どうも、あらきっぺです。そろそろ、コタツは押入れに片付けても良い季節と思いつつ、目にすると思わず入ってしまう今日のこの頃です。
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。最新戦法の事情(2019年2月・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2019.2/1~2/28)
調査対象局は57局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
先手中飛車
支持率が下落している。
8局出現。1月と比較すると10局も減ってしまいました。その一因は、やはり左美濃です。
1月は先手が練った数々の対策が功を奏していましたが、2月は居飛車がそれに適応した指し方を繰り出してきたのです。(第1図)
2019.2.6 第77期順位戦B級2組9回戦 ▲戸辺誠七段VS△村山慈明七段戦から抜粋。
図に見られるように、あえて▲5五歩を突かない駒組みが先手の工夫点です。また、▲1八香を上がっていることから穴熊に組もうとしていますね。
この構想の理想とする展開は、以下の記事に詳しく載っています。
参考
【豪華版】最新戦法の事情(2019年1月 振り飛車編)
ところが、居飛車の次の一手が先手の駒組みを咎める一着になりました。それが、△7三桂(青字は本譜の指し手)です。(第2図)
この桂跳ねは、▲5六歩型だから成立する一着です。もし、先手が▲5五歩型であれば、▲5六銀と上がれるので効果は乏しいですね。しかし、第2図では銀を直進できないので、先手はしっくり来る受け方がありません。
自然な手は(1)▲6六歩ですが、角道が止まる上に、△6四歩→△6五歩という攻め筋を誘発するので、味は良くありません。
本譜は(2)▲6六銀を選びましたが、△6四歩▲1九玉△3四歩と進んだ局面は、先手の銀が圧迫されている印象を受けます。(第3図)
先手中飛車と▲6六銀型は相性の良い組み合わせですが、この局面に於いては「歩越し銀には歩で対抗」という配置になっているので、どうも活用する手段が難しく見えます。
後手は6六の銀を追い返せる未来が見えているので、持久戦に持ち込めば自然と作戦勝ちが見えてきます。中飛車側が攻めの形を上手く作れていないので、居飛車不満無しですね。
実は、この「▲5六歩型の場合は△7三桂と跳ねる」という駒組みは、昨年の1月の時点で既に出現している手法でもあります。詳しくは、こちらの記事をどうぞ。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(2月・振り飛車編)
ただ、ここ数ヶ月は居飛車が△6四銀型に組む将棋にこだわっていたので、あまり日の目を見ない指し方になっていました。一周回って、優秀性が改めて認知されたといったところでしょうか。特に、下記の将棋はこの作戦が炸裂した好例ですね。
~駒は取られる瞬間に光り輝く~ 第68回NHK杯解説記 黒沢怜生五段VS三枚堂達也六段
要するに、居飛車目線としては△3三歩型の左美濃を作って、
▲5五歩型の場合→△7三銀型
▲5六歩型の場合→△7三桂型
このように使い分ければ、不満なく戦えることが期待できます。
現環境は、この二刀流に対処できていないので、先手中飛車は支持率が下がっています。風向きは良くないと言えるでしょう。
四間飛車
居飛車の工夫に対策が追い付いていない。
9局出現。その内、8局が後手番での採用で、後手振り飛車では人気の作戦です。しかし、成績は1勝7敗という惨憺たるもので、苦戦は否めません。
居飛車側は穴熊とミレニアムの二派に分かれており、四間飛車はこれらの作戦の対応に追われているのが実情です。今回は、ミレニアムにフォーカスします。(第4図)
2019.2.15 第32期竜王戦1組ランキング戦 ▲永瀬拓矢七段VS△久保利明王将戦から抜粋。
先手が▲5九銀と引いた手に対し、△3二飛と寄ったところ。後手はダイヤモンド美濃に組み、さらに石田流への組み替えを目指す非常に欲張りな作戦です。
ここから▲6八銀△3五歩▲1六歩のように、居飛車が悠長な手を指していると、△6五歩▲5七角△4二角で、振り飛車は好形を築くことが出来ます。これは後手の言い分が通っている印象ですね。(仮想図)
しかし、そうは問屋が卸しません。第4図から▲3六歩と突いたのが機敏な一着です。(第5図)
後手は、このまま局面が落ち着くと何のために△3二飛と寄ったのか分からないので、本譜は△3五歩▲同歩△6五歩▲5七角△4二角と動いていきましたが、堂々と▲6八銀と上がった手が明るい大局観でした。(第6図)
△6四角と覗かれても、あっさり▲2六飛で問題ありません。香を取られても2筋を突破できるリターンのほうが大きいからです。
ミレニアムは穴熊や左美濃と違い、常に角道を開通していることが自慢で、その特色に四間飛車側は手を焼いています。相手が堅く、かつ大駒の効率でも分が悪いようでは良い部分が見出せません。上記の将棋もそのような展開になってしまっています。
四間飛車は、居飛車の工夫に対策が追いついておらず、課題が山積みです。現環境は、居飛車優位と言えるでしょう。
三間飛車
先後を問わず、大人気。
16局出現。その内、先手番での登板が10局。先手中飛車を指していたプレイヤーが、お引越ししている感があります。
三間飛車には様々な組み方がありますが、石田流に組み変えるパターンが人気(8局)ですね。例えば、この将棋は三間飛車の理想と言えます。(第7図)
2019.2.20 第90期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲久保利明王将VS△斎藤慎太郎王座戦から抜粋。
このように、石田流と▲3七角型を両立することを実現すれば、攻撃力に富んだ駒組みを展開できるので、三間飛車は満足です。
なので、居飛車は[石田流+▲3七角]のフォーメーションを阻止するために、策を講じることが必須になります。一案として、以下の将棋を挙げます。(第8図)
2019.2.27 第45期棋王戦予選 ▲丸山忠久九段VS△山本博志四段戦から抜粋。
▲5七銀型に組んでいることが、第7図との大きな違いです。これによって、石田流を牽制している意味合いがあります。
つまり、ここで△3四飛と浮くと、▲4六銀→▲6八角という要領で、3四の飛を狙撃することが出来ますね。
このように、現環境は、先後に関わらず石田流を巡るやり取りが序盤の一つの勝負所になっています。この部分を制すれば振り飛車は主導権が握れるので、やり甲斐のある戦法という印象は受けますね。
角交換振り飛車
新構想を模索中。
11局出現。△4二飛・△3三角型のオープニングは僅か2局で大きく減少。やはり、速攻で馬を作ってくる変化を嫌っていると推察されます。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2019年1月・振り飛車編)
代わりに、△3三銀型の将棋が増加傾向にあります。ただ、この作戦は左桂が使いにくい側面があるので、振り飛車は漠然と組んでいると主張が見えにくい進行になりがちです。(第9図)
2019.2.13 第90期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲広瀬章人竜王VS△藤井猛九段戦から抜粋。
後手は、通称「レグスぺ」と呼ばれる作戦ですが、攻め筋が乏しいことが難点です。
対して、居飛車は自分だけ攻めの桂を活用できていますし、場合によっては地下鉄飛車に組む含みもあります。戦術の多様さが段違いなので、後手は大いに不満ですね。
このように、△3三銀型の角交換振り飛車は平凡に指していると、簡単に模様が悪くなってしまうのです。
という訳で、現環境は新機軸を探っている状態であり、あまり先月と変化がありませんでした。振り飛車としては、この戦法を指すからには、何らかのアイデアが必要と言えます。
その他・相振り飛車
特に動きはない。
13局出現。その内、正統な対抗形の将棋は6局。
変則的な将棋はあったものの、全体的には特に大きな動きは無かった感があります。奇策に走るなら、三間飛車を選ぶほうが無難ということですかね。
プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!
参考 【豪華版】最新戦法の事情(2019年3月 振り飛車編)
こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!
今回のまとめと展望
・先手中飛車と四間飛車の評価が低いので、振り飛車は三間飛車に人気が集まっている。ここが現環境に於ける対抗形のホットスポットだ。
・居飛車党のプレイヤーは持久戦を志向するなら、穴熊だけではなく、それ以外の囲いの持久戦を指せるようになっておくことが重要。特に、左美濃は汎用性が高い。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!