最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情・居飛車編(2020年4月号)

居飛車

どうも、あらきっぺです。「Stay Home」に苦痛は感じないのですが、サウナが恋しい今日この頃です。さすがにこれだけは自宅でどうにもなりません笑

 

タイトルに記載している通り、居飛車の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。

居飛車最新戦法の事情(2020年3月号・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2020.3/1~3/31)

 

調査対象局は90局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

角換わり

基本形から新機軸が登場!


21局出現。出現率は27.4%→23.6%と推移し、やや減少しました。

現環境では、何か一つの局面が流行っているわけでなく、作戦は分散している傾向があります。とはいえ、それでも基本形を目指す将棋が6局指されており、根強い人気を誇っていることが分かります。

 

基本形

さて。今回は、この基本形から後手が新たなアイデアを出した将棋が出現したので、それを解説していきましょう。そのアイデアとは、ここで△7二金と寄る手です。(第1図)

 

最新戦法の図面

2020.3.2 第68期王座戦二次予選 ▲郷田真隆九段VS△中村太地七段戦から抜粋。

7二に上がった金を△6二金と戻すのはポピュラーな指し方ですが、それと逆の動きをするのは珍しいですね。これも手待ちの一種ではありますが、真の狙いは、間合いを図って最適なタイミングで仕掛けを実行することにあります。

 

居飛車

先手は▲7九玉と引くのが自然ですね。もし後手が△6二金と待機すれば▲4五桂と跳ねれば良いでしょう。これは先手が勝ちやすい将棋です。

しかし、そうは問屋が卸しません。このタイミングで△6五歩と仕掛けるのが狙いの一手。この局面に誘導することが、△7二金の意図なのです。(第2図)

 

居飛車

[△7二金⇔▲7九玉]の交換が入っていない状態で△6五歩と仕掛けた場合は、▲同歩△同銀に▲5八玉が受けの好手で先手が指せると見られています。これは2018年の6月頃に認知された見解ですね。

 

居飛車

ところが、この場合は▲5八玉で右辺へかわす方策が採れないですね。したがって、先手は他の手段を考えなければいけません。

本譜は▲6九飛と回りました。これも部分的には頻出する対応です。ただ、△6六歩のときにどうすれば良いでしょうか?(途中図)

 

最新戦法 居飛車

反発するなら▲同銀ですが、△6一飛のときにしっくると来る手がありません。これは△7二金型のメリットが遺憾なく発揮されていますね。

よって、本譜は▲6六同飛と指しましたが、△6五歩▲6九飛△6四角と進んだ局面は後手満足でしょう。(第3図)

 

最新の居飛車

原則として角換わり腰掛け銀の後手は、この場所に角を打つことが出来れば不満のない展開になることが多いです。なぜなら、この布陣はとても守備力が高く、先手からの攻め筋を概ね消すことが出来るからです。相手からの攻めが無ければ千日手が見えてくるので、後手は満足という寸法ですね。

 

この変化が示すように、基本形からの△7二金は▲7九玉と引く手を牽制している意味があり、先手の駒組みに制約を与える作戦と言えます。先手にとっては、侮れない作戦の一つという印象ですね。

 

後手はこの作戦以外にも、一手パス待機策△9三歩型も有力であり、現環境では互角に戦える作戦が数多くあります。先手のほうは対処すべき作戦が多く、準備の段階でなかなか負担が大きい側面があることは確かですね。そういったところに、出現率が低下した理由があるのかもしれません。

 

矢倉

先手が押している。


30局出現。3月では最も指された戦型であり、トップメタに君臨しました。出現率33%越えは凄まじい勢いですね。

後手は[△6三銀・△7三桂型]を目指す将棋が多く、(16局)現環境ではこの布陣に組むことがスタンダードな指し方です。この布陣は作戦の間口が広く、急戦・持久戦どちらのパターンも存在します。まずは、急戦を狙う指し方から見ていきましょう。(第4図)

 

居飛車 最新

2020.3.31 第33期竜王戦1組出場者決定戦 ▲佐藤康光九段VS△佐藤天彦九段戦から抜粋。

後手は2筋の歩交換を許容しているので、急戦を趣旨としていることが窺えますね。

後手が急戦を狙っている場合、先手はまず相手の攻め筋を封じることが必須です。本譜は▲7九角△8五歩▲6八角と進めました。(第5図)

 

居飛車

角の動きを優先するのは風変りなようですが、近頃ではこれが手堅い組み方だと認知されつつあります。青枠で示した形を作ることがポイントですね。

先手はこれによって、△6五桂に▲6六銀と上がりやすくなったことが自慢です。8筋の歩を交換させないことで、後手の攻めを停滞させることが出来るのです。

 

居飛車

このように、居玉を維持して[▲6七歩・▲6八角]という布陣を作る組み方は、この戦型における有力な手法ですね。他には、こういった事例もあります。(第6図)

 

2020.3.22放映 第69回NHK杯決勝 ▲深浦康市九段VS△稲葉陽八段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

少しだけ形の違いはありますが、青枠で示した部分は同じです。

この将棋では、[▲5六歩・▲3七銀型]という配置に構えていますね。こちらのほうが角や銀を攻めに使いやすい意味があり、オフェンシブな布陣と言えます。事実、本譜は先手が果敢に攻めていき、ペースを掴むことに成功しました。詳しい解説は、こちらの記事をご覧くださいませ。

第69回NHK杯【決勝戦】 深浦康市九段VS稲葉陽八段戦の解説記

 

これらの事例は少しずつ形の違いがありますが、いずれにせよ後手は[▲6七歩・▲6八角]というパーツを作られて駒組みされると、どうも有効な仕掛けが無く、面白くない将棋になってしまう傾向があるのです。

 

そういった背景があるので、[△6三銀・△7三桂型]という布陣から急戦を目指す作戦は、下火になりつつあります。ゆえに、現環境ではこれと△3三銀型を組み合わせる将棋のほうが注目を集めつつありますね。2筋の歩交換を阻止することで、作戦負けを回避する意図があります。具体的には、以下のような作戦です。(第7図)

 

居飛車 最新の矢倉

2020.3.15放映 第69回NHK杯準決勝第2局 ▲行方尚史九段VS△深浦康市九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

△3三銀型に組むと角が使いにくくなる嫌いはあるのですが、それは先手にも同じことが言えるので、後手は差し支えないと判断しています。第7図の局面になれば、後手は互角以上に戦うことができますね。

 

しかしながら、先手も負けてはいません。この組み方に対しても、有力な対策を打ち出しているのです。それについては、今月の豪華版をご覧ください。

 

話をまとめます。現環境は、△6三銀・△7三桂型を作る組み方が流行っています。けれども、先手は相手が△3三銀を上がる上がらないに関わらず、対抗することが出来るので、押し気味に戦えている傾向が強いですね。後手としては、違う作戦を模索しなければいけない段階に来ているのではないでしょうか。

 

 

相掛かり

▲6八玉型が流行る理由


16局出現。

昨今の相掛かりは、後手が[△5二玉・△7二銀型]に組むのが定番であり、それに対して先手がどのような形で対抗するかという構図が長く続いています。これはもう、2018年の9月頃からずっと変わらない傾向ですね。

先手も後手と同じように▲3八銀型に構えるケースが多いのですが、玉の位置に関しては5八と6八という二つの派閥があり、(もちろん、他の場所に移動する作戦もある)これはどちらが勝るのか見解が分かれているところがありました。

 

居飛車 最新の相掛かり

しかし、3月では▲5八玉が5局、▲6八玉型が8局となり、やや▲6八玉型のほうが支持を得ているようです。その理由については、こちらの記事からどうぞご覧ください。

 

雁木

後手雁木は苦戦している


14局出現。出現率は15.7%という数字が出ています。少数派ではありますが、スペシャリストが根強く指している傾向がありますね。4手目に△4四歩と突くだけで採用可能なので、自分の土俵に持ち込みやすいことがメリットの一つです。

 

ただ、そのオープニングの雁木は急戦に対して手を焼いており、苦戦するケースが多いですね。特に、[左美濃+腰掛け銀]のコンビネーションが強敵ですね。(第8図)

 

居飛車 雁木

2020.3.5 第78期順位戦C級2組10回戦 ▲長岡裕也五段VS△藤森哲也五段戦から抜粋。

こういった状況に持ち込まれると、雁木は4枚の攻めに対処しなければいけない上に、攻め合う展開に持ち込むことも難しいですね。したがって、第8図は後手の作戦負けです。

 

なお、先手はここに至るまでに、ちょっとした工夫が必要なのですが、それを実践すれば第8図のような局面に誘導しやすいですね。その手法については、こちらを参照してくださいませ。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年2月号 居飛車編)

 

3月では4手目△4四歩から雁木に組む将棋が9局指されたのですが、仕掛け周辺でリードを奪われている将棋が多く、なかなか成果が上がっていません。現環境において、このオープニングの雁木は苦戦を強いられていると言えるでしょう。何か有力なアイデアがないと、採用しにくいところがありますね。

 

その他の戦型

意欲的な待機策


9局出現。かなり対局数が少なく、力戦形の将棋は支持が得られていないことが窺えます。2手目△8四歩のような、かちっとした定跡形のほうが無難な将棋になりやすいので、妥当なところではありますね。

しかしながら、中には面白い工夫を打ち出した将棋も登場しています。この指し方は、大いに可能性を感じました。(第9図)

 

居飛車 最新戦法の事情

2020.3.11 第33期竜王戦2組出場者決定戦 ▲広瀬章人八段VS△阿部健治郎七段戦から抜粋。

後手はどう見ても角交換振り飛車を採用しているので、「どこが居飛車なんだ」と思ったあなたの感覚は正常です。けれども、ここからの駒組みをご覧いただくと、この局面に対する目線が変わるのではないでしょうか。

 

まず、後手は△7二金と上がります。そして、▲4七銀△6二銀▲7八金△6四歩▲3六歩△6三銀と玉を微動だにしないまま駒組みを進めました。(第10図)

 

居飛車 2020

これは木村美濃を優先的に作った……という意味ではありません。後手は対抗形の将棋ではなく、角換わり腰掛け銀のような将棋を目指しているのです。

先手は▲3七桂と跳ねても△4四歩と突かれると、簡単に攻めることが出来ません。▲5六銀にも△5四銀で対抗しておけば状況は変わらないですね。

 

居飛車 最新

つまり、後手の作戦は△4二飛と回る手を優先したことで、4筋からの仕掛けを牽制していることが趣旨なのです。振り飛車にするために△4二飛と回ったのではなく、膠着状態を作るための△4二飛だったという訳なのですね。

 

ゴール設定が千日手なので消極的な嫌いはありますが、先手が打開するのも容易ではありません。後手番の特色を活かした面白いアイデアと言えるでしょう。

 


お知らせ

定跡の最先端をもっと深く知りたい! という方は、こちらをご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年4月号 居飛車編)

 

最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。

有料(300円)ではありますが、その分、内容は深堀しております。よろしければご覧ください!

 

今回のまとめと展望

 

【2手目△8四歩系統】

角換わりになるのであれば、不満はないでしょう。現環境は後手の持ち球が多く、作戦に困っていません。

したがって、真の強敵は矢倉です。プロ棋界では[△6三銀・△7三桂型]が流行っていますが、これは狙いが見えにくく、指しこなすのが難しいですね。先手は下図の構えを作っておけば怖くないでしょう。

 

居飛車

 

【2手目△3四歩系統】

基本的には、2手目△8四歩系統と比較すると安定感に欠けるようなところがあるので、あまり支持は得られていないようです。

特に、4手目に△4四歩と突くタイプの雁木は、お薦めできません。先手の急戦策が怖く、一気にリードを奪われる危険性があります。ただし、先手が雁木を志向してきた場合は、後手雁木は有力な選択と言えるでしょう。

 

また、一手損角換わりは局数は多くないものの、決定的な対策が打ち出された訳ではありません。今回で紹介した新しい工夫もあります。先手としては、侮れないところがあるように感じますね。

 

【先手の取るべき戦略】

現環境では、矢倉を志向するのが最有力です。急戦にしっかり対抗できるので、嫌な作戦が見当たらない印象ですね。

また、後手が普通に金矢倉に組んできた場合は、逆にこちらから急戦を仕掛けて行くと良いでしょう。詳しい内容は、こちらをご覧くださいませ。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

5 COMMENTS

ウッディ

最近矢倉の出だしで25歩を決めない指し方が(主に佐藤康光九段ですが)少しずつ増えてる気がします。従来では後手の急戦を牽制するため25歩を決めていましたが、5筋や6筋の歩を突かない事で25歩を後回しにしても急戦にも対応できるという事でしょうか?

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あらきっぺ

確かに、佐藤康光九段はここ最近、▲2五歩を決めずに駒組みを進める指し方を好んでいますね。
ただ、これは相手の駒組みに合わせている節があります。

矢倉のオープニング

佐藤九段は、図の局面になると▲2五歩ではない手を選んでいます。これは相矢倉になったときのことを想定していると推察されます。

つまり、相矢倉になったときは▲2五歩を保留している方が作戦の幅が広いので、後回しにする方が得になります。
逆に、後手が急戦調の作戦を選んだ場合(例えば、後手が△6四歩や△7四歩を優先的に指す)は、▲2五歩を伸ばす可能性が極めて高いと考えられます。そうしないと、2筋の歩が中途半端な格好になってしまうからです。

要するに、▲2五歩を保留しているのは、後手が相矢倉を選ぶ権利を持っていることに着目した姿勢であると言えます。
なので、飛車不突きでも急戦に対応できるという意図ではないでしょう。

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ウッディ

やはりそうなのですね。
今後飛車先保留矢倉が復権する可能性はありますか?また飛車先保留を活かすには先手はどのような戦法を選ぶべきでしょうか?

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あらきっぺ

現環境は、先後に関わらず急戦矢倉が優秀ですし、従来の駒組みではあまりにも受け身過ぎるので、飛車先保留矢倉が復権する可能性は相当に低いと見ています。

もし、飛車先不突き矢倉ができれば雀刺しが面白いと見ています。▲4六銀・▲3七桂型はポピュラーな指し方ですが、個人的には大駒の働きが悪いように感じるので、あまり本筋には見えません。

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