最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年2月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。このところ、寝覚めが悪いことに悩んでいたのですが、毎朝30分くらい散歩して陽の光を浴びるようにしたら、スッキリ起きれるようになりました。日光は偉大ですね。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
最新戦法の事情(2019年1月・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2019.1/1~1/31)

 

調査対象局は83局。それでは、それぞれの戦型ごとに見て行きましょう。

 

角換わり

後手に新対策あり。


29局出現。その内、21局が相腰掛け銀で、さらにその中での7局が基本形の将棋になっています。先月にも述べた通り、この形がホットな作戦の一つですね。

 

この数字が示すように、後手は△6二金型に組むケースが圧倒的に多いのですが、1月は△6三金型の将棋で新たな工夫が登場しました。(第1図)

 

2019.1.31 第77期順位戦A級8回戦 ▲羽生善治九段VS△豊島将之二冠戦から抜粋。

先手の攻めのプランとしては、一歩を入手して▲7五歩から桂頭を狙うことが一つの手法です。ただし、この場合は後手の金が守っているので、直ちに仕掛けることは難しいですね。

 

よって、羽生九段は▲6六歩△6五歩(青字は本譜の指し手)で後手の仕掛けを誘ってから、▲4五桂で動いていきます。そこから、十数手後の局面がこの局面です。(第2図)

 

ずいぶんと途中の手順をカットしてしまいましたが、第1図からここまでの局面は、定跡化された進行でもあります。

 

第2図に至る手順の詳しい解説は、これらの記事をご覧ください。NHK杯 羽生ー菅井~下段の香に力あり~ 第68回NHK杯解説記 羽生善治竜王VS菅井竜也七段

 

~玉の空中遊泳~ 第68回NHK杯解説記 三枚堂達也六段VS近藤誠也五段

 

さて。上記の前例では、ここで△6二金と手を戻していたのですが、豊島二冠はそれでは手緩いとみて、△7五歩と攻めに転じます。(第3図)

 

この手も前例はあるのですが、後手が敗れていたため、あまり注目はされていない手でした。何より、ここで▲6四香と打たれてしまうことが懸念材料です。△同金▲同馬と進むと、金取りと▲4四桂が同時に残ってしまいますね。(A図)

 

しかし、この金取りの瞬間に△5一飛と引くのが、面白い対応でした。(第4図)

 

最新型

先手もこの利かしを受け入れる訳にはいかないので、▲6一歩成△同飛▲7三馬と切り返しましたが、△6四金▲4四桂△3三角と進んだ局面は、後手が上手く立ち回っています。(第5図)

 

先手は▲3二桂成△同玉で金を剥すことが出来ますが、その局面は△7六歩の取り込みが強烈なので、むしろ後手は歓迎です。

 

したがって、羽生九段は▲4五歩と我慢しましたが、△7一香が味の良い香打ちになり、後手のカウンターが成功しています。実戦も、豊島二冠の快勝となりました。

 

後手にとって、第2図の局面から直ちに攻勢に打って出れることを発見したのは、大きな収穫です。この定跡型において一石を投じたことは、間違いないと言えるでしょう。先手で角換わりを指すプレイヤーにとっては、課題が一つ増え、対策を講じることは必須ですね。

 

 

矢倉

魅力的には映らない。


たった5局のみ。角換わりと相掛かりの人気に押され、相当に下火となっています。やはり、先攻する展開になりにくいことが、それの最大の要因であると推察されます。

 

現環境では、先手の利が生きにくい作戦であり、多くの居飛車党が魅力を感じていない印象を受けます。

 

 

相掛かり

▲5八玉型が主流。


17局出現。この戦型は、昨年の8月頃は▲6八玉に構える指し方が主流でした。詳しくは、こちらの記事をどうぞ。プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(9月・居飛車編)

 

しかし、今年に入ってからは、▲5八玉型の将棋が主流の座に移りつつあります。その中でも、特にアグレッシブな指し回しを見せたのが、この将棋です。(第6図)

 

2019.1.10 第77期順位戦B級1組11回戦 ▲松尾歩八段VS△木村一基九段戦から抜粋。

後手が8筋の歩交換をしたところです。

ここで穏やかな進行を選ぶのなら、(1)▲2四歩から歩を交換して▲2六飛と引いたり、(2)あっさり▲8七歩と打ってしまったりするのが一例です。

 

けれども、松尾八段は、それらの手とは真逆の性質を持つ手を選択します。ここで▲3七桂が意欲的な一着でした。(第7図)

 

最新型

攻め足の速い桂を優先的に活用していることから、先攻を目指していることが窺えます。先手は、3六の歩を取られたり、△8七歩と打たれる傷が残っていますが、まだ致命傷には至らないので大丈夫ですね。

 

木村九段は△3四歩で角道を通しますが、それを見て▲2四歩△同歩▲同飛と2筋の歩を交換するのが、良いタイミングです。(第8図)

 

最新型

このあと、先手は▲3四飛で横歩を取ったり、▲7六歩→▲7七桂で二枚の桂を中央へ跳ねていく要領で指すことが狙いになります。第8図は、先手のほうが攻めるプランを確立しており、主導権を握ることに成功しているので、満足の行く進行ですね。

 

この先手の作戦は、現環境に上手く適合した作戦だと考えています。後手は、以前にも述べた通り、ミラーゲームに持ち込むことが有力策でした。詳しくは、以下の記事をご覧ください。

年末プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(12月・居飛車編)

 

最新戦法の事情(2019年1月・居飛車編)

 

つまり、これを踏まえると、序盤の早い段階で[▲3八銀⇔△7二銀]という交換が入ることが想定されます。そうなると、5三の地点が狙いやすくなるので、先手は青野流のように桂を中央へ跳んでいく攻め方が有効になるというロジックなのです。

 

この8筋の歩を保留する指し方は、ミラーゲームを回避しながら速攻が狙えることが自慢です。今後の注目株となり得る存在かもしれません。

 

 

雁木

現環境では苦戦気味。


6局出現。先月同様、少ない数字です。

 

昨年の今頃は、主力戦法の一つして地位を固めていましたが、ここ最近はめっきり対局数が減り、尻すぼみと言ったところです。

 

原因としては、4手目に△4四歩と突くタイプの雁木で互角をキープできなくなったことが大きいですね。現環境では、苦戦気味です。

 

 

横歩取り

光明の兆しはある。


10局出現。出現率は12%で、12月から横ばい状態です。

 

先手の作戦は、今さら言うまでもなく青野流が一番人気。それに対して、1月は△4二玉型で対抗する指し方がアップグレードされたので、それを取り上げたいと思います。(第9図)

 

最新型

2019.1.17 第77期順位戦C級2組9回戦 ▲佐藤紳哉七段VS△八代弥六段戦から抜粋。

この戦型では、ありがちな局面の一つですが、後手の△8二飛型が、少し珍しいところ。これは、間接的に3二の金に紐を付けて、防御力を高めている意味があります。

 

ここから八代六段は、△2六歩と垂らして先手の攻めを牽制します。ただ、これは結論から述べると危うい一着でした。というのも、▲8三歩△同飛▲4五桂という強襲を喫してしまったからです。(第10図)

 

これには△8八角成と応じるくらいですが、▲5三桂成△同玉▲3二飛成で、後手陣は収拾がつきません。(B図)

 

改めて、第9図に戻ります。

最新型

そこで、後手は△2六歩ではなく、△2七歩ともう一路、深く打つ手が有力です。(第11図)

 

2019.1.20放映 第68回NHK杯3回戦第7局 ▲行方尚史八段VS△豊島将之二冠戦から抜粋。(棋譜はこちら)

これには、さすがに▲2九歩と受けるよりありません。後手は2筋に歩を打たせたことに満足して、△2三銀▲3五飛△7二銀とゆっくり駒組みを進めます。(第12図)

 

この局面を、どう評価するか。先手は歩得。後手は銀冠が頑丈であることが主張で、互いに言い分があり、いい勝負という印象を受けます。ただ、互角の進行ならば、後手としては及第点と言えるでしょう。

 

なお、本局のこの後の進行は、こちらの記事をご覧ください。
~負担の桂が勝負の鍵~ 第68回NHK杯解説記 行方尚史八段VS豊島将之二冠

 

現環境は、青野流に対する対抗策が増えつつあるので、以前よりも横歩取りを採用しやすい状況であると考えられます。後手としては、悪くない風向きですね。

 

 

その他の戦型

一手損角換わりが増加傾向。


16局出現。その内の半数が一手損角換わりの将棋で、プチブームとなっています。

 

一手損角換わりは、▲7八玉型で棒銀や早繰り銀を決行されるのが厄介なのですが、それを逆手に取る指し方が出現しました。(第13図)

 

2019.1.9 第90期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲八代弥六段VS△丸山忠久九段戦から抜粋。

ここに至るまでの後手の工夫点としては、

(1)▲7八玉型を見て、8筋の歩を伸ばしていること。
(2)△1四歩を省いていること。

この二点です。

 

棒銀に対して、△1四歩を省略すると、当然ながら▲1五銀と進軍されます。早くも先手成功を思わせますが、△2二銀と引く手が、このところ見直されている受け方で、実は後手もやれるのです。

 

以下、▲2四歩△同歩▲同銀△2三歩▲1五銀で歩は交換されますが、△7四歩で反撃の準備に取り掛かります。(第14図)

 

先手は銀を端に置いたままでは話にならないので、▲2六銀と立て直しますが、△7三桂▲6八金上△6二金と進んだ局面は、後手まずまずです。(第15図)

 

ここで(1)▲3五歩には、△3三銀。(2)▲2五銀には、△4三銀と応接すれば、簡単には潰れません。

 

後手は歩を入力すると、△8六歩▲同歩△8五歩というカウンターが楽しみです。先手は▲7八玉型のため当たりが強く、神経を使う将棋になっており、攻めに専念しにくいですね。

 

この後手の作戦は、あえて歩交換させることで手を稼ぎ、序盤の手損を抽象化させる巧みな戦術です。違う形でも応用が利きそうなので、一手損角換わりを指すプレイヤーは、頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

 

 


今回のまとめと展望

 

・2手目△8四歩に対して、先手は角換わりか相掛かりを志向する傾向は相変わらず。当面は、この二つが相居飛車の主戦場になるだろう。

 

 

角道を止める作戦は、総じて支持率が低い。ゆえに、矢倉や雁木は指されなくなっており、その他の戦型で一手損角換わりが増加している。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

 



2 COMMENTS

やんす

角換わりについて質問なのですが、一昔前の58金52金型の相腰掛銀は42173と歩をついてから45桂と開戦するのは知っているのですが、48金29飛型の相腰掛銀の開戦はどのように始まるのでしょうか?
初心者で申し訳ございません。

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