どうも、あらきっぺです。戻り梅雨ではありますが、夏を感じる季節になってきましたね。とはいえ、相変わらずホットコーヒーを飲み、寝るときは毛布にくるまっているのですが笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 振り飛車編(2022年4・5月合併号)
・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。
棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。
全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・記事の内容は、プロ公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。
・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。
・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。
目次
最新戦法の事情 振り飛車編
(2022.5/1~6/30)
調査対象局は107局。それでは、戦型ごとに解説していきましょう。
先手中飛車
下火になりつつある。
9局出現。出現率は8.4%。一時期は増加傾向にありましたが、ここ最近は再び下火になりつつあります。
先手中飛車は、後手超速に対する策が無いと採用できない戦法です。昨今では、▲6六銀型で対抗するのがポピュラーですね。これに対して居飛車は、以下の図の組み方をするのが最有力だと見られています。
こうして早めに銀を繰り出すのが、現環境で最強とみられている駒組みです。このあとは△4四銀→△7三桂を優先して、攻撃重視の姿勢を取ってきます。とにかくアグレッシブな作戦で、中飛車にとって厄介な相手ですね。
さて、これに対して振り飛車の方針は二つあります。一つは、自然に美濃囲いを作る▲3八銀。もう一つは、歩交換を優先する▲5四歩になります。
従来は、どちらのプランも振り飛車に戦える変化があり、振り飛車に不満がない印象でした。
しかしながら、現環境では両方とも居飛車の対策が整っており、振り飛車が苦戦しているのが実情です。それを証明するかのように、今回の期間では、振り飛車がこの変化に誘導した事例は一つもありませんでした。
なお、具体的に居飛車にどういった策を用意しているのかという点につきましては、以下の記事をご覧いただけますと幸いです。
【▲3八銀のときの対策】
【▲5四歩のときの対策】
そういった背景があるので、今回の期間で指された将棋では、この局面を迎える前に振り飛車側が変化し、違う形を選ぶケースが多数派となっています。ただ、内容としてはどれも上手くいっていないのが実情であり、後手超速に苦慮していることが窺えます。
また、そもそも先手のプレイヤーが先手中飛車を志向するときは、後手超速を指さないプレイヤーに対して選んでいる節もあります。どうも、後手超速に対して真っ向から立ち向かっている姿勢ではない気配を感じますね。
この局面は非常に頻出しやすい形の一つなので、これを避けようとすると駒組みがかなり歪んでしまうことになります。先手中飛車が下火になっているのは、そうした要素が理由と言えそうですね。
四間飛車
両天秤が手強い。
32局出現。そのうち20局が先手番での採用。先手番で多く指されているのは、先手中飛車が下火になっていることと相関がありそうですね。
居飛車は持久戦が多く、端歩突き穴熊を軸にした作戦が支持を集めています。特に、急戦と端歩突き穴熊を両天秤に構える指し方が人気ですね。
このように、早めに△7四歩を突くのが最近のトレンドです。こうして急戦をチラつかせることで、振り飛車の駒組みに制約を与えている意味があります。
振り飛車が急戦を警戒するなら、▲2八玉と指すことになります。ただ、あまりに早く玉を上がると、▲3六歩→▲3七桂→▲2五桂といった要領で桂を跳んでいく攻めが実行しにくくなる嫌いがあります。
それはつまり、居飛車に穴熊へ組まれやすくなってしまうことを意味しますね。
なので、この局面を迎えたとき、振り飛車は▲6七銀と上がる方が多数派です。▲3九玉型を維持しておけば、先述した攻め筋が気兼ねなく決行できるでしょう。
けれども、その場合は居飛車も方針を変えてきます。▲6七銀には△5五角が嫌らしい揺さぶり。現環境では、この手の支持が高まっていますね。(第1図)
これに対して、最も形良く受けるなら▲4七金ですね。ただ、そう指すと左辺の守りが手薄になるので、居飛車は△6四銀から急戦を仕掛けてきます。
そのとき、振り飛車は金が4七にいることがあまり得にはなりません。△6四銀右急戦に対しては本美濃囲いの方が堅いので、高美濃に組まされてしまうと都合が悪いのです。
それゆえ、プロ棋界ではここで▲4七金と上がる指し方は採用されておらず、▲4七銀で受けるケースが多いですね。
しかし、それも見るからに抵抗感がありますね。金を5八に置いておくことが必須とはいえ、美濃囲いの骨格を自ら崩すのは不自然な感は否めません。この揺さぶりは、振り飛車にとって非常に嫌らしい一着だと感じています。
このように、現環境の四間飛車は、急戦と穴熊を両天秤に構える指し方が一番の強敵です。居飛車は相手の応接を見て相性の良い作戦をぶつけることが出来るので、作戦の条件がとても良い印象を受けますね。
振り飛車としては、
(1)△5五角の揺さぶりに対応できる順を模索する。
(2)▲2八玉型で穴熊を攻略できる攻め筋を模索する。
このどちらかのルートで打開策を見出す必要があると考えます。現環境は、そういった情勢になっていますね。
三間飛車
持久戦にどう立ち向かうか。
35局出現。そのうち20局が先手番での採用でした。
居飛車は先後に関わらず持久戦が多く、急戦は僅か4局のみ。そして、石田組み換え型には左美濃、それ以外には端歩突き穴熊をぶつける傾向が強まっています。三間飛車への対策は、画一化されつつありますね。
三間飛車は石田流への組み換えを目指す指し方がポピュラーですが、現環境では左美濃が強力で、なかなかに苦労している印象を受けます。具体的には、以下の駒組みに手を焼いていますね。
このように、[△6二銀・△5四歩・△4三歩型]という配置で左美濃に組む作戦が、居飛車の有力策です。なお、この作戦の優秀性につきましては、以下の記事をご参照くださいませ。
そうした事情があるので、筆者は石田流組み換え型ではない作戦の方が、面白く戦えるのではないかと見ています。具体的には、▲4六歩型の三間ミレニアムに魅力を感じますね。
三間ミレニアムは▲4六銀型の方がポピュラーではありますが、こうして歩を伸ばす構想も大いに考えられます。手厚い構えを作るのであれば、こちらの方が適性が高いですね。
さて、ここから居飛車は△1二香で穴熊を目指します。対して、振り飛車は▲2九玉→▲3八金→▲4七金左でミレニアムを作ってから▲4五歩と動きましょう。こうして4筋の位を取りに行くのが面白い構想になります。(第2図)
居飛車は4筋の歩が取れないので、△3一金と囲いを完成するのが妥当でしょう。以下、▲4六銀△2四角▲4四歩△同銀▲4五歩△5三銀▲6五歩が進行の一例ですね。(第3図)
ここまで来ると、先手は真部流のような作戦になっています。ただ、それと比較すると玉が深い場所にいるので、▲2五桂→▲1五歩といった要領で攻めて行った際に反動が弱い利点があります。つまり、これは真部流の上位互換と言える作戦なのです。
この後は、▲2五桂と跳ねて端を攻めて行くのが楽しみです。歩切れの状態では端攻めは不可能ですが、振り飛車は5筋や7筋の歩をぶつけて行けば一歩を入手できる格好なので、歩が枯渇する展開を気にする必要はないでしょう。
この局面はまだまだこれからですが、振り飛車には「端を攻める」という分かりやすい方針があることが強みです。それを踏まえると、第3図は振り飛車まずまずの将棋という印象を受けますね。
それでは、話をまとめます。現環境の三間飛車は、持久戦が主戦場になっています。石田流への組み換えを目指す作戦は左美濃が優秀であり、これは居飛車の旗色がよさそうですね。振り飛車は、三間ミレニアムで勝負する方が面白いと言えるでしょう。
角交換振り飛車
あえて銀冠を崩す。
8局出現。相変わらず少ないですが、振り飛車党が投げる変化球としては有力な選択肢の一つと言えます。戦法そのものが廃れている訳では無いでしょう。
角交換振り飛車には様々な形がありますが、現環境で有力視されているのは、△3三銀型で徹底的に待機する指し方です。
図が示すように、高美濃の状態で待機策に出るのが後手番であることを活かした構想です。積極性には欠けますが、こうして隙を見せずに待っていれば打開が難しいだろうと踏んでいるのですね。
なお、ここに至るまでの詳しい解説につきましては、以下の記事をご参照くださると幸いです。
さて、この局面を迎えたとき、従来の居飛車は些か打開に苦心していた節がありました。ただ、今回の期間では新しい打開法を披露した将棋が登場したのです。それを解説していきましょう。
居飛車は美しい布陣を作っていますが、現状では争点が一つもないので仕掛ける手段がありません。ゆえに、攻めやすい状況を作るため、自陣を変形する必要があります。
手始めに、▲6八金寄△4二銀▲5八金と指します。(第4図)
振り飛車は△3三銀⇄△4二銀を繰り返して待つのが基本姿勢ですね。しかし、それを延々と繰り返していると、▲7八玉→▲6八玉→▲7八銀→▲8九飛と組み替えられた時に都合が悪い側面があります。(第5図)
こうして8筋に飛車を転戦するのが、先手の描いていた構想です。これを実現するために、わざわざ銀冠を崩していたのですね。▲8五歩から歩と桂を交換できる形になるので、もう千日手の懸念はありません。
左辺から攻める展開に持ち込めば、△3三銀⇄△4二銀の手待ちは全て無駄な手になってしまいます。ゆえに、これは振り飛車が避けなければいけない進行ですね。
振り飛車は相手が銀冠を崩して来たら、徹底待機策の姿勢を改める必要があります。例えば、△3三銀→△4四銀と繰り出して攻め味を見せるのが一案ですね。振り飛車はただ待っているだけでは作戦負けになってしまうので、相手の構想によって[待つ/動く]という姿勢を柔軟に切り替えることが大事です。それをきちんと意識すれば、互角に対抗できることでしょう。
その他・相振り飛車
注目株は、向飛車?
23局出現。なお、内訳は以下の通りです。
向飛車 4局
角道オープン向飛車 5局
角道オープン三間 2局
中飛車 1局
中飛車左玉系 2局
ゴキゲン中飛車 2局
その他 1局
相振り飛車 6局
こうしてみると、向飛車系統の将棋が多めに指されていることが目を引きますね。また、ゴキゲン中飛車はめっきりと少なくなり、もはや絶滅危惧種と言える戦法になりつつあります。
戦術面で言えば、特に目新しい工夫は見られず、大きな変化はなかった印象でした。
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今回のまとめと展望
【指される戦型が二極化している】
現環境は、先後に関わらず四間と三間ばかり指されています。出現率は、この二つだけで62.6%を占めており、主流戦法が完全に二極化しています。まるで、これ以外の戦法は振り飛車にあらずとでも言わんばかりですね。
振り飛車の将棋は相居飛車と違い、定跡が終盤まで確立させれているものはほぼありません。それでも、現環境ではかなり作戦の幅が狭くなっているように感じます。この辺りは、ソフトの影響が強いのかもしれません。
【振り飛車が真に恐れるものは急戦?】
先述したように、現環境では先手中飛車と四間飛車は苦戦しています。そして、この二つに共通していることは、急戦に手を焼いていることですね。
先手中飛車は中央に位を取って模様を張り、持久戦になったときの条件を高めている作戦です。反面、角頭の守りが手薄になりがちな嫌いはあります。
また、四間飛車で4筋の歩を突いたり左銀を早く上がるのは、どちらかと言えば持久戦になったときのことを想定したものです。こうした手を優先した方が敵陣を攻めやすくなるので、穴熊を相手にしたときなどは都合がよいですね。
ただ、これらの指し方は急戦のときに些か条件が悪く、現環境の居飛車はその問題点を徹底的に突いてきます。平成の時代では「堅さは正義」という価値観だったので、こうした急戦策はあまり評価されていない節もありました。けれども、今はそういう時代ではないのです。
いくら相手の囲いが薄いと言えども、システマティックに先攻され、そのまま形勢が悪くなっているようでは戦法として問題があると言わざるを得ません。振り飛車が真に恐れないといけないことは、急戦策ではないでしょうか。急戦に対して条件が悪い作戦は、淘汰されていくと考えます。ちょうど、矢倉のオープニングで▲6六歩が突けなくなったように。
それを踏まえると、三間飛車や向飛車は、居飛車から急戦されにくい性質があります。ゆえに持久戦系の将棋になりやすいですね。そうした展開から作戦勝ちを狙う方が、現環境では面白いように感じます。
ゆえに、これからは先手中飛車や四間飛車は減少し、三間飛車と向飛車が主流になっていくのではないでしょうか。これから対抗形の主戦場がどのように変遷していくのか、とても興味深いですね。
それでは、また。ご愛読くださり、ありがとうございました!
対四間飛車の55角のところで、55角以下47銀64銀56歩22角65歩77角成同桂53銀88飛という進行になると思うのですが、その場合後手はどういう方針で指せばいいのですか?
また、55角に代えて64銀ならどういう進行になりますか(あまり指されていないのは何故ですか)?
ブログをご覧くださり、ありがとうございます。
▲8八飛と回った局面からの後手の指し方ですが、やはり「急戦と穴熊の両天秤」という姿勢を貫くのが良いと思います。
例えば△3三角と打ち、(1)▲6八金なら△6四歩から動く。(2)▲6六角なら△同角▲同銀で形を乱したことに満足して△2二玉から穴熊を目指す。
といった方針が一案でしょうか。
また、△5五角に代えて△6四銀も有力ではありますが、敵陣の形を乱せる△5五角の方が、より魅力を感じる印象を受けます。単に△6四銀と上がるのは△5五角の下位互換と見られているように感じますね。