最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年3月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。お花見の季節ですね。ただ、東京はもう咲いているのに北海道の開花日が5月というのは、ちょっと驚きでした。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
最新戦法の事情(2019年2月・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2019.2/1~2/28)

 

調査対象局は75局。それでは、それぞれの戦型ごとに見て行きましょう。

 

角換わり

△9三歩型が有力。


21局出現。その内、17局が相腰掛け銀の将棋でした。

少し意外だったのは、基本形の将棋が2局しか指されなかったことです。これは、1月の記事で紹介した△4四歩から激しく斬り合う変化で、後手が自信が持てていないことが理由の一つだと考えています。その変化の詳細は、こちらをご覧ください。
最新戦法の事情(2019年1月・居飛車編)

 

では、後手は代わりにどのような形で戦っているのでしょうか。それは、△9三歩型です。(第1図)

 

最新戦法

2019.2.12 第69期大阪王将杯王将戦一次予選 ▲藤井聡太七段VS△池永天志四段戦から抜粋。

△9三歩型とは、上図のように9筋の端歩を詰めさせる指し方のことです。端の位を取らせるのは損ではありますが、その間に△4四歩と△3一玉の二手を指すことができることが後手の主張になります。

 

第1図の局面で注目していただきたいのは、[▲6七歩型・△4四歩型]という部分。この組み合わせは、後手のほうがダイレクトに桂を跳べるので先攻しやすい意味があります。すなわち、△7五歩▲同歩△6五桂(青字は本譜の指し手)という手順で仕掛けることが可能なのです。(第2図)

 

最新戦法

先手はこの早い桂跳ねを咎めたいので、▲6八銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛▲6六歩で桂を召し取りに向かいますが、そこで△3五歩が後手期待の攻め筋です。(第3図)

 

最新戦法

6・7筋周辺だけの攻防なら後手の攻めは頓挫していますが、3筋を絡めることで攻めの継続が可能になります。

そして、こういったときに△4四歩と△3一玉の二手が入っていることが非常に大きいですね。つまり、先手は桂が4五に移動できないですし、玉が低い位置にいることから3筋を突き捨てる弊害が少ないという訳です。

 

本譜は▲5八角と打って辛抱しましたが、ここに角を使ってくれるのなら後手は仕掛けた甲斐があったと言えるでしょう。以下、△7七歩から桂交換に持ち込んで、後手まずまずの進行です。

 

先手としては、▲9五歩型を活かすために▲8八玉型に組んで、玉の広さを主張するという作戦も考えられます。以下の将棋がそうですね。
NHK羽生~英断の銀不成~ 第68回NHK杯解説記 豊島将之二冠VS羽生善治九段

 

ただ、▲8八玉型に組むと▲4八金型との相性が良くない(玉と金が離れすぎている)意味もあるので、工夫が奏功したとは言い難い感はあります。

 

△9三歩型は先手番角換わりの劣化という印象はありますが、やはり先攻しやすいアドバンテージは過小評価できないので、なかなか有力な指し方ではないかと思います。先手が悪い訳ではありませんが、良くすることは大変ですね。

 

 

相掛かり

後手も目が慣れてきた。


16局出現。先手が▲5八玉型に構える将棋が過半数を超えており、(9局出現)1月からの流れを継いでいます。

 

▲5八玉型の中で最も積極的な作戦は▲8七歩を打たない指し方ですが、後手もそれに順応している動きを見せています。(第4図)

 

最新戦法

2019.2.2 第44期棋王戦五番勝負第1局 ▲広瀬章人竜王VS△渡辺明棋王戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手が▲3六歩と突いたところです。平凡に▲8七歩と打つ手も当然、一局ですが、この手はより良さを求めた一着ですね。この作戦の趣旨は、こちらの記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2019年2月・居飛車編)

 

さて。先手は後手が四段目に歩を動かすと、すかさず▲2四歩から横歩を取りに行く手を狙っています。そこで、後手は△8四飛▲3六歩△5二玉▲3七桂△6二金で、先手の歩交換を警戒する手法を取りました。(第5図)

 

最新戦法

飛車の横利きを通した状態で駒組みを進めていることが、後手の工夫です。△6三銀・△7三桂型を作るまでは、極力、争点を与えないようして戦いが起こらないように留意していることが、この指し方の意図ですね。

 

先手も歩調を合わせるように▲4八金と指しましたが、後手はいよいよ△6四歩と歩を四段目に伸ばします。以下、▲2四歩△同歩▲同飛△7四歩と進みました。(第6図)

 

最新戦法

飛車の横利きを二重に止めると、▲2四歩と合わせて横歩を取られる筋が発生します。ただ、先手の理想は歩交換をしたついでに横歩を取ることなので、それを実現されなければ問題ないという判断ですね。

 

このように、後手はきちんと組めば持久戦模様の将棋に持ち込むことが可能なので、速攻を志向している先手の趣旨とは違う展開に誘導することが出来ます。

 

現環境は、先手の工夫に後手の目が慣れてきた感があり、後手が適応している印象です。とは言え、先手が悪い理屈はどこにも無いので、一局の将棋になりやすい戦型と言えるでしょう。

 

 

矢倉

土居矢倉が面白い。


15局出現。大幅に増加しており、出現率は1月から6%→20%と3倍以上に膨れ上がりました。

 

現環境の先手矢倉で注目を浴びているのは、土居矢倉に組むバランス重視の作戦です。(第7図)

 

土居矢倉

2019.2.28 第44期棋王戦予選 ▲永瀬拓矢七段VS△及川拓馬六段戦から抜粋。

先手の囲いが「土居矢倉」と呼ばれるものですね。5・6年前までは玉を固める指し方が将棋界全体の主流だったので見向きもされなかった囲いでしたが、この一年ほどで評価が変わり、注目を集めつつあります。

 

この作戦は、角の使い方が肝です。大前提として、角交換になれば土居矢倉は作戦成功と言えます。それでは具体的な手順を見ていきましょう。

 

土居矢倉

土居矢倉は8筋が薄いので、後手は△8四銀と棒銀を繰り出してその弱点を突きに行きました。対して、▲4六角が相手の攻めを牽制する大事な一着です。(第8図)

 

土居矢倉

後手は△7三桂が自然な応接ですが、桂を跳ねさせたことで△7五歩が突きにくくなりました。これが▲4六角を利かした効果です。

以下、▲2九飛△4二角▲6八角△3一玉▲4六歩△6四歩▲4七銀△2二玉▲4五歩と進みましたが、こうなると後手の棒銀が色褪せた駒になっていますね。(第9図)

 

土居矢倉

長手数、進めて恐縮ですが、要するに後手が金矢倉に囲っている間に、先手は攻めの態勢を整えて先攻することに成功した訳です。

[土居矢倉VS金矢倉]という構図は、土居矢倉のほうが囲いに費やす手数が少ないので、必然的に金矢倉側は受け身になります。第9図は先手の理想とする展開の一つですね。

 

このように、後手は棒銀を繰り出しても8筋からガンガン攻める展開にはならないので、防御を固めて先手の仕掛けを封じる作戦を採用した将棋もありました。(第10図)

 

土居矢倉

2019.2.12 第32期竜王戦4組ランキング戦 ▲高見泰地叡王VS△千田翔太六段戦から抜粋。

後手の△5二銀型が奇異な配置ですが、これは6二の銀を5一から移動してきたものです。

相手の角が6四に居座っていると、先手は先程のような仕掛けができません。攻めの糸口を見出すのは難しそうですが、先手はスマートな構想で解を示します。

ここから▲5七角△8一飛▲3九角△2二玉▲1七角が巧みな角の活用でした。(第11図)

 

土居矢倉

角を1七に配置することで、▲3五歩から一歩交換ができるようになりましたね。3筋の歩が切れれば、▲3六銀と前進する含みも出てくるので先手が打開に苦労しなくなります。

後手は受けに徹した構えを取っていたので、敵陣を攻める態勢が作れていません。これも先手は先攻が期待できる将棋なので、ペースを握っていると言えるでしょう。

 

土居矢倉は、▲2五歩型が損になることなく戦える作戦です。矢倉に組み合う展開なら、先手の利を活かすことが出来るでしょう。

問題は後手が急戦に打って出たときですが、これに対する対処法は豪華版のほうで記しております。宜しければご覧ください。

 

 

雁木

4手目△4四歩タイプに光明ありか?


8局出現。その内、4手目△4四歩タイプの雁木が5局と興味深い数字が出ています。

この作戦は早繰り銀が強敵なので廃れ気味ではあったのですが、それに対して面白い対策が登場しました。(第12図)

 

2019.2.12 第90期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲橋本祟載八段VS△森下卓九段戦から抜粋。

この△7四歩が珍しい一着です。従来は平凡に△8四歩と指すことが多かったのですが、それでは飛車が攻めに起動するまで時間が掛かるので、早繰り銀の攻めに対処できない問題点がありました。

 

しかし、△7四歩はその問題点を改善している意味があります。つまり、ここで▲3七銀ならば△7五歩▲同歩△7二飛という要領で、素早く飛車を活用することが出来ますね。

 

袖飛車が有力な手法になることは稀なのですが、この場合は▲6八玉型の当たりが強いので条件が良いマッチアップという印象を受けます。雁木と袖飛車を組み合わせるのは目新しく、今後に注目ですね。

 

 

横歩取り

選択肢として優先順位が低い。


5局と少なめ。1月から5局減り、2月は下火でした。

これは4手目△4四歩の雁木が増加したことと、多少、相関があるように推察されます。(2手目△3四歩プレイヤーが流れた)

 

後手は横歩取り以外の戦型でも十分に戦えることができるので、現環境は横歩取りを選ぶ優先順位が低そうな風潮は感じます。わざわざ、青野流を受けて立つリスクを背負うことはないといったところでしょう。

 

 

その他の戦型

ウソ矢倉が多かったが……。


10局出現。ウソ矢倉系統の将棋が5局を占めています。矢倉が増加したことと呼応しているような印象ですね。

 

しかしながら、ウソ矢倉は急戦を仕掛けられたときに危うい面があることは否めません。(第13図)

 

2019.2.20 第67期王座戦二次予選 ▲山崎隆之八段VS△井上慶太九段戦から抜粋。

ウソ矢倉に対しては様々な急戦策がありますが、個人的には早繰り銀が一番、有力だと考えています。

ここに至るまでのポイントは、▲4六銀型を優先して作ることです。そうすることによって、△4二角と引いたときに▲3五歩と仕掛けることが可能になります。△4二角が引けなければ、後手は矢倉に組めませんね。

 

本譜は第13図から△5四歩▲7八玉△4二角と指して△6四角と覗く筋を見せましたが、先手は構わず▲3五歩と仕掛けていきます。(第14図)

 

後手に△3三銀と上がる余裕を与えないことが、この作戦の急所です。先手は守りを必要最小限にとどめることで、矢倉の構築を阻止することが出来ました。

後手は、△3五同歩▲同銀△6四角で反撃できればいいのですが、▲4六歩と突かれて上手くいきません。

 

第14図は、先手が一方的に攻撃できる展開なので、非常に勝ちやすい将棋になっていると判断できます。後手は矢倉にも組めず反撃する術も難しいので、不本意な将棋ですね。

 

やはり、ウソ矢倉は先手矢倉と比較すると遥かに受ける条件が悪く、苦労が絶えない作戦です。後手としては避けたほうが賢明でしょう。

 


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 【豪華版】最新戦法の事情(2019年3月 居飛車編)

こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!

 


今回のまとめと展望

 

先手の利を活かしやすい作戦は角換わりと相掛かりだが、現環境はどちらも後手の対策が整っており、簡単には良くならない。それゆえ、矢倉の対局数が増加した意味はあるだろう。

 

 

主要五戦法(角換わり・矢倉・相掛かり・雁木・横歩取り)の内、後手は横歩取り以外は、ほぼ互角に戦える。横歩取りだけはリスクが高い割に旨味が乏しいので、魅力的ではない。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!



2 COMMENTS

キム

すごく勉強になりました。いつもありがとうございます。4月編も楽しみですね。ところで、このスレッドを韓国語に翻訳して私のブログにあげてもいいですか?

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あらきっぺ

はじめまして。

翻訳した記事内に、

(1)引用元である当サイトのリンクを張る。
(2)原文を記したのは、あらきっぺであることを説明する。

この二つの条件を満たして頂ければ問題ありません。

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