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~羽生世代の同窓会(二次会)~ 第68回NHK杯解説記 郷田真隆九段VS森内俊之九段

NHK杯

今週は、郷田真隆九段と森内俊之九段の対戦でした。

郷田九段は居飛車党で、棋風は攻め。「格調高い」と称されるその指し回しは、棋士の中でも随一の本筋を感じさせます。

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森内九段は居飛車党で受け将棋。形の悪い陣形を収拾する技術が高く、懐が深い将棋を指される棋士ですね。

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本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯準決勝第2局
2019年3月10日放映

 

先手 郷田 真隆 九段
後手 森内 俊之 九段

序盤

 

初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8五歩▲7七角(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

NHK杯

郷田九段は角換わりを志向していましたが、森内九段はそれを拒否して、足早に銀を繰り出します。定跡形の将棋ではありませんが、後手が角換わりを避けるパターンの一つとして確立されている指し方ではありますね。

 

第2図では様々な構想が考えられますが、郷田九段は▲2八飛△2三歩▲2二角成△同銀▲7七銀と壁銀の解消を優先するプランを採りました。

先手は角の動きで二手損していますが、自分だけ飛車先の歩を交換しているので、折り合いが付いているでしょうと主張している訳ですね。(第2図)

 

後手目線としては、先手が歩を交換した一連の手順を咎めることが出来れば、自分の主張だけが残るので作戦勝ちが期待できます。そこで、森内九段は△2四歩と指しました。▲同飛には△3五角で馬が作れるので、この歩をタダでは取れません。

 

とは言え、このまま銀冠への発展を甘受すると、先手は歩交換した利点が薄れてしまいます。ゆえに、郷田九段は▲4六角と打って、許さんと言わんばかりに反発しました。(第3図)

 

さて。後手は2四の歩をどう守るかですが、(1)△2三銀は、▲2四角であまり受けになっていません。角銀交換の駒得でも、歩切れでは2筋の処置に苦労します。

 

また、(2)△3三角と受けるのは、▲3八銀から棒銀をされたときに、損をしている意味があります。(仮想図)

 

もし、[▲4六角⇔△3三角]の交換が入っていなければ、△3三桂と跳ねることが可能です。先手は銀を進ませる術がありません。

しかし、仮想図ではそれが指せないので、次の▲2五歩が分かっていても受けにくいですね。これが、先手の描いている青写真です。

 

本譜に戻ります。

このような背景があるので、森内九段は△2三金を選びました。▲2四角には、△同金▲同飛△3五角で大丈夫ですね。

 

ただ、これだと形が乱れているので、先手はそれに満足して▲4八銀△3三銀▲3六歩と駒組みに移行しました。(第4図)

 

後手の当面の課題は、この歪な布陣をどのように纏めていくかです。例えば、△4四歩▲3七桂△5二金のような手順は、自然に映りますね。

けれども、それには▲2五歩と合わせられると、いきなり後手はピンチを迎えてしまいます。(A図)

 

△同歩▲同桂△2四銀と応接できないとおかしいのですが、▲1三桂成で先手の技が決まっています。

 

という訳で、第4図から森内九段は△2二飛と回りました。些か、非常手段の感もありますが、とにかく2筋を強化することが先決と判断された手です。以下、▲3七桂△4四銀と進みます。(第5図)

 

後手としては、銀の力で4六の角を圧迫する展開になれば、話は旨いですね。序盤から小競り合いがありましたが、先手の攻めが繋がるか、後手の押さえこみが成功するかという構図になりました。

 


中盤

 

先手は手をこまねいていると、△6四銀や△5四歩でどんどん角が狭くなってくので、何かアクションを起こさなければいけません。

郷田九段は、▲2五歩と合わせました。以下、△同歩▲同飛△3三桂▲8五飛△8二歩までは、妥当な進行ですね。(第6図)

 

先手は飛車を中段に配置したので、もう持久戦にはできません。したがって、▲6六銀△5四歩▲7七桂で攻め駒を繰り出していきます。

反対に、後手は局面を穏便な方向へ誘導したいので、△6四歩と突いて、銀桂の進路を阻みました。(第7図)

 

こうなってみると、先手は全ての攻め駒が歩越しになっており、つんのめってしまったように見えます。しかし、ここで▲8六飛が確実な攻め筋を確保する好手でした。

自ら、飛車を狭くしているようですが、次に▲7五歩を突けるようにした効果があり、そうなれば6六の銀を進ませる目処が立ちます。

 

森内九段は△1四金と上がり、飛車の成り込みを狙いますが、構わず▲7五歩と突いたのが機敏な一着です。(第8図)

 

(1)△2九飛成は▲7四歩△同銀▲8二飛成で、後手がはっきり悪いですね。後手は単純な攻め合いになると、彼我の陣形差が露骨に響いてしまいます。

 

よって、(2)△7二金で一旦、受けに回るのは必要経費ですが、▲2四歩△同金▲7四歩△同銀▲6四角で、角を良いポジションに飛び出すことを実現したので、先手に形勢が傾きつつあります。(第9図)

 

後手は馬を作られては話にならないので、△4一玉はこの一手ですが、▲6五桂と活用して、先手の攻め駒が躍動してきました。

森内九段は△5二飛で辛抱しますが、▲4六角△3五歩▲2五歩△2三金▲3五角で駒の入手を図ります。

 

最終手の▲3五角は、多少、強引な嫌いはありますが、後手が△5二飛と指したことにより、玉飛接近の悪形になったので、粗っぽい攻めでも通ると踏んだわけですね。(第10図)

 

何はともあれ、△3五同銀▲同歩は必然です。ただ、その局面は、次に▲6一銀と▲3四銀が残っており、後手はどちらかを甘受するよりありません。

 

森内九段は、△6四歩で桂取りに歩を打ち、「やって来い」と催促しましたが、割打ちを決行する前に、▲2四歩と突きだしたのが軽快な好手でした。(第11図)

 

これを△2二金と引くのは、▲3四歩で状況が悪化するので指しきれません。後手は3三の桂を取られると、▲4五桂と跳ねられたり、▲6四桂と打たれる筋が残るからです。

 

なので、△2四同金はやむを得ないですが、▲6一銀△6五歩▲5二銀成△同玉▲2二飛で、王手金取りが掛かりました。▲2四歩の効果が覿面に表れていますね。(第12図)

 

ここは△6三玉と逃げる手もありましたが、森内九段は反撃を含みに△4二角と飛車取りを見せた受け方を選びました。

 

しかしながら、この手は危険な意味もあり、どうだったでしょうか。というのも、▲2四飛成と金を取られたときに、後手はしっくり来る手が見当たらないのです。(B図)

 

後手は単に△6六歩か、△8六角▲同歩△6六歩と指すくらいですが、いずれにせよ▲5四竜の王手銀取りが痛烈です。これなら、はっきり先手が優勢だった印象です。

 

△4二角と打った局面に戻ります。(途中図)

これは憶測ではありますが、おそらく郷田九段は第12図で△6三玉と逃げられたとき、▲7七銀と引く予定だったのではないでしょうか。ゆえに、本譜も同様に▲7七銀と緩める手を選んだように思います。

 

しかし、現実問題として、先手が踏み込みを欠いたので形勢はヨリが戻りました。△3五金と金を逃がして、第2ラウンドの始まりです。(第13図)

 


終盤

 

先手は玉は堅いものの、金を取り損ねたので攻め駒が不足しています。郷田九段は、▲5六飛△6三金の利かしを入れてから▲2四歩と垂らし、と金攻めに期待しました。この手が間に合うかどうかが、勝敗を分かつキーポイントですね。(第14図)

 

森内九段は、ひとまず△2一歩▲同飛成で先手の攻めを緩和して、△8五桂で攻めに転じました。原則として、と金攻めには受けが利かないので、攻め合う姿勢を取ることは鉄則です。

 

先手も、歩を成らないことには▲2四歩と打った手の顔が立たないので、▲2三歩成は当然です。その局面が、最大の勝負所でした。(第15図)

 

結論から申し述べると、ここは△7七桂成▲同金△8八角▲7八金△9九角成で、香を拾っておくのが有力でした。(C図)

 

△8八角から香を取るのは、先手玉に向かっていないので、抵抗感のある手順なのですが、こうすることで相手の攻めを牽制することが出来るのです。

 

つまり、C図から(1)▲3二とは、△9七角成で、と金攻めからエスケープできます。角を成ってしまえば、△5三玉→△6四玉と逃げやすいですね。

また、(2)▲3三とには△同馬を用意していることも見逃せません。

C図の変化を選べば、後手にも大いに勝機がありました。

 

本譜に戻ります。(第15図)

森内九段は、△8九角▲7九歩△7七桂成▲同金△3六歩という手順を選びます。これは、先手玉を左辺に逃げられないようにしてから、右辺の攻略を目指したものですが、▲3二とがそれを上回る厳しい攻めで、先手が一歩抜け出すことに成功しました。(第16図)

 

後手は、△3七歩成を間に合わさないといけないので、それと連動するように△6四角と指しましたが、▲7六桂が手痛いカウンターブローになりました。

△7三角と引くのは致し方ありませんが、▲3三と悠々と桂を取る手が沈着冷静です。(第17図)

 

後手もようやく、△3七歩成が実現しましたが、▲3二竜△6一玉▲6四桂打が痛烈。下段に落として、上から押さえる王道の寄せパターンが決まり、先手勝勢ですね。(第18図)

 

森内九段は△6二金と引きますが、▲4三とで苦しい状況は変わりません。

なおも、△6三銀打と抵抗しましたが、▲5四飛が爽やかな決め手になりました。(第19図)

 

(1)△同銀は、▲5二とから詰みですね。

本譜は、(2)△4八と▲同金△7一玉と指しましたが、▲5一飛成で後手玉は即詰みです。(第20図)

 

(1)△6一銀は、▲6二竜寄△同角▲6一竜△同玉▲5二銀以下、詰み。

実戦は、(2)△6一桂でしたが、▲6二竜寄△同角▲同竜△同玉▲5一角で終局となりました。

 


 

本局の総括

 

序盤は、先手が▲4六角を打つなど、意欲的に動いた。形勢は難しいが、実戦的には後手が勝ちにくそうな作りと言える
先手は快調に攻め続けて優位を掴んでいたが、△4二角と打たれたときに金を取らなかったので、ヨリが戻る。
▲2三歩成の局面が最大の勝負所。そこで△8九角が致命的なミスになった。代えて、C図の変化を選べば、後手にも勝機があった。
 と金攻めが間に合い、先手が再び優位に立った。その後は、郷田九段がしっかり着地を決めた。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



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