どうも、あらきっぺです。先日、朝日アマ名人戦の組み合わせが発表されましたね。まだ、当日までは日数がありますが、ワクワクしてきました。しっかり準備して臨みたいと思います。
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。最新戦法の事情(2019年1月・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2019.1/1~1/31)
調査対象局は62局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
先手中飛車
左美濃への抗体を作りつつある。
18局出現。1月に最も多く指された振り飛車です。出現率は、12月から20%→29%と大幅に増加しており、先手振り飛車のエースの座を確固たるものにしていると言えるでしょう。
先手中飛車は、11月頃から左美濃と△6四銀型を掛け合わす作戦に手を焼いている状況が続いていました。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(12月・振り飛車編)
しかし、1月に入ってから、その流れが変わりつつあるのです。(第1図)
2019.1.19 第12回朝日杯将棋オープン戦本戦 ▲久保利明王将VS△行方尚史八段戦から抜粋。
この△3三歩型の状態で銀を繰り出す指し方が、中飛車にとって厄介な作戦です。もし、△3四歩型であれば、5筋の歩を交換しやすい(角がぶつかりやすい、3四の歩を狙いやすいといった恩恵がある)のですが、△3三歩型では、そうもいきません。
第1図から▲5七銀→▲6六銀型を作ればすぐには潰されませんが、そうなると後手は高美濃に組んで、例の理想形を目指してきます。
という訳で、久保王将は▲6六歩△6四銀▲6七銀(青字は本譜の指し手)というマッチアップを選びました。以降は、互いに玉を美濃囲いの中に収めて、陣形整備に勤しみます。(第2図)
先手は▲6六歩を突いてしまうと、自分だけ角道が止まっているので面白くないように見えます。ですが、この場合は後手が早めに△6四銀型を作っているので話が違うのです。
具体的には、ここから▲6八角△8四飛▲7七桂と指すのが、後手の△6四銀型を逆手に取った構想です。(第3図)
次は、▲4六角→▲6五歩が先手の主たる狙いですね。そうなれば、「歩越し銀には歩で対抗」という格言通りの展開で、後手の作戦を咎めることが出来ています。
この久保王将が披露した構想は、左桂を使いやすい点が、最大の魅力です。桂交換になりやすいので、将来の▲2六桂も楽しみの一つでしょう。
急戦調の将棋になれば、先手の美濃囲いのほうが一路深い位置に場所に玉を配置しているので、互角以上に戦えることが期待できます。先手は持久戦にしないことが肝要ですね。
このように、中飛車側が工夫を見せてきたので、居飛車は左美濃を採用しても、以前ほどの優位性はありません。現環境では、先手中飛車は有力な作戦です。18局も指されていることが、それを裏付けていますね。
四間飛車
現状は、難敵が多い。
10局出現。その内、7局が後手番での採用。
ここ3ヶ月ほどの傾向としては、居飛車は、穴熊・ミレニアム・急戦のどれかを選ぶケースが多いですね。今回は、急戦の将棋にスポットを当てましょう。
急戦が増加傾向にある背景には、やはりelmo囲い急戦の出現が大きな影響を与えていると考えられます。(第4図)
2019.1.15 第32期竜王戦6組ランキング戦 ▲門倉啓太五段VS△本田奎四段戦から抜粋。
後手が△6四銀と上がったところです。
相手が7筋からの仕掛けを狙っているので、▲7八飛で備えるのは妥当ですが、居飛車はこの手を強要できるので簡単に手得ができるのは嬉しいポイントの一つです。
本田四段は、△7五歩と突いて、颯爽と仕掛けていきました。6一の金を引き締めていないことが気懸かりですが、これには理由があります。(第5図)
門倉五段は、後手の銀を前進させないために▲6八角と引きましたが、△8六歩▲同角△7六歩▲同飛△8八歩とシンプルに8筋を攻めたのが、先手の虚を突いた手順でした。(第6図)
こういった攻め方は、振り飛車の角桂の捌きを助長する嫌いがあるので、なかなかお目にかかれないのですが、本局においては△6一金型が7筋を守っているので、立派に成立しています。
本譜は、第6図から▲6五歩△5三銀引▲7七桂△8九歩成▲7四歩で7筋からの攻めを試みましたが、△6二金がしっかりした受けで、後手は痛痒を感じません。以降は、と金攻めを間に合わせた居飛車が快勝しました。これは、△6一金型の工夫が光った将棋でしたね。
ちなみに、elmo囲い急戦には、▲6七金型で対抗するのが有力と前回に記述しました。詳細は、こちらをご覧ください。最新戦法の事情(2019年1月・振り飛車編)
ですが、四間飛車は戦法の構造上、6七には銀を配置しなければいけません。つまり、三間飛車と比較したときに、それよりも悪い条件で戦うことを余儀なくされているのです。
他にも、前回に記したミレニアムへの対策も、まだ不十分な状況です。現環境で四間飛車は厄介な敵が多く、苦戦気味と言えます。
三間飛車
現環境では、安牌。
10局出現。先手中飛車が増加した煽りを受け、先手番で採用するケースが微減しました。とは言え、先手振り飛車の有力な選択肢の一つだと考えています。
居飛車が穴熊を志向した際には、石田流やトマホークなどで足早に動く作戦がスタンダードであることは、今までと特に変わりません。
先月から大きな変化はなく、現状は可もなく不可もなくと言ったところでしょう。
角交換振り飛車
△3三銀型に鉱脈あり?
11局出現。その全てが後手番での将棋。以前から後手番で採用するケースが多かったことは確かですが、ここ最近はその傾向が、より顕著と言えます。
角交換振り飛車は、△4二飛・△3三角型のオープニングから、△3三桂型の駒組みを展開する指し方が、一番人気でした。しかし、その指し方に危険信号が灯っていることは、前回に記載した通りですね。
という訳で、△3三銀型に組むパターンが増えつつあります。その中に、こんな斬新な構想を披露した将棋もありました。(第7図)
2019.1.25 第50期新人王戦トーナメント戦 ▲斎藤明日斗四段VS△黒沢怜生五段戦から抜粋。
ここで△3二飛と寄れば、後手は4→3戦法と呼ばれる作戦になりますが、黒沢五段は、それとは違う道を歩みます。ここから△4四歩が、意表の一手でした。(第8図)
この手は、立石流に組むことが狙いです。つまり、ここから△4五歩→△3三銀→△3二金→△4四飛→△3四飛という手順を踏むことが、後手にとっての理想ですね。
立石流に対して居飛車側は、△4四飛と浮かれないように、どこかで▲7七角を打って牽制するのが対抗策の一つなのですが、先手は▲7七銀で矢倉の骨格を作ってしまっているので、それが実行できません。そこが、後手の付け目なのです。
このまま漠然と駒組みを進めると、後手の立石流が阻止できないと見て、斎藤四段は第8図から▲2四歩△同歩▲同飛と動きましたが、△3一金が習いある受けの手筋ですね。(第9図)
後手の狙いは、△3三銀から△2二飛で飛車交換を迫ること。飛車交換になれば、先手は2筋がガラ明きなので、どちらに分のある取引なのかは、火を見るよりも明らかでしょう。
第9図は、後手のほうが今後の方針が分かりやすいので、振り飛車まずまずの局面ではないかと思います。
この将棋に代表されるように、現環境の角交換振り飛車は、△4二飛・△3三角型のオープニングでは無い将棋に鉱脈を探しています。今後も、どのような構想が登場するのか楽しみですね。
その他・相振り飛車
相振りは、三間飛車が人気。
13局出現。その内、相振り飛車は4局です。
現代相振り飛車は、先後を問わず、三間飛車の支持率が高いです。1月に指された相振り飛車は、全ての将棋でどちらかが三間を選んでいます。もちろん、双方、三間飛車を選んだ将棋もありました。(第10図)
2019.1.12 第32期竜王戦6組ランキング戦 ▲西山朋佳女王VS△山本博志四段戦から抜粋。
なぜ、三間飛車が人気なのかというと、機動性が抜群だからです。この将棋は、その性質が特に際立っていました。百聞は一見に如かず。とにかく、本譜の進行をご覧いただきましょう。
第10図から山本四段は、△3四飛▲7六歩△3三桂で石田流の構えを作ります。次に△8四飛があるので、西山女王は▲8六歩△6二玉▲8五歩で、それを受けつつ、8筋を攻める準備を進めました。(第11図)
さて。先手は次に、▲6六角→▲8八飛という要領で、攻めの形を作る腹積もりです。なので、後手はそれに備えて美濃囲いか金無双へ組むことを考えるのが自然です……が、山本四段は「機動性」を最大限に活かす手順を選びました。
まずは、△3六歩▲同歩△同飛で手損を厭わず歩を交換します。西山女王は、当初の予定通り▲6六角と上がりましたが、△4五桂がまさに現代調の一着で、後手が機先を制しました。(第12図)
ここから▲2二角成△同銀までは必然ですが、その局面は、次の△5五角や△3八角が受けづらいので、後手の仕掛けは成功しています。機敏に動いた後手の決断が、功を奏しました。
これは極端な例ではありましたが、ご覧の通り三間飛車は、3筋の歩を動かすだけで、飛・角・桂の飛び道具をぶん回すことが出来るのが大きく、それが機動力の高さに繋がっているという訳なのです。
相振り飛車の世界でも、先攻重視という傾向は同じですね。
プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!
参考 【豪華版】最新戦法の事情(2019年2月 振り飛車編)
こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!
今回のまとめと展望
・先手中飛車が左美濃アレルギーを克服しつつあるので、先手番の振り飛車は苦労が少なくなった。また、後手振り飛車は、四間飛車がイマイチなので、角交換振り飛車に流れつつある。
・先後に関わらず、三間飛車は無難な選択だ。相振り飛車にも対応できるので、振り飛車党にとって、現環境では必修科目と言える。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!
四間飛車vsエルモ囲い急戦ですが、左金を左側、7筋に動かして飛車を下段に引いて中飛車にすれば逆に振り飛車側がよいのではないのかなと藤井先生の本を見つつ思いました
本家藤井センセイに誰か仕掛けてほしいですねえ
はじめまして。
第77期順位戦C級1組7回戦の▲増田康宏六段VS△藤井聡太七段戦の将棋で、振り飛車側がそのような構えを取っていますね。ご覧になられてみては如何でしょうか。
個人的には、居飛車側も互角以上に戦えるように思います。