最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年1月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。Googleアシスタントに無茶ぶりをするのが趣味の一つなのですが、「十二面体サイコロ振って」と言ったら意気揚々に応えてきたのは意外でした。一体、誰得なんだ笑

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(12月・振り飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.12/1~12/31)

 

調査対象局は74局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

先手中飛車

左美濃対策が急務。


15局出現。居飛車の対策は、まだら模様ではあるものの、やはり左美濃と△6四銀型を掛け合わす作戦がキーマンで、これにどう応じていくのかが中飛車の課題です。

 

この戦型は、前回にも記したように、居飛車は仮想図のような局面を作ることが理想なので、こうなってしまうと中飛車側が不満です。

しかし、その定説に挑戦した将棋が出現しました。(第1図)

 

最新戦法の事情

2018.12.6 第67期王座戦一次予選 ▲杉本和陽四段VS△増田康宏六段戦から抜粋。

後手が△4三金と上がったところ。こうなると、仮想図の局面へ誘導できることが目に見えているので、居飛車としては不満が無いところです。

 

ですが、杉本四段は▲7八飛△3三角▲5八金左(青字は本譜の指し手)から陣形整備を進めていきます。そして、第2図の局面を迎えました。

 

ここに至るまでのポイントとは、先手が▲7八飛→▲5九角と指し、▲7五歩を見せることによって、後手に△7二飛を強要させていることです。

それによって8五の歩が浮くので、▲7七桂△3二金▲8五桂と左辺から動くことが出来ました。これが先手の構想だったのです。

 

しかしながら、そこから△2五歩▲3七桂△2四角と盛り上がったのが銀冠の厚みを活かした手順で、居飛車が作戦勝ちになりました。(第3図)

 

後手には△3五歩から一歩を入手して、△8四歩で桂を取るという明確なビジョンがあるのに対し、先手は目標が見えにくく、指す手が難しい印象を受けます。

第3図は、先手が一歩得であるものの、相手にだけ銀冠に組まれていることや、攻め駒が前に進みにくいという懸念があるので、先手の作戦は失敗気味と言えるでしょう。

 

やはり、中飛車側は仮想図のような進行になると思わしくないので、その前に工夫を凝らす必要があると言えます。現環境は、やはり左美濃が強敵ですね。

 

 

四間飛車

ミレニアムが厄介。


13局出現。その内、8局が後手番で指された将棋です。後手での支持率が高いという傾向は先月と同様ですね。

対する居飛車の対策ですが、相穴熊以外の将棋で、穴熊に囲った将棋は2局のみ。では、代わりに何が注目されているのかというと……例のあれですね。(第4図)

 

2018.12.13 第77期順位戦C級2組8回戦 ▲三枚堂達也六段VS△中村亮介六段戦から抜粋。

そう。ミレニアムです。ミレニアムがなぜ再燃しているのかは、こちらの記事をご覧ください。

団体戦プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(11月・振り飛車編)

 

第4図は、後手が5筋の歩を伸ばして、△5五歩を狙いにしたところです。先手はそれを直接的には防げないので対処が難しく見えますが、ここで▲4八角と引いた手が意表の一着でした。(第5図)

 

これは、「次に▲3七角と上がって、▲6五桂を跳ねますよ」という意図なのですが、ご覧の通り4筋がノーガードなので、すこぶる大胆な指し方です。

 

後手としてはこんな図々しい手を通す訳にはいかないので、本譜は△4六歩▲同歩△同飛と指しましたが、▲6五桂△4七飛成▲7三桂成△同銀▲2四歩△同歩▲2二歩激しく攻め合って先手が指せる局面です。(第6図)

 

後手は駒損を避けるために△2二同角と取りたいのですが、▲2四飛と走られてしまいますね。後手は囲いが乱れているので、先手の飛車には侵入されたくないところです。

 

四間飛車にとって、4筋に飛車を成り込むのは理想的な展開の一つですが、それを実現しても形勢が良くならないということが、ミレニアムの優秀性を証明していると言えるでしょう。

 

現環境は、ミレニアムに対して、これと言った対策が無く、居飛車の旗色が良い状況です。四間飛車は課題を突き付けられています。

 

 

三間飛車

elmo囲い急戦には、金の力で対抗する。


14局出現。その内、7局が石田流を目指す将棋で、高い人気を誇っています。特に、先手番で石田流に組む将棋になれば、三間飛車は積極的に攻める展開に持ち込みやすいので面白い作戦と言えるでしょう。

ただ、12月の記事にも記したとおり、先手三間にはelmo囲い急戦が強敵でした。

 

しかし、それに対抗する構想を披露した将棋が登場します。(第7図)

 

2018.12.18 第77期順位戦C級1組8回戦 ▲高崎一生六段VS△安用寺孝功六段戦から抜粋。

後手が△9四歩と指したところです。これは、将来、▲9五角と飛び出す含みを消しつつ様子を見た意味があります。おそらく、ここで▲6七銀なら△6四歩→△6五歩と仕掛ける将棋にするつもりだったのでしょう。

 

ところが、先手の次の一手により、後手の思惑は外れます。ここで▲6七金が機転の利いた一着でした。(第8図)

 

囲いが薄くなってしまいますが、それよりも金の力で7筋を強化することが大事だと見た一手です。

本譜はここから△6四歩▲5七銀△5三銀右▲4六銀と進みましたが、この組み上がりは先手不満無しという印象を受けます。(第9図)

 

理由は二つあります。一つは、△6五歩からの仕掛けを無効化していること。もう一つは、▲4五銀や、▲5八飛→▲5五歩といった手段で先手から動ける態勢を作っていることです。特に後者の理由が大きいですね。

 

本譜は、先手からの仕掛けを嫌い、後手は△4四銀と上がる手を指す羽目になったのですが、そうなると2二の角が使えないので、居飛車が苦労する将棋になってしまいました。

 

このように、elom囲い急戦に対して▲6七金型で迎え撃つのは、一つのアイデアですね。汎用性が高いので、今後は主流の対策になる可能性も秘めているのではないでしょうか。

 

 

角交換振り飛車

思わぬ刺客が現れる。


14局出現。その内、6局が△4二飛・△3三角型のオープニングで、相変わらず高い人気を誇っています。

しかし、その作戦を根底から揺るがす対策が出現しました。(第10図)

 

2018.12.5 第77期順位戦A級6回戦 ▲阿久津主税八段VS△久保利明王将戦から抜粋。

序盤も間もない局面ですが、ここから▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲2三角が意欲的な指し方です。(第11図)

 

▲3四角成は許せないので、本譜は△2五角と指しましたが、▲同飛△同歩▲3四角成△3二金▲3六歩△2二銀▲3五歩と進んだ局面は、早くも先手が一本取っています。(第12図)

 

先手には、「馬を移動して、▲3四歩を突く」という明確な目的がありますが、後手はそれを防ぐ術がありません。その上、4二の飛が使いにくいことも懸念材料ですね。以上の理由により、第12図は先手が有利と言えるでしょう。

 

角交換振り飛車の中でも、△4二飛・△3三角型は最も有力とされている作戦ですが、思わぬ刺客が出現してしまいました。現環境は、振り飛車側に課題が残っています。

 

 

その他・相振り飛車

普通が一番?


18局出現。なお、相振り飛車は僅か2局のみ。これは、対抗形の将棋で居飛車側を持ちたいと考えているプレイヤーが増加していることを暗に示しており、この傾向は11月頃から続いています。

 

他の16局のうち、もっとも多く指された振り飛車はゴキゲン中飛車(4局)ですが、相変わらず苦戦を強いられている状況は変わりません。

 

他にも、風変りな作戦を披露した将棋はあるものの、実りあるものになったかと問われると肯定はしにくい印象でした。やはり普通が一番ということでしょうか。


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと詳しく知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 【豪華版】最新戦法の事情(2019年1月 振り飛車編)

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今回のまとめと展望

 

・先手振り飛車は、三間飛車が最も安定感がありそうか。後手振り飛車は四間飛車と角交換振り飛車が有力株だったが、現環境ではやや苦しく、閉塞感がある。

 

 

・居飛車は角道を止める振り飛車に対して、一昔前までは判を押したように穴熊ばかり採用していたが、ここ最近はその傾向が薄く、特に今回はそれが顕著だった。居飛車は「脱・穴熊化」しつつある。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

 



2 COMMENTS

はまずし

この三間飛車の構えは三間飛車名局集に載ってる棋譜で大野源一九段などがよく指してましたね。当時のことはよく知らないですが昭和の香りがして味があっていいですね。

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あらきっぺ

はじめまして。

そうなんですか! それは初めて知りました。まさに温故知新ですね。

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