最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年4~5月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。以前、Twitterでも申し述べたように、今回は4月と5月の合併版です。

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。最新戦法の事情(2019年3月・振り飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2019.3/1~4/30)

 

調査対象局は88局。ちなみに3月は62局で、4月は26局です。4月で対局数がガタ落ちしているのは、順位戦が無く、そもそも母数が少ないという背景があります。

それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

先手中飛車

現環境は中飛車不満無し。


25局出現。3月に17局。4月に8局。出現率は約28%と抜きん出た数字を叩き出しており、現環境では最も信頼度の高い振り飛車と言えます。

 

ただ、前回にも触れたように中飛車側は左美濃に手を焼いています。これを打ち破ることが中飛車側の最優先事項と言えますね。(第1図)

 

2019.3.8 第90期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲橋本崇載八段VS△深浦康市九段戦から抜粋。

ここまでは類例も含めて前例が多くある局面ですね。前回にも述べたように、基本的に居飛車は

▲5五歩型の場合→△7三銀型

 

▲5六歩型の場合→△7三桂型

という公式に則って駒組みを展開します。

 

これを踏まえると、中飛車側はまだ▲5五歩を突きたくないことが分かります。そこで橋本八段は、▲6六歩(青字は本譜の指し手)と指しました。(第2図)

 

最新戦法

このタイミングで▲6六歩と突くのは珍しいのですが、これは△7三桂型を警戒した意味があります。

つまり、ここで△7三桂なら▲6七銀△6四歩▲7八金と備えておけば後手からの仕掛けはありません。▲5七銀型ではないので△6五歩を突かれないことが大きいですね。

 

なので、第2図から深浦九段は△3四歩でさらに様子を見ましたが、そこで▲5五歩を突いたのが上手い呼吸でした。(第3図)

 

最新戦法

[▲5五歩型には△7三銀]という公式がありますが、ここで△7三銀と指しても▲6七銀△6四銀▲6五歩△同銀▲6八角で銀バサミが完成しています。よって、後手は△7三銀が指せません。

 

しかし、そうなると先手は特に不自由もなく▲6七銀→▲5六銀で好形を作れるので、満足の行く序盤戦が期待できますね。

 

このように、後手は早めに△7四歩を突いても攻めの形を作れる訳ではありません。そこで、新たに工夫を見せます。(第4図)

 

最新戦法

2019.3.21 第45期棋王戦予選 ▲佐々木慎六段VS△村山慈明七段戦から抜粋。

先に△3四歩を突いたことが第1図との違いですね。

ここで▲6六歩を指すと△5四歩と突かれてしまい、先手は5筋の位が取れません。そうなると▲5六銀型が作れないので不満です。

 

したがって、ここで▲5五歩を指すのは絶対手。これを見て△7三銀型の将棋を目指すことが△3四歩の意図です。

ただ、早めに△3四歩を突くと▲5四歩を突かれやすくなる弊害がある(角交換や横歩を取られる筋が発生する)ので、△4四歩を指す必要が出てきます。(第5図)

 

最新戦法

要するに、居飛車は△3四歩を突けば▲5五歩を強要できるものの、△3四歩と△4四歩はセットなので、攻めの形を作るのに遅れが生じます。

中飛車側としてはそのデメリットを咎めない手はありません。佐々木六段は▲5七銀△7四歩▲5六銀△7三銀▲6五銀と素早く銀を繰り出していきました。これが機敏な対応です。(第6図)

 

最新戦法

こうなると、後手の立ち遅れを咎めている印象を受けませんか? 中飛車側が▲3八銀を保留して攻めの形を優先する工夫が生きていることも見逃せません。

無論、第6図はこれからの将棋だとは思いますが、少なくとも中飛車側に不満は感じられない将棋という感はありますね。

 

二例、中飛車側の工夫を紹介しました。どちらの将棋にも共通していることは、最終的には銀を5六に配置する展開を目指していることです。やはり、[▲6六銀⇔△6四銀]という銀対抗の形になると角の働きが不自由なので振り飛車が面白くないのでしょう。

 

現環境は、左美濃に対して五分以上に戦えているので、先手中飛車が有力な作戦だと思います。対局数の多さにも頷けるものがありますね。

 

 

四間飛車

強敵が多すぎて苦労が絶えない。


11局出現。3月に7局。4月に4局。

今回の期間では、居飛車が穴熊を志向するケースが目立ちました。特に注目を集めているのは、端歩を受けるタイプの穴熊です。(第7図)

 

最新戦法

2019.4.21放映 第68回NHK杯1回戦第3局 ▲増田康宏六段VS△西田拓也四段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

穴熊に組む際には早めに金銀をくっつけたいので、従来は端の位を取らせることが相場でした。しかし、最近は欲張って端の均衡を保つ指し方が有力視されているのです。

第7図は互いに自然な駒組みではありますが、こうなると囲いの堅さに差があるので居飛車十分。本譜は▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲6五歩から颯爽と仕掛けて先手がペースを掴みました。

 

なお、本局は第7図に至るまでにも増田六段が斬新な工夫を見せています。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
第69回NHK杯 増田康宏六段VS西田拓也四段戦の解説記

 

このように、居飛車は端の位を取らせないことと穴熊の完成を両立してしまえば作戦勝ちが期待できます。問題は、藤井システムのような戦いになったときに、相手の攻めを耐えきれるかどうかですね。(第8図)

 

最新戦法

2019.4.8 第45期棋王戦予選 ▲増田康宏六段VS△窪田義行七段戦から抜粋。

先手が▲9八香と上がって穴熊を宣言したところ。

ここから窪田七段は△8五桂▲6八角△6五歩で先攻しました。角のラインを活かした攻撃で、先手は駒組みの立ち遅れを突かれているように見えます。(途中図)

 

最新戦法

しかしながら、ここで▲7八玉が臨機応変な対応。後手は△5四銀で力を溜めますが、▲8八銀と上がっておけば先手陣はびくともしないのです。(第9図)

 

最新戦法

もし、9筋の配置が[△9五歩・▲9七歩型]であれば、後手は▲8六歩で桂を取りに来られても△9七桂成から攻め駒を調達できるので、あの桂が犬死にすることはありません。ですが、第9図ではそのような措置が取れないので攻めの継続が困難なのです。

 

このように、居飛車は▲9六歩と端歩を受けても穴熊に組めてしまうことが分かりました。それはすなわち、端歩を詰めさせる道理が無いことを意味します。

 

四間飛車にとって厄介なのは、現在、居飛車の主力となっているミレニアムやelmo囲い急戦も、端の位を受ける指し方で問題ないということです。つまり、四間飛車は相手がどの作戦であろうと△9四歩には▲9六歩と対応されてしまうので、端の位を取る展開にならないのです。

 

現環境は、端の位が取れないと主張の乏しい作戦になっており、四間飛車は苦戦を強いられています。居飛車党のプレイヤーにとっては良い風向きですね。

 

 

三間飛車

elmo囲い急戦が手強い。


15局出現。3月は8局。4月は7局。コンスタントに指されており、支持を集めていることが窺えます。

対する居飛車の作戦もまばらで、穴熊や5筋位取りなどバラエティー豊かです。ただ、中でも注目の将棋はelmo囲い急戦の将棋ですね。(第10図)

 

最新戦法

2019.2.15 第32期竜王戦4組ランキング戦 ▲黒沢怜生五段VS△及川拓馬六段戦から抜粋。

elmo囲い急戦には▲6七金型で対抗するのが有力な手法と見られています。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2019年1月・振り飛車編)

 

しかし、及川六段はここから面白い構想を展開して▲6七金型を攻略します。まずは本譜の進行をなぞりましょう。第10図から△6四歩▲4六銀△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7四飛▲5八飛△7三桂と進みました。(第11図)

 

最新戦法

注目して頂きたいのは、△6二銀型のまま駒組みを進めていること。この場合は低く構えておくほうが好都合なのです。理由は後述します。

 

先手は中飛車に振り直して▲5五歩△同歩▲同銀と先攻しましたが、△7八歩がその動きを逆用したカウンターで、後手が機先を制しました。(第12図)

 

この歩を取ると5五の銀がタダですね。また、▲6八角と引くようでは角の働きが悪く不満です。

このような展開になると、後手は△6二銀型に留めている利点が発揮されています。先手は▲5四歩と押さえても狙いが無く、暖簾に腕押しという印象は拭えません。相手の構えが低すぎて、パンチが当たらないのです。

 

elmo囲い急戦には▲6七金型に組んで5筋から動くのが一つの対抗策でしたが、そのプランが通用しなくなってしまいました。三間飛車にとっては、新たな策が必要と言えるでしょう。

 

 

角交換振り飛車

普通に組んでいると冴えない。


19局出現。3月は15局。4月は4局。

後手番での採用が15局もあり、増加傾向にあります。これは、後手四間飛車が苦戦していることと相関があると推察されます。

 

ただ、現環境の角交換振り飛車は、自然に組んでいると芳しくない局面になりがちです。(第13図)

 

最新戦法

2019.3.7 第77期順位戦C級2組11回戦 ▲梶浦宏孝四段VS△田中悠一五段戦から抜粋。

一般的に角交換振り飛車は、美濃か穴熊に囲うことがフォーマルな指し方です。これは穴熊を選んだ将棋ですね。

 

しかし、第13図のように地下鉄飛車を含みに指されると、振り飛車側は面白くありません。このあと居飛車は▲7七桂→▲9八香→▲9九飛から9筋に集中砲火を浴びせてきますが、それを防ぐ術が無いからです。実戦もそれが実現して先手が快勝。

 

では、美濃囲い系の将棋はどうでしょうか。(第14図)

 

最新戦法

2019.3.20 第32期竜王戦2組ランキング戦 ▲佐藤天彦名人VS△藤井猛九段戦から抜粋。

美濃囲い系統の将棋には、銀冠が優秀な作戦です。居飛車は手得というベネフィットを堅固な囲いに変換できることが魅力です。

 

このような将棋になると、先手がどのように打開するのかが焦点の一つと言えますね。本譜は▲4五銀△6六角▲同歩△5五歩▲2四歩△同歩▲3一角と進みました。(第15図)

 

最新戦法

△3二飛で角は死んでいますが、▲5三角成△同金▲2四飛△2二歩▲2三歩で2筋を突破できますね。振り飛車側としては、こんな単調な攻めで打開されてしまうようではやるせないところでしょう。やはり玉型の差が響いてしまうのです。

 

このように、現環境の角交換振り飛車は何かしら趣向を凝らさないと作戦負けを招きやすい傾向があります。そこで、上記の将棋とは全く違う指し方を披露した将棋が現れました。それについては、豪華版のほうに記します。

 

 

その他・相振り飛車

3手目▲6六歩は現代的ではない。


18局出現。3月に15局。ただ、4月は3局と数字が落ち込みました。理由はよく分かりません。シンプルに母数が減ったからでしょうか。

今回は、相振り飛車の[▲向飛車VS△三間飛車]の将棋を取り上げます。(第16図)

 

2019.3.26 第32期竜王戦4組ランキング戦 ▲井上慶太九段VS△菅井竜也七段戦から抜粋。

この戦型では後手がどの場所で攻めの銀を使うのかがポイントの一つですが、最近は4五に配置するのが主流になりつつあります。なぜなら、ここに銀を置くことで、後手は攻め駒を効率が良くなるからです。

 

ひとまず、本譜の進行を見ていきましょう。先手は▲3八玉から金無双に組むのが自然ですね。対して、後手は△4四角→△3三桂→△1四歩……という要領で弾を詰め込んでいきます。(第17図)

 

第16図から10手後の局面です。互いに立派な構えですが、後手の大駒のほうが相手の囲いを攻めやすい場所に配置できていますね。4五に進んだ銀が大駒を安定させていることが分かります。

 

先手は▲2六歩と突きたいところですが、現状では角が利いているので実現不可です。本譜は代案として、▲7四歩△同歩▲8五飛と懸案の銀に働き掛けましたが、△3五飛と紐を付けておけば問題ありません。(第18図)

 

飛車を3五に呼び寄せたことで▲2六歩が指せるようにはなりましたが、端に殺到できるので後手の攻めは繋がります。第18図は攻め駒の効率に差があるので後手良しでしょう。

 

3手目に▲6六歩と突く相振り飛車は昔から指されている将棋ですが、どうしても角が使いにくい展開になりやすく、受け身になってしまいがちです。平凡に指していると後手のほうがスピーディーに敵陣を攻めることが出来るので、先手は工夫が必要ですね。

 


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 【豪華版】最新戦法の事情(2019年4~5月 振り飛車編)

こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!

 

 


今回のまとめと展望

 

先手中飛車は復活傾向にある。ただ、他の振り飛車は軒並み課題があり、なかなか難しい状況だ。特に後手四間飛車は苦労が多い。

 

 

・居飛車は従来よりも端歩を気軽に受けやすくなった。これにより、角道を止める振り飛車のバリューが落ちている印象を受ける。穴熊に組んでも平気な顔で端歩を突いてくるので、振り飛車側はなかなか端の位を取れる展開にならない。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!



2 COMMENTS

Sun_say

プロ将棋界は、渡辺棋王以外は、挑戦者がタイトル奪取するという一年でした。
あらきっぺサン良ければ、今後の展望予想をお聞かせ願いますm(__)m

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あらきっぺ

あまりプレイヤーに注目して将棋を観戦しないものでして…。

ただ、有望な棋士が多いので誰がご活躍しても不思議ではない情勢だとは感じています。それが今の将棋界の魅力の一つではないでしょうか。

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