どうも、あらきっぺです。最近、自室をほんの少し模様替えしました。些細なことではありますが、それだけで新鮮な気持ちになれるのは我ながらお得な性格ですね笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 振り飛車編(2022年2・3月合併号)
・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。
棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。
全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・記事の内容は、プロの公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。
・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。
・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。
目次
最新戦法の事情 振り飛車編
(2022.3/1~4/30)
調査対象局は105局。それでは、戦型ごとに解説していきましょう。
先手中飛車
金の守備力で攻めをサポート
15局出現。出現率は14.3%であり、1〜2月と比較すると増加傾向にあります。
居飛車は相変わらず後手超速が主流ですが、それを志向したのは8局で、猫も杓子も後手超速という訳ではありません。背景には、振り飛車側が新たな対策を打ち出していることが挙げられます。今回は、それをテーマに解説を進めて行きましょう。
ちなみに、後手超速には駒組みの手法が複数ありますが、昨今では図の桂跳ね優先型が最有力と見られています。
これは△6五桂と跳ねる手を見せることで、振り飛車の駒組みに制約を掛ける狙いがあります。非常に攻撃的な作戦であり、振り飛車にとって厄介な相手ですね。
さて、この局面を迎えると、振り飛車は▲5四歩△同歩▲同飛と動くことが必須。その後は、△6五桂▲6八角△8六歩▲同角△5二金右と進むのが定跡化された手順になります。(第1図)
なお、ここに至るまでの詳しい解説は、以下の記事をご参照くださいませ。
さて、従来はここで▲5九飛と引く手が主流でした。これは飛車を安定させて、捕獲される筋をクリアした意味があります。
ただ、飛車を引くとその後の攻め方が難しく、現環境では居飛車良しという見解が定着しています。詳細は、こちらの記事をご覧くださいませ。
【▲5九飛では芳しくない理由】
とはいえ、飛車を引くのは至って自然な選択ですね。自然な手が思わしくないので振り飛車はこの変化を避けていたのですが、その定説にチャレンジした手が現れます。それが▲7八金という手になります。(第2図)
なお、この指し方の実例としては、第53期新人王戦トーナメント戦 ▲西山朋佳白玲・女王VS△吉田桂悟三段戦(2022.3.28)が挙げられます。
先手中飛車が得意なプレイヤーなら実感されると存じますが、この金は囲いに合体するのが理想です。ゆえに、こうして▲7八金と上がるのは妥協している嫌いがあるのですが、この局面では7・8筋の守りを固めておく価値が意外に高いのです。
この手は次に、▲6四角△同歩▲同飛と強襲する狙いがあります。それが実現すれば飛の成り込みが約束されますし、6五の桂も取ることが出来そうです。ゆえに、居飛車は△4二金寄で囲いを引き締める手を指す余裕はありません。
この▲7八金は囲いと反対方向へ金が移動しているのですが、7・8筋のガードを固めることで、8六の角を自由に動かせるようにしたことが自慢です。金の守備力で攻めをサポートしたという訳ですね。攻撃力がアップするので、有力な手法だと思います。
このように、現環境の先手中飛車は、後手超速に対する策を新たに用意しています。
ちなみに、今回紹介した以外の指し方ですと、もっと早い段階で5筋の歩を交換する手法もあります。
こちらも有力な指し方なので、合わせてご覧いただければ幸いです。なお、詳細は以下の記事をご参照くださいませ。
後手超速は厄介な作戦ですが、手段を尽くせば振り飛車も対抗できる印象です。基本的には居飛車よりも玉が堅いので、実戦的な勝ちやすさがあることも魅力ですね。今後もこの戦型は、指され続けることでしょう。
四間飛車
思わぬ穴場
30局出現。この内、19局が後手番での採用です。四間飛車はどちらかというと受け身の戦法であり、かつ相手の対応を見て作戦を切り替えるケースも多いので、後手番で採用しやすい戦法ではありますね。
居飛車の対策は持久戦が多く、特に穴熊系の作戦が人気を博しています。ただ、今回の期間ではミレニアムで面白い工夫を披露した将棋が登場しました。(第3図)
居飛車のミレニアムに対して振り飛車には様々な指し方がありますが、最もアグレッシブなのは6六の角を金気で圧迫するプランです。図の△5三金は妙な配置ですが、振り飛車はこの金を繰り出して居飛車の角を責めようとしています。
つまり、ここから居飛車が淡々と囲いを構築すれば、振り飛車は以下のように指すという訳ですね。
【ミレニアムには先攻を狙え】
ミレニアムは完成されると堅すぎて厄介なので、その前に戦いを起こす駒組みが必要です。
具体的には、このように金を繰り出す作戦が一案ですね。
最終図は、次に△55歩と△42角→△75歩という二つの攻め筋があり、こちらが確実に先攻できます。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/EaPrAoxJ0H
— あらきっぺ (@burstlinker0828) August 10, 2020
この作戦が有力なのでミレニアムは主力の座から退いていたのですが、ここから居飛車は画期的な工夫を見せます。詳しくは、豪華版の記事をご覧くださると幸いです。
【ミレニアムの新構想】
なお、この新構想はまだ実戦例が多くありませんが、相当に有力だと感じています。今後の環境にどのような影響を及ぼすのか、大いに注目ですね。
三間飛車
石田流? 組ませてもいいよ
31局出現。先後に関わらず、盛んに指されています。三間飛車は攻撃的かつ作戦のバリエーションが広いので、多くの振り飛車党から頼りにされているのは頷けるものがありますね。
居飛車の作戦は左美濃が多く、今回の期間では16局も登場しました。特に、△6二銀型を維持する作戦がホットです。(基本図)
この指し方は、最終的には銀冠穴熊を作ることを理想としています。
また、右銀を早めに動かさないことで、駒組みの含みを増やしている意味もありますね。ここから居飛車は相手の指し方によって、
・△5三銀型
・△6三銀型
・△6二銀型
上記の要領で右銀の配置を使い分けていくことになります。
例えば、振り飛車が早めに▲7五歩を突いて石田流への組み換えを目指して来たら、△5三銀と上がって「射手の構え」を作るのが有力な指し方ですね。
そうした背景があるので、振り飛車はいきなり石田流を目指すのは危険なところがあります。ただ、やはり石田流には組みたいところでしょう。
なので、振り飛車は次の図のような布陣を作って石田流に組むのが一策ではあります。(第4図)
このように、▲3七桂型を作って△5三銀のときに▲4五桂を用意すれば、「射手の構え」を牽制することが出来ますね。
また、右桂を活用を優先すると上部が手薄になるので、それをカバーするために銀冠に組むのも妥当なところだと言えます。
居飛車は5三に銀が上がりにくい状況だったので、△6三銀型を選んでいます。ただ、この配置だと「射手の構え」のように7六の飛を圧迫することが難しいですね。
無事に理想形を作れた振り飛車が満足のようですが、ここで居飛車は面白い手を披露します。その一手は、△5二飛。これが今までになかった構想ですね。(第14図)
なお、この構想の実例としては、第35期竜王戦4組ランキング戦 ▲黒沢怜生六段VS△大橋貴洸六段戦(2022.4.14)が挙げられます。
ここで振り飛車は▲7七桂が自然ですが、居飛車は△5五歩▲同歩△同角と進めておきます。その局面は、次に△3七角成▲同金△8四桂で飛車を捕獲する攻め筋があるので、居飛車が上手く立ち回っていますね。
こうして5筋の歩を交換すれば大駒の効率が高まりますし、6三の銀も使いやすい格好になります。振り飛車は▲4六歩→▲4七金左と指せば中央を強化することが出来ますが、そう指すと6八の角が使いにくくなることが泣き所ですね。
居飛車の最大の工夫は、[△2二金→△3二金右]と固める二手を省いて主導権を取りに行ったことです。その二手を指せば居飛車の囲いはすこぶる強固になりますが、現状でも堅さのアドバンテージは保持しています。ならば、「守り」ではなく「攻め」を重視した方がクレバーだという理屈なのです。
この局面の振り飛車は、囲いの堅さで劣っている上に先攻されることも確実なので、作戦負けに陥ったと考えられます。石田流に組めても作戦負けになってしまうところに、[△銀冠穴熊+△6三銀型]の優秀性が見て取れますね。
それでは、話をまとめましょう。現環境の三間飛車には、△6二銀型の左美濃がホットです。振り飛車側も策を凝らせば石田流には組めますが、[△銀冠穴熊+△6三銀型]で対抗されたときが厄介ですね。振り飛車側から先攻する形にならなければ、石田流の好形が活きません。
この局面からどのように主導権を取りに行くのかは、三間飛車の今後の課題だと感じています。
角交換振り飛車
歩損になっても大丈夫
10局出現。この内、9局が後手番での採用。スペシャリストしか指さない風潮はありますが、決して廃れてはいない戦法です。
角交換振り飛車には様々なオープニングがありますが、中でも欲張っているのは4手目に△3二飛と回る指し方ですね。現環境では、この作戦の株が上がっている感があります。(基本図)
これは、左の銀を4二へ使いたい趣意があります。
角交換振り飛車は△2二銀→△3三銀という手順で銀を動かすのがポピュラーですが、それでは銀の運用方法が限定されてしまいます。スムーズに4二へ使うことが出来れば、その後に[3三・4三・5三]の三つのルートを選べるので駒組みの幅が広いという訳ですね。
ただ、このオープニングは▲2二角成△同飛▲6五角で咎めに来られたときが問題です。ひとまず後手は、△7四角▲4三角成△5二金左▲3四馬△4七角成で馬を作り合う将棋に持ち込むことになりますね。
居飛車としては、一歩得していることが主張になります。ただ、次に△6五馬と引かれると7六の歩が守りにくいので、その主張が消えることになりかねません。
よって、ここは▲6八銀△6五馬▲7七銀と組んでおくのが無難です。すると、以下の局面になることが予想されますね。(第6図)
出だしは大きな動きがありましたが、ここまで来ると局面に落ち着きが出てきました。ひとまず、互いに陣形整備を進めることになります。
振り飛車は歩損の状態で局面が収まると主張が乏しいようですが、結論から述べるとそれは杞憂です。振り飛車は、以下の局面のように進めておきましょう。(第7図)
図が示すように、[△5四馬・△4四銀型]の配置を作っておくことが急所です。中央の勢力争いで負けないようにすれば、将来、敵陣を攻めるときに苦労しなくなります。
居飛車も相手の厚みに対抗したいので▲4六銀と上がりたいですが、それは△4五歩で銀が詰んでしまいますね。
なので、ここは▲4八飛と力を溜めるのが一案ですが、やはり振り飛車は△4五歩と押さえておきましょう。ここの制空権を確保することが大事です。
その後の構想は多岐にわたりますが、現環境では穴熊を目指すのが面白いと見られている節があります。(第8図)
早く戦うのであれば美濃に組む方が良いですが、こうした持久戦であれば、手数の掛かる囲いを作れる余裕が生まれます。そうなると、堅さを誇示できる穴熊の方がより良い選択になるという訳ですね。
なお、このように穴熊に組む構想の実例としては、以下の将棋が挙げられます。
こうした状況になると、振り飛車は一歩損のデメリットがあまり出ていない印象を受けます。3筋の歩が伸びてくる心配はありませんし、攻めの銀桂も使いやすい配置なので手に困る懸念もありません。特に、攻めの銀の働きの優位性が大きいですね。駒の効率と中央の厚みが素晴らしいので、歩損でも差し支えないのです。
このように、歩損のまま持久戦になっても作戦負けにならない駒組みが確立されたので、4手目△3二飛の株が上がったという訳なのです。
居飛車としては、▲6五角から動いていっても作戦勝ちまで持っていくことは容易ではありません。ここでは穏便に駒組みを進める方が、無難な選択かもしれないですね。ただ、それなら冒頭に述べたように、振り飛車は駒組みの条件が良くなります。今後、居飛車がどのような対策を講じていくのか、注目ですね。
その他・相振り飛車
飛車交換を恐れない
19局出現。対抗形が12局。相振り飛車が7局という内訳でした。今回は、相振り飛車の話をしたいと思います。
相振り飛車という戦型において、一般的に中飛車は損だと考えられています。これは、左の金を移動させるとき、飛車が邪魔になるので駒組みに苦労するからですね。
ところが、今回の期間で先手は、7局中、5局が中飛車を選択しています。これは、中飛車側に面白い構想が登場したことが理由の一つだと推察しています。(第9図)
先手が初手▲5六歩を指したとき、こうしたオープニングは頻出する形の一つです。後手はまだ態度を明らかにしていませんが、相振り飛車を志向していることは明らかですね。
ここで先手は▲5四歩と突けば歩交換をすることが出来ます。ただ、△同歩▲同飛△5二飛とぶつけられるとどうでしょう。以下、▲同飛成△同金右と進んだ局面は、先手が大いに手損していることが分かりますね。(第10図)
常識的な感覚では、さすがに先手が面白くないと判断するでしょう。
ところが、その感覚に異議を唱えた構想が登場します。具体的には、▲6八銀△6一玉▲7九金△7二玉▲9六歩という手順ですね。(第11図)
なお、この構想の実例としては、第80期順位戦C級1組11回戦▲佐藤和俊七段VS△飯島栄治八段戦(2022.3.8)が挙げられます。(棋譜はこちら)
図が示すように、居玉のままelmo囲いの骨格を先に作ったのが斬新な構想です。振り飛車党の習性として、つい▲4八玉と指してしまうところですが、ここは玉の移動を後回しにした方がお得です。これは、即効性理論に基づいている意味がありますね。
このあとは、▲6六角→▲7七桂という要領で駒組みを進めます。その配置は相振り飛車における理想形の一つですね。端攻めを実行しやすいので、とても攻撃力の高い布陣です。
また、先手は将来、▲6九玉と寄った形がすこぶる堅いこともセールスポイントと言えます。
6九に玉を据えれば大駒の死角に入りますし、両端からも遠いので端攻めを心配する必要もありません。加えて、6筋は相手の歩が伸びて来ない場所なので、クリップが乱される懸念も無いですね。▲4八玉→▲3八玉といった囲い方よりも、遥かに安定感の高い組み方なのです。この配置が優秀なので、先手は大きく手損していても十分に対抗することが出来るのです。
いきなり▲5四歩と突っ掛けるのは手損が気になるものですが、この局面から▲6八銀→▲7九金と組んで「玉を左に囲う」という着想はエポックメイキングですね。中飛車系の相振りの可能性をぐっと広げる構想であり、他の戦型にも影響を与えそうだと感じました。
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今回のまとめと展望
【現環境の有力策は?】
今回の期間で多く指された戦法は四間と三間ですが、これらは両方とも苦労している印象を受けます。どちらも端歩突き穴熊という強敵がいる上に、ミレニアムや左美濃という伏兵がいるからです。特に、三間に対する左美濃は、端歩突き穴熊に取って代わるほど人気を集めていますね。
逆に、先手中飛車は上昇気流に乗りつつあります。相振り飛車になったときに選択肢が増えたことも心強い要素ですね。また、力戦を好むのであれば、角交換振り飛車も面白い選択でしょう。
現環境は、角道を止めない振り飛車の方が面白い印象を受けますね。
【角の機動性を重視せよ!】
現環境の特徴として、序盤の終わり頃から中盤戦にかけて、角の機動性を重要視している傾向を感じます。もう少し踏み込むと、玉の堅さを求めることよりも、角の機動性を活かすことを重視しています。これは、居飛車・振り飛車問わず、お互いにそうですね。
例えば、今回は四間飛車と三間飛車の対策として、ミレニアムと左美濃を取り上げました。これらの作戦と穴熊の最大の違いは、駒組みの過程で角道を止めるか否かということです。これらの持久戦策は、(基本的には)角道を止める必要がありません。
堅さにおいては穴熊よりも劣りますが、「角の使いやすさ」という点においては、これらの作戦に軍配が上がるでしょう。
また、仕掛け周辺や中盤戦に話を移すと、以下の構想が印象的です。
先手中飛車の事例では、▲7八金ではなく▲5八金左と指す方が囲いが堅いですし、銀冠穴熊の事例では、△2二金→△3二金右という整備を省いていることが目を引きます。どちらも、囲いを「完全体」にすることに拘泥していませんね。これは一体、どういう理屈なのでしょう?
堅さを重視した手は魅力的ですが、戦力が「守備力」しか上がらないことに不満が残ります。しかし、駒の効率を重視して「攻撃力」を上げれば、相手も受けに回る必要が出てきます。すると、相対的に自軍の「守備力」も上がる可能性が生まれますね。
つまり、ある程度囲いの構築が完了すれば、それ以降は堅さを突き詰めるよりも攻撃力を重視した方が効率的であると言えるのです。これらの指し方には、そういった趣旨を感じますね。
そして、攻撃力を向上させるには、費用対効果の高い大駒の能率を上げるのが一番。序盤の終わり頃で飛車が遊んでいるケースはほぼないので、角にスポットを当てる訳ですね。現代の対抗型は、その点を強く意識する指し回しが多い印象です。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!