に、ここで先手がぼんやりと▲8八玉などで駒組みを進めると、すかさず△4四歩と突いて、後手満足となります。(C図)
したがって、先手は▲3五歩で仕掛ける手が必然になるのですが、△同歩▲同銀△6四角というお馴染みの手順で迎撃して、後手まずまずです。(第13図)
(1)▲4六歩は、△3四歩▲同銀△4六角が嫌らしいので、本譜は(2)▲4六銀と引きましたが、△4四歩▲3四歩△4五桂と進んだ局面は、桂が死なない形になったので、先手の仕掛けは、やや失敗気味と言えます。(第14図)
改めて、第12図に戻ります。
この構想の肝は、次に△4四歩を見せることで、▲3五歩と突く手を強要させていることにあります。先手は万全では無い態勢で動かされているので、仕掛けが上手くいかないのです。
先月に紹介した右玉模様の将棋もそうでしたが、現代の角交換振り飛車は、美濃囲いに拘らず、バランスを重視した駒組みがトレンドです。今までよりも、駒組みの幅が広がった印象を受けますね。
その他・相振り飛車
斬新な陽動振り飛車。
16局出現。その内、相振り飛車は4局。
今回の目玉は、何と言ってもこの将棋です。(第15図)
2018.11.6 第50期新人王戦トーナメント戦 ▲谷合廣紀三段VS△伊藤匠三段戦から抜粋。
後手の雁木模様VS右四間飛車という構図にしか見えない局面ですが、ここから先手は斬新な構想を披露します。
第15図から、▲6六歩△6三銀▲6七銀△4二銀▲6八飛で、なんと四間飛車に変身してしまったのです!(第16図)
右四間飛車を擬態にして振り飛車に組むのは、驚きの指し方ですね。
しかし、確かにこうなると、後手は急戦にも持久戦にも向いていない陣形なので、今後の駒組みが難しそうな印象です。実戦も、先手が作戦勝ちを収めました。
毎回、狙ってできる作戦ではないのかもしれませんが、まだまだ新しい構想は眠っていることを、改めて感じさせられました。
今回のまとめと展望
・現環境で有力視されているのは、「先手中飛車」「四間飛車」「三間飛車」「角交換振り飛車」の4つ。言い換えれば、これ以外の振り飛車は、苦しい印象を受ける。
・先手中飛車と先手三間は、先月よりも優位性が乏しくなった感がある。振り飛車党にとっては、先手番でのエース戦法をどう確立していくかが課題と言える。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!
ノーマル四間飛車を指していて6六角型のミレニアムや銀冠穴熊に組まれた際の有効な指し方がわからないのですが、プロの先生の対局で6六角型のミレニアムや銀冠穴熊を相手にしている実践例があれば取り上げていただきたいです。
はじめまして。
そうですね。それにつきましては、今月の「最新戦法の事情」で少し触れるつもりです。
ありがとうございます
楽しみに待ってます
佐藤和俊さんがたまに指される戦法なのですが
▲76歩△84歩▲66歩△34歩▲78銀△85歩▲77角△62銀▲67銀△42玉▲16歩で△14歩ならば雁木にし、それ以外ならば位を取り三間飛車にするものです。
このとき14歩と突き、先手が雁木にした時はどのように指せばいいのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
色々、あるかとは思いますが、最も方針が分かりやすいのは相雁木を目指す指し方ではないでしょうか。相雁木は一気に形勢に差が着く将棋ではないので、安定感があるかと思います。
どうしても先攻したい! というのであれば、右四間飛車ですかね。
ちなみに、早繰り銀は、一手の違いが大きそうなので、非推奨です。
ありがとうございます。相雁木を目指してみます。